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39.二度目の口付け

ルチアはマグリッドと話をした後、一日中手紙を書いていた。

突然飛び出してしまったルチアが突然またコンスタンツィ家に戻ることは出来ないと思い、先ずは手紙を書くことにした。


相手はレオポルト、それに使用人達にもだ。


突然出て行ってしまった事へのお詫び、今までお世話になったお礼。そしてレオポルトには自分の気持ちを全て手紙に綴った。いわゆる恋文である。


何度も何度も書き直して、書き終わった頃にはもう外は暗くなっていた。読み返すと身悶えするように恥ずかしい気持ちになる。

だが手紙の内容は全てルチアの本心だった。


彼女はペンを机の上に置き、小さく息を吐いた。

どんな結果になろうとも全部気持ちを伝える覚悟は決めた。後はこの手紙を出すだけである。

今日中に出すのはもう無理なので、手紙は明日出そうと折り畳み封筒の中に入れた。


その瞬間、バンッと大きな音を立てて扉が開いた。


「姉様!!」

「え、エリク?」


突然入って来たのは弟のエリクだった。いくら姉弟でもノックもせずに入ってくるのは紳士として如何なものか、ルチアは弟に説教をした方がいいのか迷っていると、彼は衝撃的な言葉を放った。


「大変だよ!コンスタンツィ卿が来た!」

「え?」


驚いているとエリクに手を引っ張られルチアは立ち上がった。

彼に引っ張られたまま、玄関ホールに到着する。


そこではヴィーゴとレオポルトが真面目な表情で対峙していた。


「父様!」


エリクが声を上げると、二人共こちらに視線を向ける。


「ルチア!!」


そう声を上げたのはレオポルトだ。彼はルチアの姿を見た途端、慌てた様子で近づいて来る。


「レオ様……」

「ルチア」


レオポルトに見つめられ、ルチアは途端にその視線が恥ずかしくなって俯いてしまった。


「ルチア、話がしたい」


ルチアは何も答えられなかった。

覚悟を決めたはずなのに、いざとなると離縁を言い渡されたらどうしようと不安になったのだ。

話さなければならないと分かっているのに、なかなか声が出てくれない。


「ルチア」


その時背中をポンっと軽く叩いたのはヴィーゴだ。


「お父様?」

「ルチア、逃げずにきちんと話し合いなさい。お前は今、コンスタンツィ家の人間で彼の妻なんだ」


ヴィーゴに背中を押され、ルチアはレオポルトと話す決意を固めた。


「はい。……レオ様とちゃんと話します」


ルチアはレオポルトを応接室に案内した。

ここは彼に初めて会った場所でもある。この場所を選んだのはまたきちんと最初から始めれればいいのにと願ったからかも知れない。


部屋の中に入った瞬間、レオポルトに腕を掴まれたルチアは驚いて振り向いた。


「レオ様?」

「ルチア、本当にすまなかった」


彼が頭を下げると、ルチアは慌てて首を横に振る。


「レオ様は悪くありません。私が……」


彼女の言葉を遮るようにレオポルトが続けた。


「ルチアは何も悪くない。私が不甲斐ないばかりに君を傷つけた」

「そんな事ありません」

「ルチアを追い詰めた。君にあのような言葉を言わせてしまったは私のせいだ。それなのに、怒鳴ってしまって……申し訳なかった」

「違います!あれは、私が勝手に!」


レオポルトは、ルチアの腕を掴む力を少し強めた。


「ルチアが援助の件で私に恩を感じているのは分かっている。

だからこそ恩を返そうとあんな事を。

ルチアが恩を感じる必要はないんだ……あれは全て私が自分の為にした事なんだ」


彼の申し訳なさそうな表情に、ルチアは悲しくなり目を伏せた。


「レオ様は私に良くしてくださいました。私だけじゃなく家族にも。全て自分の為だなんて……そんな気を遣ってくださるようなことを言わないで下さい。私達を助けることのなにがレオ様の益になると言うのですか……」


辛そうな表情を浮かべるルチアの姿に、レオポルトは顔をしかめた。


「そもそもが間違いだったんだ。ルチアに期間限定の妻になれなどと……」

「え?」

「あんなことを言うべきじゃなかった」


ルチアはその言葉に衝撃を受けた。

期間限定の妻としての約束まで否定されたら、自分の存在が無意味になってしまう気がしてルチアは目の前が真っ暗になった。


「ルチア、訂正させてくれ」

「て、訂正?」


ルチアが戸惑っていると、レオポルトは地面に膝をつき彼女の手を取る。


「ルチア、期間限定などではなく、私の本当の妻になってもらえないだろうか?」


レオポルトの言葉にルチアは固まった。その意味を理解するのに暫しの時間が必要だった。


「え?……えぇ!?」


ルチアが混乱していると、レオポルトは手を握る力を少し強めた。


「ルチアにあんな態度を取ってしまった……嫌われても仕方がないと思っている。

だが私は本気だ。ルチアが了承してくれるまで諦めるつもりはない」


真剣な表情で見つめてくるレオポルトの瞳は熱を孕んでいる。その事実にルチアは狼狽した。

一体何かどうなってこのような状況になっているのか、ルチアにはさっぱり分からなかった。


「ち、ちょっと待ってください。レオ様は私に期間限定の妻になれと仰いました。

アラーナさんの病気の事で、彼女に心配をかけない為に結婚しただけですよね?」


先ず一番気になっていた事を質問してみた。しかし、レオポルトは慌てた様子でそれを否定する。


「誰がそんな事を言った!?」


驚いているレオポルトを見て、確かに誰かにそう言われたことはないとルチアは気が付いた。


「アラーナの事は……確かにその為に結婚を考えたのは事実だ。

だが、私はルチアに初めて会った時からずっと忘れられなかったんだ。だから、求婚した」

「初めて?ここで会ったときですか?」

「違う、晩餐会で見初めたと最初に話したはずだ!」

「晩餐会なんて、二年半前くらいに行ったっきりです!」

「だから、その時だ!」


レオポルトが張り上げた声に、ルチアは驚愕する。ここで会う前にルチアは彼に出会っていた。しかしルチアはどんなに考えても出会ったという記憶が見当たらなかった。

しかし、晩餐会の事はうっすらと覚えている。


「で、でも、あの時いませんでしたよね…?」

「いたんだ。いや、正確には晩餐会には出席していないが……」


レオポルトはポケットの中からハンカチを取り出し、それを広げた。


「それは……」


ルチアが初めてデザインしたアイリスの花のハンカチ。何故レオポルトがそれを持っているのかルチアは不思議に思った。


「初めて会った時にこれを君から貰った。このデザインはルチアが15歳の時に初めて採用してもらったデザインだと君は嬉しそうに話していた」


ルチアは焦った。

全く覚えていない。そもそも、あの頃は会う人会う人にカファロ織を知ってもらう為に製品を渡していた。

その中の一人がレオポルトだったのだろう。

全く覚えていないことを凄く言い辛い。

ルチアの様子にいち早く勘付いたレオポルトが苦笑する。


「ルチアが全く覚えていないのは分かっている。だが、私は覚えている。

君が嬉しそうに話していた笑顔に私は惚れたんだ」


その瞬間ルチアは顔を真っ赤に染めた。

まさかこんな直接的な言葉を聞かされるとは思ってもみなかったのだ。


「愛しているルチア。私の妻になって欲しい」

「私……」

「直ぐに好きになってくれとは言わない。だが、考えて欲しい」


ルチアはポロポロと涙を零す。レオポルトはそれに焦った。


「そ、そんなに嫌か?」


ルチアは慌ててレオポルトの手の上に手を添えた。


「ち、違います。私……その、レオ様の側にいていいんですか?」

「ルチアが側に居てくれるなら、何でもする」


信じられないことが目の前で起きている。ルチアは奇跡だと思った。

つい感極まって、レオポルトに飛び込むように抱き着いた。


「る、ルチア!?」


驚いたレオポルトはそのまま後ろに倒れ込みそうになるが、なんとか彼女の身体を支える。


「好きです。私もレオ様が大好きです」


ルチアは自分の気持ちをやっと言葉にして伝えることができて嬉しかった。彼の胸に顔を埋める。


「本当か……?」


困惑した声が頭上から聞こえてくるが、ルチアは恥ずかしい気持ちになりながらもそれを肯定する。


「はい。好きじゃなきゃ、あの時何でもしますだなんて言ってません!!」


レオポルトは破顔するとルチアをギュッと抱き締めた。


「ルチア…私の妻になってくれるか?」


レオポルトの質問に、ルチアは顔を上げ、深刻そうな表情を浮かべた。


「……レオ様、大変です」


彼はその表情に焦ってしまう。


「な、何だ?」


心配そうな表情を浮かべて返答を待つ彼に向かって、ルチアはとても嬉しそうに微笑んだ。


「私、もう妻です」


そう言うとレオポルトも嬉しそうに笑った。


「ふっ、そうだったな」

「はい!!」


二人は笑いあった後、視線を絡ませた。

そして初めてお互いを想い合い、二度目の口付けをした。






終わり

ルチアとレオポルトの物語にお付き合いいただきありがとうございました。

ここで一旦完結です。

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございました。完結まで続けられたのも皆様のおかげです。

新作も現在作成中ですので、また見かけたら読んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました。

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