血の戦士
第38話です!
是非、楽しんでください!
戦闘の一角、赤と灰に染まった。
重金属を焼くような臭気が立ち込め、床がじわりと軋む。
血の塊から生まれた獣が、骨のような前脚を地に突き立てた。
その体表では、血液に含まれた鉄分が急速に酸化し、赤黒く光を放っている。
「……酸化熱。なるほど、ヴァイスの能力を一部受け継いでいるんだね。」
ユキちゃんが一歩、前へ進む。冷気が靴底から広がり、地面の熱を奪っていく。
獣が吠え、熱気が押し寄せる。
ユキちゃんの頬に熱風が掠め肌が微かに焼ける。
「やっぱり……今の出力だと氷が溶けるね。」
彼女の指先が弾かれたように動く。瞬間、氷壁が数枚、空気中に形成された。
灼鉄の獣が突進し、氷壁を砕きながら突き進む。砕けた氷が熱で一瞬にして蒸発し、白い蒸気があたりに舞った。
「ふふっ……面白い。だったら少し出力を上げてあげる。」
右手を掲げる。それと同時に温度が急降下する。
ユキちゃんの吐息が白く広がると同時に、冷気が奔り、獣の脚を凍らせる。だが獣も負けじと内部の血を過酸化させ、発熱量をさらに上げた。
「まだ高くなるの?」
ユキちゃんが目を細める。
冷気が再び集中し、彼女の遺物《氷王晶》が淡く輝く。
その力が解放されると、周囲の温度が低下し、獣の動きそのものが鈍り始めた。
獣の赤黒い光が、徐々に鈍色へと変わっていく。
「その程度の熱ならもう溶けないよ。」
ユキちゃんが一歩、踏み出す。
氷壁が再構築され、獣を包み込むように閉じる。
獣は耐えず、氷を溶かそうと発熱するが氷は溶けることはなかった。
「……終わり。」
静かな声とともに、ユキちゃんの手が下ろされる。
氷壁が一気に収束し、獣の全身を完全に凍結させた。
血の体が、音もなく砕け散る。粉塵と氷片が風に舞い、薄い霧となって消えていった。
残されたのは、白く凍りついた地面と、静かに佇むユキちゃんの姿だけ。
氷の粒が髪に降り、淡く輝くその姿は、冷気の女王そのものだった。
*
金属の軋むような音を立てて、血でできた鎧の巨人が立ちはだかる。
全身を覆う赤黒い装甲は、乾ききらぬ血の匂いを放ちながらも、まるで鍛え上げられた鉄よりも硬い。
「やるしかないであります!」
ヒュース君は低く息を吐き、拳を構える。
遺物が起動し、思考と反応が極限まで加速する。
世界の流れが緩慢になり、巨人の一挙手一投足が“読める”。
最初の打撃。
足を滑らせ、腕を潜り抜けると同時に鳩尾へ一撃。
血の鎧が砕け、赤い飛沫が散った。
しかし、砕けた破片は空中で液化し、流れを反転させる。
溶けた血が再び鎧の表面を覆い、まるで“最初から傷などなかった”かのように滑らかに再生していた。
「やはりヴァイスと同様再生速度が異常であります!」
ヒュース君はすぐさま次の動作へ。
攻撃を止めず、膝、肘、掌底を連続で叩き込む。
衝撃のたびに鎧は砕け、再生し、また砕ける。
打撃の音と液化の音が混じり、鉄と血の匂いが戦場を満たした。
「再生完了まで0.2秒……そこを突く!」
加速した思考の中で、ヒュース君は再生の時間を計測する。
拳を止め、あえて敵の一撃を受けながら拳を入れる。
巨人の腕をガッシリと掴み、視線を先程拳で入れた鎧のひびに向ける。
再生の瞬間、その部位を補うために周りの部位がその部分を覆うように動く。
「今だぁっ!!」
ヒュース君は超高速の回転蹴りを叩き込む。
刹那、鎧が完全に修復される前に脚が突き刺さり、ヒビが更に大きくなる。
それを修復しようと赤黒い巨体が硬直する。
ヒュース君はそれに攻撃をし続ける。
そして全身にひび割れが走り、赤黒い巨人は崩れ落ちた。
「メノウ師匠が言ってました。再生する敵なら再生されるより速く、破壊すればいいだけの話であります。」
ヒュース君は拳を握り直し、深く息を吐く。
溶け落ちた血の残骸が地面に広がり、やがて静かに消えていった。
そこにはもう、鎧の巨人は残っていない。
彼の額に流れる汗だけが、戦いの余韻を静かに物語っていた。
*
赤い羽根が舞い、弦の音が響く。
女の影が宙に浮かび、血から生成された弓を引き絞る。
「空戦。面倒。」
バレットは呟き、《クレイブ》を起動した。
彼女の掌から幾つもの“針弾”が生み出される。
羽を持つ女が矢を放つ。
矢は紅の軌跡を描き、一直線に降下した。
バレットは片膝をつき、シルトを展開。不透明な壁がバレットを包み守る。
衝突音。血矢が弾かれ、跳弾針が軌道を変えて女影の肩を貫く。
「跳弾一回で貫ける装甲と確認。」
バレットは一歩踏み出し、次弾を撃ち出す。
壁、柱、床、そして天井。
針は空間を跳ね回り、角度を変えながら速度を増す。
女影が焦って空高く舞い上がった瞬間、弾が背後から直撃した。
「墜落を確認。」
墜落した羽を持つ女は再び矢を作り出そうとする。だが、その腕をバレットは見逃さない。
クレイブで針を生み出しシルトを棒状に展開させてほぼ一直線になる程度に跳弾させる。
針は羽を持つ女が生み出そうとしていた血の矢を見事貫き矢は元の液体へと戻る。
「これでラスト。」
羽を持つ女の周りを囲むようにシルトが展開される。
「増幅弾幕」
針弾が多数ドームの中に入っていきそこで不規則な跳弾を何度も繰り返している。
そのうちの1つが翼を持つ女の額を撃ち抜く。
そこからまた1つまた1つと次々に針が羽を持つ女に撃ち込まれていく。
血の翼が散り、影は地に溶けるように崩壊する。
「ミッションコンプリート」
*
赤黒い液体が地を這う。
それはまるで、生きた血脈だった。
大蛇はその巨体を動かしながらカスミちゃんへと噛みつきに行く
カスミちゃんが軽く腰をひねる。
指先が荊を撫でると、空間に鮮やかな赤が咲いた。
大蛇が血を撒き散らしながら突進する。
赤い奔流が牙のように地を抉り、触れたものすべてを液状化させて飲み込んでいく。
その流動は止まらない。血が血を呼び、広がるほどに質量が増す。
「おっと、どこまで伸びるのかな〜?」
カスミちゃんの足元から、紅い荊が立ち上がった。
蛇の体に巻き付き、棘が食い込む。
しかし次の瞬間、蛇の体が液状化し、荊の隙間をすり抜ける。
「なるほどねぇ、液体だから捕まえらんないってワケ? はぁ〜めんどくさっ。」
笑いながらも、カスミちゃんの瞳は鋭い。
「だったら。」
赤薔薇が一斉に開花した。
茨が地面を覆い、蛇の進行方向を塞ぐ。
棘の先端が光を帯び、次の瞬間――
轟音。
爆ぜる花の波が蛇を包み込んだ。
だが、爆炎の中から再び血が湧き出す。
さっきまで焼き尽くされた場所から、何事もなかったように再生していく。
「うわぁ、しつこ〜」
彼女は肩をすくめながらも、荊を再構える。
その瞬間、蛇が動いた。
形を崩し、血の海となってカスミちゃんを包囲する。
空気中の鉄の匂いが濃くなる。
それはただの液体ではない。触れた瞬間に“血を喰う血”だ。
「……来る!」
カスミちゃんの瞳が白く光る。
白薔薇が咲いた。
無数の花弁が宙を舞い、盾のように彼女の周囲を回転する。
血潮がぶつかるたび、白い花弁が柔らかくそれを受け止め、衝撃を吸い込む。
花弁が赤く染まるが、すぐに純白へと戻る。
それはまるで“拒絶”しているようだった。
「ふふっ……キレイでしょ? アタシの白薔薇、汚れとか知らないんだよ♡」
大蛇が咆哮し、再び姿を取る。
液状の体が巨大な蛇型へと戻り、再生とともに速度を増す。
だが、カスミちゃんの方が速かった。
白い花弁が旋回し、その中心から再び赤が咲く。
赤い薔薇が咲き誇るとともに荊が大蛇を何度も何度も叩き続ける。
「まだまだこれからだよ〜♡」
荊が大蛇を攻撃しつつ赤薔薇の花弁がその外側で爆ぜる。
血の蛇はその全身が薔薇の海に飲み込まれた。
花弁の嵐が舞い、血の波が霧散する。
最後に残ったのは、一輪の真紅の薔薇だけ。
蛇の頭部を貫き、その芯を射抜くように咲いていた。
「……咲いた♡」
カスミが囁くと、蛇の体が音もなく崩れ落ち、血の海が消えた。
地面には、花びらだけが残っている
血の臭いが、濃い。
階層の空気そのものが赤く染まって見えるような気がした。
*
針の男は、静かに立っていた。
けれど次の瞬間、その全身が震え数百本の“血の針”が音を立てて空間に散った。
「マジ?」
私は急いで刀を抜く。
刃が、血を映した。
針が雨のように私に襲いかかる。
私は腰をひねり、刃を横に流す。
「ブレッシャー」
瞬間、斬撃が放たれて針の雨は私に当たることなくその場で散る。
それを確認して私は前へ踏み出した。
針の男は反応が速い。
空気を揺らすように手を振り、地面に落ちた血の針が震え出す。そして針は波のように蠢き、足元から襲いかかってきた
私は針がないエリアに跳躍して移動する。
着地と同時に刀を振るい、針の群れを一瞬で断ち切る。
切断面から霧のような赤が舞った。
煙がドンドン流れて、針の男の姿が見えなくなる。
その煙は目眩しだけでは無かった。煙は再び針へと変化していく。
全方向から針が襲ってくる。
私は刀を一閃。
空を裂くように振るった刀が、正面の空間を割る。
その瞬間、煙が霧散し、針の男の居場所が浮かび上がった。
「そこ。」
踏み込み。
地を滑るように距離を詰め、針の男の懐に潜り込む。
しかし針の男の懐にら大量の針が作られていた。
全身から吹き出した血が、瞬時に鋼の林となって突き上げてくる。
地獄の針山があるのならきっとこんな感じなんだろう。
そんなことを考えながら私は刀を振るう。
針を断ち、裂き、弾き返す。
動きは踊るように、流れるように。
針の嵐の中を泳ぐように近づいていく
「……見えた。」
その瞬間、世界が静まった気がした。
私の足が、敵の影を踏み抜く。
次の瞬間、針の男の胴が斜めに割れた。
赤が噴き出し、地を染める。
だが、すぐに液体が蠢き、形を戻そうとした。
「再生?……なら、核を。」
分体はそれぞれ心臓に当たる部分に再生する核があることは事前に貰った資料でわかっている。
私は姿勢を落として刀を低く構える。
そのまま突き上げるような突きを針の男へとお見舞いする
突きは針の男の胸を、正確に一点、貫いた。
針の男は崩れていく。
血が床を覆い、そして静かに消えた。
※
血の匂いが強くなった。
床を這う赤が、まるで息をしているかのようにうねる。
……空気が、変わった。
ヴァイスの表情に、静かな愉悦が浮かぶ。
斬り結ぶたびに舞う血が、地に落ちても乾かず、逆に地を染めていく。
まるで、何かを待っているように。
「……ふむ。実に見事だ。」
ヴァイスが俺の斧と鉄球をいなしながら、微かに笑う。
「分体どもが悉く滅びたか。よもや、ここまでやるとはな。……退屈が一つ減った。」
「減って喜ぶ奴がいるかよ。」
俺が返すと、ヴァイスは剣先を下ろし、冷たい目でこちらを見据えた。
「貴様は知らぬのだ、ルシアン。長くこの地にいると楽しませてくれるものたちとは貴重だ。例え己を殺しにきたものであろうとそれは変わらん。」
その声は、血の底から響くようだった。
「……何が言いてぇ。」
ヴァイスがゆるりと腕を広げる。
その動作に合わせ、床一面に流れていた血が浮かび上がる。
それは渦が、蠢くように集まり、やがて5つの球体となる。
「血は命の残響。流れようと、腐ろうと、なお世界を巡る。
ならば我が血に触れたものは皆――再び形を得るのだ。」
血の塊は脈動し、それぞれ別のところに飛んでいく。
脈を打つたび、遠くで何かが目を覚ますような気配が走った。
「貴様の仲間たち……なかなかに愉快であったぞ。だからこそ、もう一度見たい。あの戦いの続きを、な。」
「……あぁ?」
ヴァイスの周囲に、花弁のような血が咲く。
その花が開いた瞬間、遠くの空気が震えた。
地の底から響くような心音。
脈動だ。
「再び目覚めよ、我が分たる器ども。
熱の獣よ、鎧の巨人よ、翼の射手よ、蛇の王よ、そして針の徒よ。
血の名のもとに、再び立ち上がれ。」
その宣言とともに、各地に散った血の球体が共鳴した。
粉々になった分体がひとつ、またひとつと形を取り戻す。
俺は舌打ちした。
「……気に入らねぇ。まだ分体を作った状態でも俺を倒せると思っているところに。」
ヴァイスは鼻で笑い、傲然と剣を構える。
「愚問よ。貴様程度にはこれで十分なのは変わらん。そんなに我にかまって欲しければもっと我を楽しませろ。我は“我を退屈させぬもの”を見たい。」
その眼には狂気にも似た確信があった。
俺は斧幸とアストラを握り直し、息を吐く。
「……なら、期待には応えてやる。
お前の“退屈”ごと、叩き潰してやるよ。」
「面白い! いいだろう、来い。我の血を絶たんとする愚か者よ!その命、我が血潮の糧としてくれよう!」
紅と灰が、再びぶつかり合った。
血と不運、命と理。
その全てが交錯する、第四階層の夜が再び始まった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
もしこの作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです。
そうでなくともこの作品が少しでも気に入っていただけたら今後も読んでいただけると幸いです。
改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回もお楽しみください




