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第161話:【161日目】シオン視点:世界全知監視網と、解き放たれた情報支配

「キタキタキタァァァッ! 161日目のアップデート完了! 今日こそ、俺のためにポテチとゲームを運んでくれる最強の全自動ぐうたら執事をドロップして、この面倒な戦いを終わらせてやるッ!」


 魔王城の地下指令部。 ニートの息子リオンは、成果主義のログが超高速でスクロールする巨大ホログラムモニターをバックに、クリスタルカレンダーへと飛びついた。 隣では、黒いストライプスーツを完璧に着こなしたレイカが、昨日までのハッキングツールや承認強制印、即時監査盤を整然と並べ、妖しい笑みを浮かべている。


「さあ、めくるぞ!」


 リオンが161日目の魔導シートを勢いよくスワイプした。


 残り204日 → 203日


 シートから溢れ出した白銀の光の中から現れたのは、小さな掌サイズの、うっすらと青く光る素朴なガラス玉だった。


 SSR【魔導・通信水晶(マナ・クリスタル)】


『※広域の音声や低周波の魔力波長を相互に送受信・増幅するための、高品質な卓上通信用水晶球です』


「……はあ!? 伝票台帳の次は、ただの水晶玉ぁぁぁ!? 占い師でも始めろってのかよッ!」


 リオンが頭を抱えて叫ぶが、レイカはその通信水晶を細い指先でつまみ上げ、眼鏡の奥の切れ長な瞳を冷徹に輝かせた。


「ただの通信水晶? 違うわ、リオン。これは大陸全域の通信ログ、魔力波長、ひいては個々の行動パターンを一瞬で傍受・構造化する、完璧な『広域盗聴網(データ・ドミナンス)』よ」


 レイカは流れるような動作で水晶を指令部のメインアレイへと装着し、莫大な演算マナを流し込んだ。


「シオン。あなたの愛する『全知の監視プロトコル』と、この盗聴網を完全同期させなさい。大陸中の情報流動を完全に掌握し、我が魔王軍に敵対するすべての兆候を芽のうちに詰み取るのよ」


「……御意に……レイカお姉様……」


 指令部の最も濃い影の中から、黒いフードを深く被った最高情報責任者(CIO)のシオンが滑り出すように姿を現した。 その細い指先がコンソールに触れた瞬間、通信水晶から発せられた青い波動が、魔王城の地下空間を埋め尽くした。


 *


 占領されたホワイト村の本社ビル、旧情報統括室。


 かつてプライバシー保護のための厳重な暗号化壁が築かれ、静寂に包まれていたその部屋は、いまや全星座のごとく輝く数万のホログラムウィンドウで埋め尽くされていた。


「……信じられない……。これが……すべての情報が可視化された世界……!」


 シオンは、息をのんで空中に展開された情報の海を見つめた。


『広域盗聴網』と魔王軍の巨大情報アレイが接続されたことで、大陸中の都市、街道、ギルド、果ては個人のささやき声に至るまで、すべてのログがリアルタイムで暗号解読され、シオンの手元へとなだれ込んでいた。


 聖王国高官の密談、商人たちの裏取引、反乱分子の暗号通信、街道を行き交う馬車の移動速度――。 世界のあらゆる動向が、ひとつの狂いもなく、シオンの脳内へとダイレクトにマッピングされていく。


(タクト様のもとにいた頃は……『プライバシーの保護』という厳格な制約があった……)


 シオンは指先を微かに震わせた。 タクトは常に言っていた。『社員や住人のプライバシーは絶対だ。過剰な監視は信頼を損なう』と。 そのため、シオンの持つ天才的な情報収集・解析スキルの七割以上は、自ら設けた『倫理的アクセス制限』という厳格なブレーキによって封印されていたのだ。


(だが……レイカお姉様の成果主義のもとでは……そのすべてのブレーキが無意味な『効率の阻害』として排除された……!)


「素晴らしいわ、シオン。聖王国の裏ギルドの残党どもが企てていた補給路遮断計画、発生の三時間前に完全に予知・封殺できたわ」


 ホログラムの向こうから、レイカの冷徹な称賛が響く。


「プライバシーだの権利だのというぬるま湯の幻想を捨て去ったことで、あなたの情報精度は神の領域に達したのよ。これぞ真の『情報支配』――我が魔王軍の絶対的勝利の要塞ね」


「……はい、レイカお姉様。すべては計算通りです」


 通信が切れた後、シオンは広大な情報の海の真ん中で、ゆっくりと両手を広げた。


「すごい……。本当に、すべてが見える……!」


 シオンの胸の奥から、経験したことのない熱い高揚感が込み上げてきた。 暗殺者として闇に生きていた頃も、ホワイト会社で情報セキュリティを担っていた頃も、これほどまでに世界のすべてを掌の上に把握できたことはなかった。


 聖王国の軍隊がどちらへ動くか、どこの市場で物資が不足しているか、誰が何を選択しようとしているのか――。 シオンがコンソールをひと撫でするだけで、世界の未来の確率変動が数値化され、最適解が導き出されていく。


(私は……『全知の影(データ・シャドウ)』……! 世界のあらゆる真実を見通す、完璧な情報統括者……!)


 かつて自分が求めていた「世界のすべてを知りたい」という純粋な知的好奇心と情報支配への欲求。 それが今、レイカの与えてくれた制限なき最高峰のインフラによって、100%解き放たれていた。


 自分の提示するリアルタイム・インテリジェンスによって、魔王軍の軍需輸送は完璧に最適化され、無駄な伏兵やハザードはすべて事前に回避されている。 情報屋として、そして情報技術者として、これ以上の快感と達成感は存在しなかった。


「フフ……あはははっ……!」


 シオンは影の中で、陶酔したように声を上げて笑った。


 制限も、目隠しも、倫理という名のブレーキもない。 己の才能が極限まで解き放たれ、世界そのものを情報で統御する快感。


 シオンは青く光るホログラムの輝きに全身を包まれながら、自らの選択が正しかったのだと、完璧な全能感とともに深く確信していた。


(残り203日。明日は何が出る?)

【161日目時点の主要キャラクター紹介】

■ タクト(ホワイト株式会社 代表取締役(兼PM)) 状況:ホワイト村を追われ荒野へ脱出。三幹部喪失の悲劇を乗り越え、現場組と共に村の奪還とザンギュラ救出を決意する。


■ シルフィ(社長秘書) 状況:タクトと共に荒野の隠れ家へ潜伏。悲しみを乗り越え、社長を信じて再起のサポートに全力を尽くす。


■ シオン(魔王軍 最高情報責任者(元・ホワイト会社CIO)) 状況:『世界全知監視網』を完全稼働させ、大陸全域の情報と行動ログを掌握。『全知の影』として解き放たれた情報支配力と万能感に酔いしれている。


■ ネクロディア(魔王軍 最高技術責任者(元・ホワイト会社CDO)) 状況:レイカから与えられた圧倒的な演算リソースと成果主義の環境で極限の開発に没頭。技術者としての理想郷を見出したと歓喜している。


■ グレイシア(魔王軍 最高財務責任者(元・ホワイト会社CFO)) 状況:レイカのもとで完璧な数理モデルとポートフォリオを構築。ぬるま湯の予算管理から解放され、プロとしての自尊心と高揚感に満たされている。


■ ザンギュラ(CSO(最高安全責任者)) 状況:一人で魔王軍を食い止め捕縛される。魔王城の牢獄に繋がれながらも、持ち前の『安全第一』で看守の魔物兵たちを感化させつつある。


■ 黒崎(見習い清掃員(元ブラックCEO)) 状況:荒野の隠れ家でタクトをサポート。元ブラックCEOとしての勝負勘を生かし、逆襲のゲリラ作戦を計画中。


■ スー(清掃局長(スライム)) 状況:スライム隊を率いて荒野の隠れ家と村をつなぐ地下ルートを維持し、反撃の機会を伺っている。


■ レイカ(魔王軍 臨時最高経営責任者(元外資系金融MD)) 状況:通信水晶を『広域盗聴網』へ魔改造し、シオンの情報網をフル活用。大陸全域の情報支配と成果主義による組織統制を完璧に進めている。

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