STAGE15:決意
「止まれ!!」
東村防衛線である砦の前に現れたのは、馬と木で出来たチャリオットと呼ばれる戦車に乗ったどっかの誰かさん。
「貴様・・・名を名乗れ」
「・・・・プトレマイオス共和国国王プトレマイオス・メンティフィスだ」
「!!・・・・かのプトレマイオス共和国国王がなんのようだ?」
「君たちの国のトップ・・・アスガ君とお話がしたくてね」
「ア、アスガ様をアスガ・・・君だと!!」
兵士たちは一斉に狙撃銃と大砲を構える。
「ふふ・・・君たちは客人をまともに扱えないほどの人間かね」
「なんの騒ぎだ?」
ちょうどいい具合に見回りという名目で顔を出したアスガ。
兵士たちは一斉にアスガにかけより話をする。
イスパーニア防衛戦でのアガルタ管理局を裏切り、人狩りからは裏切り者。イスパーニア防衛戦でイスパーニア側にたった国からは救世主とまで呼ばれるプトレマイオス共和国国王プトレマイオス・メンティフィスが来訪したと。
「・・・・・久しぶりだな」
「・・・・・あの時以来か」
見下ろすアスガ。見上げるメンティフィス。
「貴様ら!!門を空けろ」
「はっ!!」
兵士たちは一斉に砦内に入り、砦の門を開ける。
「話は城で話そう」
「ああ」
―――――アガルタ城
「汚いところだが座ってくれ」
アスガはメンティフィスを自室へと連れていった。アスガの自室は書類やら、武器やらでごちゃごちゃしていた。
「あ、ああ・・・・」
(アイテム欄にしまえばいいだろ)
メンティフィスはこんな馬鹿な奴だったかと、首をかしげながらアスガを見た。
「久しぶりだな」
「ああ。最後にあったのは・・・1年とちょっと前か?」
「そうだな。イリヤをお前のところまで送り迎えをするのが俺の任務だった。貴様らとこの国が不可侵を結ぶために」
「今となってはこの国の王様か・・・」
「ふっ・・・で、こんな昔話を言うためにここに来たわけではないんだろ?」
「ああ。話したいことがあってな」
「話したいこと?」
アスガはふとある事を思い出す。
メンティフィスが話しておきたいといった事例を思い出す。1回しかないが、その1回がどうも印象深すぎて・・・
「ああ」
「何も言わん。とりあえず言ってみろ」
「カルタゴ内で戒厳令が出ているのは知っているか?」
「戒厳令・・・何故?」
「お前らのお姫様が逃げ出したとさ」
「どういうことだ!!」
「ムキになるな。そのまんまさ。高レベルプレイヤーだろう。アガルタ管理局の包囲網をくぐったらしく、俺の情報網ではそろそろ南カルタゴにはついているだろう。そこでひとつ提案だ」
「・・・何を企んでいる?」
「企むって・・・人聞きの悪い奴だな」
メンティフィスは口元を緩ませニヤリと笑う。その不敵な笑に裏が隠されていた。
「俺はアガルタ管理局打倒のために挙兵する」
「・・・は?」
俺はこいつが目の前で言ったことに理解できなかった。
「その手始めにカルタゴを奪還する。そのついでだ。貴様らも皇女様探しで挙兵しろ」
「成程。それが真の狙いか・・・確かに悪くない提案だ。だが、俺たちにも守るべきものはある。皇女一人のために、この国を滅ぼす気はない。いつどこであいつらが監視しているのかもわからない。俺たちと交渉するためにあいつはさらわれたんだ。下手な動きは出来ない」
「まあ、貴様がこないのは勝手だが、戦闘に巻き込まれてどこかの国のお姫様が死んでも俺は知らんけど・・・そういう話だ。もし挙兵するなら、明日の朝7時。この国の東村砦の近くにいる。5分を過ぎた挙兵しないと見る」
「くっ!!」
アスガは一瞬こいつを殺そうかどうかで迷った。だが、今ここで殺したら俺たちはアガルタ管理局だけでなくプトレマイオス共和国までもを敵に回すことになる。それだけはどうしても避けたかった。
「では、俺は帰る。いい返事を期待しているよ」
そう言うと再び不敵な笑みを浮かべてメンティフィスは帰っていった。
“バアアァァン”と大きな音が響く。
「くそっ!!汚ええぞ!!」
アスガは近くの壁をただ力任せに殴りつけた。
「・・・・アスガ様」
そんな醜態を晒しているときにふと聞こえる声。自分の名前を呼んでいる。
「・・・フィオナか。どうした?今の話聞いていたのか」
「・・・はい」
「そうか・・・・」
見られたくない所を見せてしまったな・・・
ため息をついてから少し間を開けてアスガは再び口を開いた。
「ひとつ聞いていいか?」
「なんですか?」
「俺はどうすればいいと思う?」
「へ?」
「今まで独り身だった俺にここは新鮮だった。人を殺すために培った力が人を守るために使えてすごく嬉しかった。お前たちと過ごしている日常がものすごく幸せで・・・・だから、この空間を壊したくはなかった・・・・」
いつも強気で冷静のアスガが何故このようなことを口にしているのだろうか?フィオナはいつにもなく弱々しく感じるアスガを見てそう思っていた。
「イリヤが誘ってくれなければ、俺は未だに復讐と言う名の一人旅を続けていただろう。誰の手も借りずに、一人で。だから俺はイリヤに感謝しきれないほどだ。だから俺はあいつを助けに行きたい。どこにいるのかもわからないけど、でも、それで、この国が・・・攻撃されていたらって考えると・・・・動けないんだ!!」
俯いていたアスガが突然自分の顔の目の前に肩をつかんで泣いていたのだ。フィオナのなかにある“アスガ”の印象は崩れさった。
冷静で、強くて、頼りのある良き指導者。その印象が崩れさり、本当はとても弱く、人間らしい人なのではないかと。
「俺・・・何か弱くなっちまったみたいだ・・・・ははは・・・はは・・・」
「・・・アスガ様」
「ん?」
「私たちはそんなに頼りないですか?」
「えっ?」
「フィオナはそんなに頼りないですか?」
「そんなことはない。いつだって頼りにしている」
「嘘です!!」
「!!」
今までアスガが感じたことのない声で強くはっきりとフィオナは言った。
「そんな言葉じゃ・・・騙されませんよ」
一歩一歩とアスガに近づくフィオナ。だが、その姿にいつも感じられるフィオナのピリピリとした感じは伺えなかった。
「・・・今まで一人で戦ってきたのですね・・・アスガ様」
“ギュッ”と体が締め付けられる感触がする。だが、苦しい感じはない。優しく、包み込まれるような。
「・・・・・・」
「今はひとりじゃないのですよ。私たちじゃ心細いかもしれませんけど・・・頼ってください」
「ちっ、違うんだ・・・こ、こんなに暖かく・・・俺を迎えてくれた人たちが・・・傷つくのが・・・怖かったんだ。だから・・・だから・・・」
「泣きたいのなら・・・どうぞ。これぐらいでもアスガ様の役に立てるのなら・・・本望です」
アスガの涙腺は限界だった。
「うっ・・うっ・・うわああああああ」
アスガはフィオナの胸に抱かれながら大声で泣いた。子供のように泣いた。久しぶりに泣いた。何年ぶりかに泣いた。健介が死んだとき、あの娘が死んだとき。泣いている暇などないからといって泣かない決意をしたのに。
これで“涙を流さない”という決意に反するのは2回目だ。
「あ、あの・・・フィオナ」
「ひゃい!!」
「・・・そ、そんなに驚かなくても」
突然呼ばれて声を裏返すフィオナ。二人ともさっきのことが原因で気まずくなっている。
「で、どうしたんですか?」
「さっきは、その・・・ありがとな」
「い、いえ・・・」
なんでこの人はこの話を盛り返すんだ。ただでさえ気まずいのに。この気まずい空気を作り出したフィオナは心の中で思っていた。
「俺決めたよ」
「何をです?」
「俺・・・挙兵する」
「アスガ様」
「挙兵して、イリヤを助けて、カルタゴを奪還する!!」
「ようやく腹を括ったようね」
「「!!」」
不意の声にアスガとフィオナは後ろを向く。そこには欠伸をしながらこちらを見ているクローデリアだった。
「い、いつから・・・そこに?」
「ん?だいじょうぶ。あなた達の仲睦まじい姿は黙っておくから」
「クローデリア!!」
フィオナは顔を真っ赤にしてクローデリアに講義をする。
「で、それは置いておいて、挙兵っていってもどうする気?」
「カルタゴ奪還なんだから元カルタゴ第二師団を使う。だから、フィオナ」
「はい」
「アガルタ共和国国王として命じる。俺たちがいない間、この国を絶対守れ」
「はい」
「そしてアリ一匹と押すな」
「はい」
「最後に・・・血で汚れた人狩り共に国土を穢させるな!!」
「はい・・・・では、わたしから」
「ん?なんだ」
「必ず帰ってきてください。帰ってくるまで私たちはここを守り続けますから・・・」
「・・・ありがとう」
アスガは今までにしたことのない満面な笑みを浮かべた。フィオナは自分でも気づいていないほどに自然と笑っていた。
「あーあ・・・みてられない」
近くでつぶやくクローデリアだが、二人とも全く気付いていない。
「でも・・・これでようやく・・・国土を取り戻せる!!」
胸に秘めていた彼女の国土奪還という悲願はもうすぐ始まる。