第29話 最終日の楽しみはお買い物 その4
ベトナム再入国はややてこずったものの、無事にHCM市内に入り、注文していたアオザイをGET、行き以上に限られた時間で悔いの無いように動き回った。
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ベトナムのタンソニャット空港に到着後、料理長は念のため“トランジット”である旨を伝えたが、これが変な意味で裏目に出るのだった。
ご機嫌な雰囲気の係員に、クーポンとシールを渡され、「とりあえず、インフルエンザの事があるので、そこを回ってください」という。
そのまま、言われたとおり、体温を測定する機械の前を回って、その係員の所に戻ると、「はい、ではこちらに行ってください」という。
「いや、8時間あるから一旦出ます」と料理長が言うものの、相手に中々うまく伝わらない。
しかし、今までの経験を活かして無理やり納得させ、入国口に並んだ。
そこでも、揉めてしまった。
「トランジットなら、あっちだ」と係員が言う。
それを無理やり「アオザイを取りに行く!」と言い放ち半ば無理やり入国してしまった。
店長は、一連の動きを冷静に見て、「余計な事を言わないほうがよかったのでは」と感じるのだった。
実際店長の出国時には何も言わなかったのですんなり終わったし、下手に「トランジット」と言ってしまったので、係員が丁寧に教えていただけかもしれないと感じたからであった。
そう思いながらふと、隣を見るとやはり同じように一時的に出国しようとする人がいて、やはり少し揉めているのを見るのだった。
無事に空港の出口に到達し、タクシーのチケットを買いに行く。アオザイの店のネームカードを貰っていたのでそれを見せて、チケットを貰おうとすると、「10米ドル」と言い出す。ベトナムドンに直せば「18万ドン」位に相当し、明らかに法外な値段であった。
「話にならない!」と料理長は一言吐き捨てるようにつぶやくとあっさり断り出口へ。
当初バスに乗ろうと料理長が言うものの、バス乗り場は“国内線”のターミナルから出ていて、やや距離がある。
その上、研修初日以上に時間が無いこの状態で、路線バスでゆっくり移動するのは明らかに無謀と店長は判断。それを拒否した。
不機嫌な料理長と歩いていると、悪徳タクシー業者の餌食になってしまった。
それを無視しながら、タクシー乗り場のほうに向かうと、ここに“神”のような存在と遭遇した。
それは、ベトナムで最も信頼が置けるタクシー会社ともいえる“VINA”の担当者であった。
「必ずメーターで」念を押す料理長に、大きくうなずく担当者。
やがて、VINAのタクシーがやってきて、ネームカードを見せタクシーは市内に向けて走り出した。
途中、渋滞に巻き込まれるものの、少しずつは動き出す。しばらくして“ビックC”の看板を発見。
「ベトナムにもビックCが出来たんだ」店長がつぶやくと料理長も驚いていた。
やがて見慣れた風景が見えてくると、
“タンディン市場”が見え、その前でタクシーは止まった。
料金は6万ドン、チケット屋の3分の1の価格で来る事が出来たのだった。
目の前は、仕立ててもらったアオザイのお店。
中に入り、引取りの紙を見せると奥から注文どおり出来上がったアオザイが登場し、料理長が試着をした。
残金20万ドンを支払って、アオザイを引き取り、目の前のタンディン市場で買い足りないものを見に行ったが、既にショップは閉店していた。
しかし、料理長がこのお店の人に電話を借りて、“ユキ氏”に再度連絡。
行きのタクシーの中で見た “ビックC”に行けば、いろいろ揃っていて、夜10時くらいまで営業しているとの情報を得ることができるのだった。
この後の予定は、前回見たスイーツのお店に向かい、バナナのパンケーキなどを購入。
これらは、帰国後お客さんへのスペシャルメニューとして提供する予定のものであった。
パンケーキ以外でも数点のスィーツ類を購入した後、食事に出かけることになった。
場所は、2人の間で無意識に決まっていた。
その名は、“ホアイエン”料理長がベトナムのHCMに来ると、大抵立ち寄るお店で、
いつもは市の中心部にある所に行くのだったが、今回は、これまた前回確認したハイバーチューン通り沿いの店。
実はここが本店と言うことで、タクシーを捕まえ、案内してもらう事にした。
「ホアイエン」と言っても予想通り、運転手はチンプンカンプンの表情をしていたが、「とりあえずハイバーチューン通りを走ってくれ」と指示を出し、後は2人で店の看板を探す事になった。
ちょうど、夕暮れで通勤から帰る人の関係か、通りは渋滞に近い状態であったが、逆にゆっくり走ってもらえるので、ホアイエンの看板をチェックするのには適していた。
ハイバーチューン通りを、5・6分走った頃、ついに“ホアイエン”の看板を発見。
その場で降ろしてもらい、店の中に入った。