STAGE13:撤退
―――――――――――現実世界 日本国首都
「見てください!!東京上空に現れた謎の黒い渦を」
“ブロブロブロブロ”
大和テレビと書かれたヘリコプターは東京都中心部をぐるぐる回っている。
「あ、渦の中から何かが降りてきます。な、何なんでしょうか?近づけてください」
リポーターはマイクを持ちながら渦の中心部へと近づく。
「こ、これは、まるで、ドラゴ」
ドラゴンと言おうとした時、通信は途絶えた。
―――――首相官邸
「渦からモンスターが現れただと?直ちに国防軍を派遣しろ!!それと、高須ホールディングスの特殊部隊とデーモンデリーターを派遣するんだ!!」
「し、しかし、公にMET兵器を使用している部隊があるとバレたら我が国は国際非難を浴びます」
「我が国は実質世界の100年先を行っていると言っても過言ではない。シャンバラに技術を与えたのは我が民族だ。我々の行為を黙って見ているしかないのだ」
「はぁ・・・・ん?」
副首相は首相官邸でグラグラ動き出した棚を見る。
「じ、地震か?」
軽い揺れだと思っていたのが束の間。
「う、うわあああああ!!」
「く、な、なにが、お、起こっているのだ!!」
次々に棚から荷物が崩れ落ち、窓ガラスが割れ、破片が飛び散る。
「く、くそ、なにがどうなっ・・・・」
“グシャ”
首相の言葉はそれ以上続かなかった。
―――――――アガルタ共和国
「さ、さっきの地震は?」
アスガがいない以上、この国の指揮権は自動的にイリヤに移る。イリヤは地震の揺れが収まったのを機に、メイド達のいる部屋に入ってきた。
「もう収まりました。しかし・・・」
「わかっています。まだ、モンスター討伐完了していない南部からのモンスター侵攻ですね。この揺れならば、城壁が崩れていてもおかしくはありません。予備軍を出しなさい!!」
軍事訓練問名目で、北と東のモンスターを駆逐し、開拓した。しかし、南部は険しい山脈地帯で、山脈でモンスターの侵攻を防いでいるが、逆に険しい山脈のせいで駆逐できないのだ。
唯一の平地に城壁を作り、モンスターとアガルタ管理局軍の侵攻を防いできたが、城壁が崩れているかもしれない。
イリヤはメイドに指示を出す。
「し、しかし、トップであるアスガ様もフィオナ様もいないのですよ」
フィオナは副指揮官であり、メイド達からももはやイリヤはお荷物みたいな扱いを受けている。
「構いません。いまのこの国のトップは私です。国民を守るのは私の義務です。それに、もう、何もできない。お飾りの国のトップは嫌なんです!!私が動かなければ誰が動くのですか!?今すぐに城兵を動員し地震の被害を確認次第、城壁の修理を行いなさい!!」
「・・・・わかりました」
かつてのイリヤとは大違いの的確な指示の出し方にメイドを半ば驚きつつも少し嬉しい。
(アスガ様・・・どうかご無事で)
「アスガ様・・・しっかり!!敵はどこですか?」
呆然とするアスガを周りは驚いたような目で見ている。
(敵・・・・?敵なんてもういない・・・)
「アスガ様!!」
「アスガ殿!!」
仲間たちが次々に集まってくる。
(そうか・・・そういうことか)
俺はまだ死ねない。これから起こりうる未知の危機に、国民を守らないといけない。
(イリヤも困っているだろう)
あいつのことだ。どうしましょう、どうしましょう。といってメイドを困らせているに違いない。
「敵は・・・いない」
「た、倒したんですね?」
「違う。端から敵なんていなかったんだ。あいつらこそ、アガルタを思い、アガルタのために死んでいったんだ」
「へ?」
「ど、どういうことなのだ、アスガ殿?」
フィオナに引かれて立ち上がる。
「ありがとな。フィオナ。話はあとだ。もうすでに世界の融合は始まった。何が起こるかわからない。早めに国に戻るぞ」
「え?」
「じゃあ、間に合わなかったってことですか?」
「だから、話はあとだ。今は生き残ることは考えるんだ!!」
「「「「「りょ、了解」」」」」
アスガ一行は最上階から飛び出ると、山頂に飛び出て、一気に斜面を下る。
「おいおい、ここアガルタだよな?」
「ええ・・・・・なのに」
現実世界と融合したせいか、あちらこちらにビルがそびえ立ち、近くには地震により崩れ去り火災により燃え広がった都市と、モンスターに襲われている都市等が見受けられる。
地形が完全にずれている。
「ヘリだ!!ヘリが飛んでいる」
ユーマは“”ブロブロ“という音に反応した。
「放っておけ」
ソーマは冷たく無視するが、アスガだけは違った。
「あのヘリ・・・載せてもらおう」
双発のヘリで、長距離を飛べる輸送用のヘリだということを確認すると、
「ウォルダー・・・信号弾で救難信号出してくれ」
「了解!!」
ウォルダーは言われた通りに真上に信号弾を打ち上げる。
「気付け!!」
「・・・・なんか点灯していますが」
「もう一発撃て」
「了解」
「お、降りてきます」
「き、君たちは一体・・・・」
巨大な剣やガンブレード、狙撃銃に鎧やらなんやら変わった装備をしている集団と思われているだろう。
「俺たちは・・・・というよりも、A.S・・・オーレリシア・ストーリーというゲームをご存知ですか?」
「わからない」
「そうですか・・・・なら、ミラージュ・プログラムって知っていますか?」
これならば全世界の軍隊で軍事シミュレーションをしているからわかるだろう。
「ああ。我が軍でも戦闘シミュレーションとして使っている」
「MPで作られた仮想世界。それがA.Sです。今起こっているのは仮想世界と現実世界が融合されたから起こっているのです」
「ハハハ、軍人をからかっちゃいけないよ。何を馬鹿なことを」
まあ、いきなりこんなこと言われても分かるわけがないだろうな。
「見ててください。ソニックウェーブ!!」
誰もいない方向に向けてアスガはソニックウェーブを放つ。
“シュン”
その一瞬で、放った方向の木々がバサバサ倒れていく。
「どうです?これが、ゲームの世界です」
口をカタカタ言わせて、唖然とする軍人。
「し、信じようではないか」
「それで、あなたがたは?」
「あ、ああ。EU軍イベリア半島方面軍第三十八ヘリコプター中隊所属機だ」
大災厄後、オーレリシアを統合しようという動きからできた機関EU。
「EU軍ですか・・・・何をしにここに?」
「ここにはな・・・バルセロナって都市があったのだ。謎の生物に襲われているから救援をという報告を受けたあとに巨大地震が発生の、報を聞いて来たのだが・・・」
「埋まっているのか・・・・・」
その事実に背中が凍えた。
「本当に未知の危機だな。ならば任務は?」
「うむ、それが困って旋回していたら君たちに出会った。ということだ」
「なら、我が国まで送って行ってもらえないでしょうか?」
アスガは頼み込む。
「近くならいいんだが・・・どこだ?」
どこだって言われても・・・現実世界でアフリカに値する大陸だから、
「アフリカ大陸の中部にあります」
「・・・・遠いな。流石にそれは出来ない」
「そうですか。しかたがない。全力で走るぞ!!」
アスガは一言告、遠くへ飛んでいった。
「ま、待ってください!!」
「お、置いていかないでくれ!!」
「で、では、これにて」
アスガ一行はヘリに乗せてもらうことを断念。自力で戻ることにした。
「い、一体彼らは人間なのか?ヘリで私たちが送るよりも早いのではないか?」
あっという間に消えていってしまった彼らを人間と呼ぶにふさわしいのか・・・
体調は困り顔をしていた。
「わかりません。それでも一言言えることは・・・・」
「うむ。我らの目の前に危機が迫っていることだな」
「グヲォォォォォォォォォォオオンン」
「全軍射撃開始!!」
“ドォドォドォドォオォドォ”
“グシャ”
「ギャアアアアアアア!!」
彼らに出会えたものはいない。