10話 ジョブ『医師』––––––––––––変身
数時間後。
夕焼け空がだんだんと暗くなり始め、辺りは一層静けさに包まれた。
部屋のチャイムが鳴り、ドアを開ける。
「て・・・・・えっ?」
どうして彼女がここにいるんだ?
それに、ちらりと見える小さなキャリーケース。なんとなく嫌な予感がする。
「今日からここに住まわせてもらうから」
「はぁ!」
突発的に出てしまった俺の声は、山彦となって周囲一帯に大きく響き渡る。
「ビックリしたー。あんたでもそんなに声出せるんだね。まぁとにかく、ここに突っ立ってるのもアレだし、一先ず中に入れてくんない?」
いくら人通りが少ないとは言え、確実に今ので目立ってしまった。
これからのことを考えると、この状況を下手に誰かに見られてしまうのはまずい気がする。
「分かった」
渋々彼女を部屋へ上げると、そそくさと荷物整理をし始める。
「そういえば、まだ名乗ってなかったよね。天音 メラ(あまね めら)。偽名じゃないから疑う必要はないよ。それと––––––––––––」
俺の足元へと、ピンク色のシンプルなケースが付けられたスマホが転がってくる。
「連絡先登録しといてよ。ハッキングすればいつでもコンタクトは取れるけど、いちいち面倒だからさ」
確かに、これから協力関係になる訳だから連絡を取りやすくしとく必要はある。
俺は勝手にスマホを操作し、自分の連絡先を天音さんのスマホへと登録する。
「いや、確かにそれも大事だけどさ、まずいでしょこの状況は流石に!」
年頃の女の子が成人男性の家に泊まるという構図は非常にまずい。
警察に見つかれば、最悪俺は逮捕されるかも。
「大丈夫。私を誰だと思ってるの? あんたが考えてる状況にはならないし、こっちの方が協力する上で都合がいいってだけ」
「いやだけどさ、東京には俺から会いに行くよ」
「ん? なんで東京?」
「え? だって・・・・・東京に住んでるんじゃないの?」
会う前に色々と天才ハッカーについて調べていたら、偶然にも東京に拠点があるんじゃないのかという憶測情報を目にした。
「あー、なるほどね。その情報はガセ。そもそも私は一つのところに留まることはしないし、依頼を受けるハンターたちが東京が多かったってだけ」
本当に、どうして彼女は会って間もない俺なんかにここまでしてくれるんだろう。
一と同世代の子に変な気を起こすことなんて絶対にないと言い切れるけど、万が一にも怖がらせることがないようにしないと。
「分かったよ。だけど、この部屋二人だとかなり狭いよ」
「私は・・・気にしない」
もう一つ、早く強くならなくちゃいけない理由ができたな。彼女のことは、またおいおい考える必要があるけど。
「よしっ、じゃあ早速私の『ジョブ』について説明するね」
そう言うと、天音さんはズボンのポケットから、見ず知らずの男女数名の写真を取り出す。
「私の『ジョブ』は「医師」。まぁ医師と言っても、種類は豊富に存在する。私はその中で、整形分野専門なの」
人は『ジョブ』を授かる際、『ジョブ名』と、その力がどんなものなのか自然と分かるらしい。ただ、他人にはその情報が共有されないため、身分証発行の際に審査を受ける必要がある。
また、『ジョブ』にはユニーク扱いのモノも存在しているけど、世の中に存在している大半の『ジョブ』は、重複している。
それでも全てにおいて共通して言えることは、『ジョブなしの職人』と『ジョブありの素人』が同一の分野で対決した場合、『ジョブなし』は、『ジョブあり』の足元にすら及ばないということ。
俺はそのことを分かっていながら、無謀にも一度きりのハンター適性試験に挑んだ。結果は知っての通り。けどあの時は、一のことで頭がいっぱいだったっていうのもあって、まともな判断力がなかった。
今回は絶対にチャンスを無駄にはしない。
「見てて」
次の瞬間、俺は目の前で起きた光景をただ茫然と眺めるしかなかった。
天音さんは、手に持っていた3枚の写真を小さくクシャクシャに握り潰すと、あり得ないことに、その写真を飲み込んでしまった。そしてその直後、全身が白く発光し始めて光が収まるとそこにいたのは、見たこともない別人。
背丈も骨格も顔も何もかもが別人。
「私は、変身させたい物や人物の写っているモノを体内に取り込めば、解析して、自在に身体の組織を組み換えられる」
もちろん声も男性のように低く、図太いモノに変化している。
「あー、心配しないで。あんたを変身させる時も、写真を食べるのは私だから」
出していないつもりでも、リアクションが表面に出てしまっていたみたいだ。
それにしても、天才と呼ばれるほどのハッキング能力に、人をここまで完璧なまで別人に、それも一瞬で変えられる『ジョブ』。まさに無敵の組み合わせだ。
「変身できる時間は、最長24時間。その間なら、私の意思で変身を解くことができる」
「それでここに住みたいって・・・・・」
「まぁ住みたいっていうか、必要なことだから」
大切なことだからか、俺の言い回すをしっかりと訂正してくる。
「私の『ジョブ』は、人だけじゃなくて物にも適用できるから、あんたのハンターになりたいって夢も余裕で叶えられるってこと」
外見に関しては完璧。
一番の問題であるハンター証も、天音さんのハッキング能力と『ジョブ』の力があれば心配はいらなさそうだ。
「だけど、問題がない訳じゃない」
「だね」
「ハッキングの痕跡を残すことはしないから最初は問題ないんだけど、魔塔連に保管されてる情報を詳しく調べられると、いつかはバレる。だから、周期的にあんたの別人としての情報は全サーバーから削除して、また新しい別人になってもらう。それでも不安要素が消える訳じゃない・・・・・」
「人の記憶までは操れないからね」
いくらネットの情報を操作しようとも、実際にダンジョンで俺の力を目にする人たちの記憶にはしっかりと残ることになる。
数回同様の人と被ってしまえばなおのこと。
だからと言って、力を出し惜しみするわけにもいかない。もちろん、目立ちすぎる行動には気をつけるけど、力を抑えすぎてモンスターをほとんど奪われてしまえば本末転倒。それに、目立ちすぎて犯罪していることがバレることも本末転倒だ。
「へぇ〜やるじゃん」
俺の発言に感心を見せる天音さんの頭へと手を乗せる。
「頼りにしてるよ」
もちろん、俺自身はもっと頑張らなければいけない。
「えっ・・・・・いやっ、今・・・・・えっ」
「ん? どうかした?」
「いや・・・・・何でも、ない––––––––––––ゴホンッ––––––じゃあ、良さそうなダンジョンピックアップしてきたから、明日から早速始めよう」
「だね!」




