三
「・・・ボロボロですね」
獅子と少女の戦いは、一瞬にして決着がついた
舌を舐めずりながら、その大きな獣の手は少女を踏みつけている。
今にも少女は、自分の終わりを受け入れなければいけない。
「う、ぐぅ・・・!」
嘲笑うかの様に、獅子は笑った。命を踏み躙ることに悦でも感じているのか、ぐりぐりと一層その手に体重をかける。
「・・・終わりですね」
ミシミシと自分の身体が悲鳴をあげている。
血液が逆流して、口から溢れる。
そんな中でも、頭にあるのは先程の男の人だけ
ちゃんと逃げれただろうか。
自分の居場所に帰れたのか。
──結局、私は誰だったのでしょうか。
諦めて、少女は目を瞑った。
「化け物!!!!こっちを見ろ!!!!」
「・・・ぇ」
何故だか、彼は帰ってきたのだった。
怖い。
怖くて仕方ない。
足は震えているし、全身に上手く力が入らない。それでも、大声を張り上げて化け物を威嚇する。これが有効なのかはわからない。
ただ、自分を鼓舞するためにも。俺は声を張り続ける。
「そ、その子を倒したいんなら!!!俺を、た、た、倒してからにしろ!!」
獣に言葉は通じない。そんなの誰だってわかる事だ、けれど。目の前にいる化け物は言葉を理解しているのか、顔をこちらに向けてきた。
「どうして・・・」
少女の呟きは、浩には聞こえない。
怖い。
あんなの人が戦って勝てる存在ではない。それでもなお、俺は逃げる訳にはいかない。
だって、あの子は立ち向かったんだから。
この恐怖に。
「──かかってこい。俺が、相手だ・・・っ」
出来ることなんて無いだろう。けれど、あの子が逃げる時間は出来る筈だ。
「はは、いいだろう。お前の挑発に乗ってやる。小僧」
「喋った・・・」
いよいよこれが現実なのか疑いたくなった。
まさか、目の前の化け物が喋り始めるなんて
「ダメ・・・!逃げてください!!」
「いいや、もう逃がさん。2度は無いぞ」
化け物の手が離れる。そして、今度はその手に備わった鋭い爪が自分に向けられる。
「ただの人間を殺しても意味はないが、生憎様俺は生物を殺すのが好きなんだ」
「・・・そう、かよ」
飛びかかるために姿勢を低くして、獲物を狙う瞳で俺を見つめる。
化け物の姿でも、狩りをする獣と同じだ。
ただそこに、意味が無いだけだ。
「──!」
「ダメ!!」
貯めていた筋力を解き放ち、その巨体がこちらに飛んでくる。
牙が来るか、爪が来るか。
ゆっくりと動き続ける世界の中、生きる事を諦めていない俺はそんな事を思考していた。
ほんの僅かな、希望を手繰り寄せために。
「ぐあっ!?」
そんな世界の中、化け物の眼球が潰れる。いや、潰されたという表現があっているかもしれない。光り輝く何かが、撃ち込まれたのだ。
「今だ──!!」
走り出す。
行く先は、倒れ伏している女の子。
「きゃっ」
「逃げるぞ!!」
「降ろしてください、私を担いでいては・・・」
「うるさい!!口閉じてろ!!舌噛むぞ!」
なりふり構わず、俺は足を動かした。
目が潰されて、のたうつ化け物を背に。




