STAGE13:耐えてくれ
「これとこれ。やっておいてくれ」
「わかりました」
そう言うとユーマとソーマはアスガのいる部屋から出ていった。
「ふぅ・・・・」
とりあえず、この国にするべきことはした。人口も増加の一途をたどり、アガルタや旧カルタゴ領からの亡命者。一部スパイも含まれているが、だいたいは捕まえているつもりだ。
人口20万人。国家としての規模はまだ小さいが、国の周りを覆う城塞にはどんな強国でも迂闊には近寄れまい。だが、何か足りない。しかし、これ以上することもないのに何かが足りない・・・・
「そうか・・・あいつがいないんだな」
「このごろのアスガさん忙しそうだな」
ユーマは隣のソーマに声をかける。だが、ソーマは分かりきった口調で言う。
「イリア様がいないからだろう。落ち着かないから、紛らわすために仕事をやっているのだろう」
「この前は一人で外に出て大量とか言って、この国を警戒して偵察に来ていた兵士を国に関係なく皆殺しにして帰ってきたましたからねえ」
「俺が知る限り西村へ行って、ソニックウェーブで海を切って魚や海上モンスターが大量とか言って西村の人々に喜ばれていましたから」
「南村ではソニックウェーブで木をなぎ倒し、鉱山では突きで鉱石をザックザックと・・・」
「落ち着きのない人ですね」
「あの冷静な人が・・・」
「アスガ様!!もうイリヤ様がいなくなって2週間。これからどうするつもりですか!?」
「どうするつもりもない。イリヤ一人のためにアガルタ共和国を、20万に達した国民を見殺しにするつもりはない」
「ならあなたは・・・イリヤ様を見捨てるつもりですか」
「黙れ!!」
アスガは感情に飲まれるままフィオナの襟をつかみ壁に叩きつける。アスガの怒鳴り声が響いた。
それはフィオナが今までに聞いたことのない怒声だった。
「ア、アスガ・・・様」
「俺は感情論で物を言ってるんじゃない。現実を見ろフィオナ!!」
「見ています!!」
「いや、見ていない!!この国の民はアガルタ管理局からの人狩りとその圧力から恐怖で逃げてきた人々ばかりだ。ようやく得られた平穏をお前はぶち壊す気か!!」
「フィオナ・・・・アスガ殿がなぜこの国を強国に作り変えようとしている意図が分かっているのか?」
沈黙を貫いていたクローデリアもさすがのこの状況に観念したらしく口を開いた。
「分かっている!!でも」
「あんたが一人でイリヤ殿を取り戻そうとするなら止めはしないよ。けどね、私も、私の部下もみんな大切なものを失って、国のために死ぬことをやめるという屈辱に耐えてここに亡命した」
「大切なものならこの国の民は皆失っている。失うものがなければこの国にはこない。失ったものがなければアガルタ管理局の恐怖など知らないはず」
「なら、あんたでもわかるでしょ。最後の本当の楽園はどこか?最後の希望をかけるために私はここに来た。私たちはこの世界のためにアガルタ管理局を潰さないといけない。あんたが死のうが生きようが勝手だけどね、私の邪魔しようってんなら・・・殺すよ」
「二人ともいい加減にしろ」
「すみません」
クローデリアはフィオナの襟を掴みっぱなしのアスガに頭を下げた
「すまないフィオナ。今は・・・今は・・・耐えてくれ」
襟を離したアスガは嗚咽を我慢して、フィオナに命令した。
「・・・っ・・・は・・・い・・・」
その頃
――――旧カルタゴ領中央カルタゴ
「た、助かりました・・・」
「まだ、助かってないけどな」
「いえ、でもとりあえず難所は乗り越えられました」
カルタゴ領北カルタゴで船に乗せられそうなところをウォルダーに助けられ、いくつもの関所を通り抜けて、追ってからの攻撃を防ぎようやく中央カルタゴまで二人はたどり着いたのだ。
「しかし、そのアスガって奴。準備のいいやつだな」
「なんでです?」
「あんたが持っていたN.S.A・・・・それどんな高レベルプレイヤーでもまず持っていない激レアアイテムだからな。Not Search Accessoryの略。装備するだけでレベル関係なくステルスを装備させる。説明聞かなかったか?」
「一年ぐらい前に聞いた気が・・・」
「そのおかげで脱出にずいぶん時間を省けている。いい人を持ったな」
「はい!!」
満面な笑顔を浮かべて返事をするイリヤ。
「それだけの元気があればまだいけるな?」
「はい」
「ならこのまま突き進むぜ。山の中で野宿はしたくないからな!!」
二人は進む。アガルタ共和国を目指して・・・