第50話:【50日目】魔導サウナと、骨抜きにされた英雄
「……信じられん。魔王軍の幹部が、こんな平和ボケした顔になっているとは」
剣を収めたフレイアは、村役場の応接室でセシル特製のコーヒーを飲みながら、深いため息をついた。
「だが、お前の事情も少しわかる気がする。フレイアさん、あんたもかなり『疲れてる』な?」
「っ……! なぜそれを……」
俺のPMとしての観察眼は誤魔化せない。
彼女の目には、かつての俺と同じ「過労」の色が濃く滲んでいた。
「Sランク冒険者ともなれば、ギルドや国から指名依頼(無茶振り)が絶え間なく来るんだろう。休暇も取れず、常にプレッシャーに晒されている」
「……その通りだ。私は『剣聖』の名を背負わされ、休むことすら許されない。今回の護衛任務も、実は王都の喧騒から逃げ出すための口実だったんだ」
フレイアは自嘲気味に笑い、肩を落とした。
またしても、ブラックな環境で搾取される優秀な人材(被害者)か。
「なら、ちょうどいい。今日はうちの村で、限界まで『整って』いってくれ」
俺は今朝カレンダーから引いたアイテムを起動させるため、彼女を大浴場の奥のスペースへと案内した。
『SSRアイテム【究極の魔導サウナ&オートロウリュ一式】を獲得しました』
『※最適な温度と湿度を自動管理し、自律神経を極限まで整える魔法のサウナ室です。水風呂(霊泉の冷水)付き』
「サウナ……? この熱い木の小部屋に、何の意味があるというのだ」
「いいから、騙されたと思って入ってみてくれ」
数十分後。
サウナで限界まで汗を流し、キンキンに冷えた水風呂に入り、そして外気浴のデッキチェアに寝転がったフレイアは――完全に白目を剥いて昇天していた。
「あぁぁ……体が……溶ける……。剣を振るう理由も、王都のしがらみも、どうでもよくなってきた……。宇宙と、一つになる……」
「(よし、完全に『整った』な)」
人類最強の剣聖の心身の疲労は、ホワイト村のSSRインフラによって跡形もなく浄化されてしまった。
夕方。
マルコが特産品の取引を終えて帰ろうとした時、フレイアはこう宣言した。
「マルコよ、すまないが王都のギルドマスターに伝えてくれ。剣聖は今日をもって引退し、この村の『見習い警備員』に転職すると」
「ええええええっ!?」
マルコが悲鳴を上げる中、俺は小さくガッツポーズをした。
これでまた一人、強力な仲間が増えた。
魔王復活まで、残り315日。
俺たちのホワイト村は、もはやどんな勢力にも止められない魅力を放ち始めていた。
(残り315日。明日は何が出る?)




