1話 未登録ダンジョン
俺「八尺 流星」は、この世界でただ一人の『ジョブなし』の存在。いわゆる無職だ。
生まれつき魔力のなかった俺は、こうなることが分かっていたけど、どこかで期待してしまっていた。
「遅ぇぞ、不良品!」
「カハッ」
『ジョブ』がなければ当然ハンターにもなれない。
ハンターには、S〜Fまでの等級が存在していて、まともにハンター活動ができるのは、D級以上。EやF級、それに俺みたいなジョブなしは、採掘班か建築班に志願するしかない。
それが嫌なら、他の職業に就くしかない。
けど俺には、どうしても早く大金を稼がなくちゃいけない理由がある。
7つ離れた14歳の弟「一」は、生まれつき心臓が弱く、『ジョブ』を授かった1年後、医師から5年の余命宣告をされた。
だけど希望はまだ断たれてない。
中国には、どんな病でも癒せる『神託者』の名を授かった凄腕の『医師』がいるらしく、一度の回復につき3億円を払うことが条件とされている。
神託者・・・・・S級の中でも飛び抜けた能力を有する者たちのこと。各国では国宝扱いされている。
後一億。なんとしてでも稼いで、必ず助けてやるからな一。
両親を亡くし、幼馴染も離れていった俺にとって、残された唯一の家族だから。
「クッ」
どんなに貶されても、酷い扱いを受けようとも、絶対に諦めない。
「おい! いつまで遊んでんだ。ここは仮だが、B級ダンジョンなんだぞ。もう少し緊張感を持て!」
「はいはい」
今この場には、A級ハンター3名と、B級ハンターが10名、C級ハンターが20名ほど集められている。
その他には、採掘班と雑用の荷物係が計100名ほど集められている。ちなみに俺は、荷物持ち。
「今回俺たちに与えられた仕事は、未登録ダンジョンの調査だ」
ダンジョンとは、魔力の誕生とともに世界各地で突如出現した存在。形・規模・仕組みは様々で、洞窟のようなモノから遺跡、既存の建設物がダンジョン化した例も存在する。
ダンジョンには、全体が魔力で構成された『モンスター』or『魔物』が存在し、討伐したモンスターから得られるアイテムや、ダンジョンから採取・採掘して得られるアイテムをハンターたちの武器や防具に使用することができる。
また、ダンジョンはハンター同様に難易度が等級分けされている。
A→B→Cのモノが最も多く、これら3つの等級のダンジョンには、ボスモンスターはおらず、核のみが存在している。
「入口での観測結果は、B級相当。しかし、ボスモンスターがいた場合、兵魔以上と認定し、S級ハンターへと攻略を申請することになる」
A級以上のダンジョンには、兵魔→上魔→特魔→魔城級が存在する。分かりやすく説明すると、兵魔はS級ハンター単体での攻略が可能なレベル。上魔は、S級ハンターが10名以上必要なレベル。特魔は、S級の中でも『神託者』と呼ばれる者が単体または複数人で攻略可能なレベル。そして魔城級は、この世の全てのS級ハンターを総動員しても確実に攻略できるとは言えないと仮定されている。
主にダンジョン攻略には4つの役割が存在している。
・攻略班(戦闘を請け負うハンター)。
・採掘班(攻略班の戦闘後、ダンジョン鉱物などの採掘)。
・建築班(等級がA〜Cの時に限り、ダンジョン周辺の環境整備+ダンジョン内の様々な区間に、人が駐在できる環境を整備する(※必ずダンジョン等級に見合ったハンター数名の動向が必須))。
・荷物持ち(攻略班に同行)。
未登録ダンジョンの調査or兵魔級以上だった場合、ボスモンスター討伐後即時、核を破壊するめ建築班は不要となる。
「まっ、仮だとしてもB級。兵魔以上だなんてありえないだろ? 久我さんよ」
久我 勝吾。
今回ハンターたちを指揮するA級ハンターの一人。
会うのは初めてだけど、真面目で責任感のある素晴らしいハンターだという噂をよく耳にする。
小熊 大門。
さっきまで俺に暴力を振るっていたB級ハンター。正直あまりいい噂を聞かないし、会うたび俺はあいつの鬱憤ばらしにされている。
「不良品」。
みんなが俺をそう蔑む。だけど自分でもそう思わざるを得ないから、仕方ないことだとは思う。
だけど、面と向かって言われるのは、いい気はしない。
「そうだな。仮でもB級が兵魔以上に認定されたことは今までにない。他の者もそう気負わずに行こう。それじゃあ、採掘班以外は各々位置に付け!」
「今日も励めよ、不良品」
大門はニヤニヤしながら俺の前へと大量の荷物を投げ捨てる。
「うん。分かったよ」
本当に情けない。
そんな俺もまた、愛想笑いを浮かべながら投げ捨てられた荷物を拾う。
「だ、大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫だよ。あっちでカートが借りられるはずだから、君も使うといいよ」
「うん・・・・・」
俺は採掘班から大きめのキャリーカートを借り、攻略班の最後尾へと並ぶ。
「僕は八坂 光太。F級なんだ。話すのは初めてだよね?」
太縁のメガネに、目元まで伸びた前髪、そして話し方からなんとなく分かる。彼もこっち側の人間なんだろう。
強者に怯える弱者の立場。
俺たちに手を貸してくれる者なんていない。弱者同士ですら・・・・・いや、弱者だからこそ、平気で仲間を裏切るし、陥れる。
「うん。だけど、俺とはあまり関わらない方がいいと思う。君のためにも」
俺自身のためにも––––––––––––。
そうしていよいよダンジョン調査が開始された。
今回調査するダンジョンは、洞窟型。
聳え立つ大きな岩山の麓に存在している。
中は開拓されていないために当然暗闇。
各々が松明や能力で周囲を照らしているけど、一寸先は闇。
背中にジワリと感じる汗。全身を逆撫でる寒気に息をゴクリと飲む。
それでも恐怖心が少しだけ抑えられているのは、隣でずっと会話を振ってくれている彼のおかげだろう。
「––––––––––––あのさ」
「ご、ごめんっ。やっぱり迷惑だったよね」
「いや・・・・・八坂さんは、俺と話すのが嫌だとは思わないの?」
「まさか、そんなこと思わないよ」
「俺がみんなからどう思われているのか知らない訳じゃないよね?」
「・・・・・うん」
「特に今日はあいつもいるし、標的になりかねないと思う」
八坂さんは少し黙ったあと、朗らかな笑みを浮かべた。
「何か気がつかない?」
「・・・・・?」
「僕たち、その・・・・・苗字が同じなんだ」
それは最初から気づいてたけど、それがどうかしたのか・・・・・。
「・・・・・えっ、だから話かけたってこと?」
「うん。もしかしたら、初めての友達になれるかもしれないなって」
笑っているけど、他の人たちみたく見下したり、嘲笑うものとは違う。
「変な奴」
気がつくと、作り物ではない無意識の笑みが、俺の顔へと浮かんでいた。
「改めてよろしくね」
差し出された手を、俺は渋々握り返す。
「うん、よろしく」
「紛らわしいし・・・・・流星って呼んでも良いかな?」
光太は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
全く、引っ込み思案なんだか、積極的なのか分からないおかしな人だな。
信用した訳じゃない。
人は簡単に人から離れていくものだから。
俺自身、命の危機に瀕した時は、悪魔とでも契約してやる。
必ず一を救うんだ。
「各自戦闘体勢!」
妙に焦りが含まれた久我さんの掛け声に、全身へと一気に緊張が走る。
「おいおい、んだよこの数」
「バフ持ちは即時前衛へとバフをかけてくれ。後衛は魔法でのサポートと、俺たちが取りこぼしたモンスターの始末を頼む。行くぞぉー!」
久我さんを筆頭に多くのハンターたちが突如湧いて出てきたモンスターたちへと突進していく。
「いつ見ても本当にすごい」
そう思うからこそ、罪悪感を感じざるを得ない。
一緒に戦えないことじゃない・・・・・命がけで戦っている彼らに対して、俺は毎回侮辱的な行為を繰り返している。
「うわっ」
突如脳天から振ってきた大きな鎌に、俺の体は咄嗟に反応する。
「邪魔だ、どいてろ! 荷物持ち」
一向にモンスターは増え続けている。
それに伴って、前衛の久我さんたちが取りこぼすモンスターの数が増えてきた。
「だだだっ大丈夫?」
「そっちは?」
「僕は大丈夫だけど・・・・・もしかして僕たちここで死んじゃうのかな?」
ダメだ。光太は完全にパニックになってるな。
徐々に負傷者も増えてきて、死者も出てきてしまっている。
俺も今すぐ逃げ出したい。ここにいて何かできるわけでもないし、今は運良く生きているだけ。
逃げたとしても誰も気づかない。外に出て、今預かってる荷物のいくつかを売っても相当な額になると思う。
頭ではそうするべきだと思っても、心が戦いたいと、もう逃げたくないと叫ぶんだ。
「ぐあぁぁぁぁ––––––––––––」
前方から叫び声が響く。
「クソッ、なんでこんなところにクリスタルウルフがいやがんだ!?」
クリスタルウルフ・・・全身が透き通るクリスタルで構成された巨大狼のモンスター。
その瞬間、明らかに場の空気が一変した。
A級ハンター久我さんの死と、本来A級ダンジョン以上でしか見られないクリスタルウルフの出現。
足が・・・・・動かない。
その後も残るA級ハンターとB級ハンターたちで挑むも、瞬殺。
残るはB級ハンターたったの数名と、C級ハンター数名。そして俺たち荷物持ち。
クリスタルウルフの登場でその他のモンスターは攻撃を仕掛けてくる気配はない。しかし、一向に数は増え続けている。
「おい––––––––––––」
血だらけの大門が振り返り、睨む視線が俺へと向けられる。
「ハッ、いい御身分だな〜不良品。おい! 誰でもいいから俺が合図したら、デバフ持ちは不良品に「挑発スキル」をかけろ」
「正気かよ。このままじゃダンジョンバーストが起きるぞ」
ダンジョンバースト・・・ダンジョン内の魔力によって誕生したモンスターが、ダンジョンの許容量を超えた時に起こる現象。限界を迎えたダンジョンから外界へと大量のモンスターが押し寄せてくる。普段はハンターのおかげでモンスターの数を調整できているが、兵魔以上のダンジョンともなると、充満する魔力の濃さに比例してモンスターの生まれる周期も早いため、即時閉鎖する必要がある。
「何、する気だよ・・・・・」
挑発スキルって言ったら、本来は防御特化のハンターに施すモンスターを引きつけるスキルじゃないか。
「うっ!」
大門の大きな手が俺の首を掴み、息ができなくなる。
そして気がつくと、俺の体は放り投げられていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「今だ、やれ!」
その瞬間、時がゆっくりと流れる感覚に陥る。
視界に映る後退するハンターたち。その中にいる大門のニヤついた表情。
あーそうか、俺は・・・・・あいつらが逃げるための囮にされたのか。
クソ、クソ、クソ、クソ、クソ––––––––––––
「あぐっ」
地面に落下した衝撃で右腕と左脚、肋にヒビが入ったみたいだ。
死ねない。絶対に死ぬわけにはいかないのに––––––––––––
「流星!」
幻覚か・・・・・どうしてまだ彼がここにいるんだ?
「何してるんだよ、光太! 無駄死にするだけじゃないか」
倒れた俺の前に背を向けて立つ光太。
F級の君じゃ、死ぬだけだ。
モンスターの群れは、俺たちを逃さないように何重にも円になって囲んでいる。
「––––––––––––弟のためなんでしょ?」
「えっ」
弟がいること自体、幼馴染の二人しか知らないはず。
「僕の母さんも、心臓の病気で苦しんでたんだ。母さんが亡くなった日、たまたま流星たちを病院で見つけたんだ」
俺と同じ・・・・・いや、光太はもう失ってしまったんだ。
どうして今、そんな話をするのか。そう思う暇もないくらい、光太の話に聞き入っていた。
「共通点の多い流星となら、友達になれると思ったのは本当だよ。だけど一番は、一人になるのが怖かったから」
そう言って振り向いた光太の目には、涙が浮かべられていたけど、笑っていた。
「僕のジョブは『代理者』。他人の背負っているものを肩代わりできるんだ」
次の瞬間、俺にかけられていた挑発スキルが、光太に移行する。
「生きて、流星––––––––––––」
すると、今まで動きを止めていたモンスターたちが突如動き始め、一瞬にして光太を跡形もなく捕食した。
「あっ・・・・・あっ」
恐怖で全身が震える。
指先一つ動かせない。
どうして俺には『ジョブ』がないんだ。
どうして何の役にも立たない【称号】なんてものがあるんだよ。
諦めない・・・・・諦めたくない。
俺のために命を張ってくれた人がいる。
俺の帰りを待っている人がいる。
ジョブなしだからなんだ。
今ここで、俺がこいつら全部狩ってやる!
俺は持っていた荷物の中から、短剣2本を取り出す。
思い出すなぁ〜2人と切磋琢磨していた幼いあの頃。
俺は、ハンターになることを夢見ていたんだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
だけど現実は、俺をハンターにはしてくれなかった。
2人は今、どうしてるかな? 噂だと、最強ギルドにスカウトされたとか。
それに比べて俺は今、四肢を捥がれ、悲鳴を上げている。
意識が遠のく・・・・・一・・・・・一・・・・・生きたいよぉ––––––––––––
<称号【不撓不屈】・【盗人】を確認。剣聖の器であると認証––––––––––––進化––––––––––––称号【記憶喪失剣聖】。これより、記憶出力20%のテストを実行––––––––––––テストにあたり、損傷を回復––––––––––––異常なし。実行>




