不運の星
第39話です!
是非楽しんでください!
斧幸の柄を強く握る。
鎖がひんやりと背筋に伝わる。
アストラの鎖がぴん、と張って、いつでも動ける準備をしているのがわかる。
『まだ遊べる? ルシアン、ちゃんと使いこなしてよ。』
アストラは子供みたいに弾んだ声で囁いてくる。だが、その声が妙に頼もしい。
ヴァイスが笑う。不遜なその嗤い声が、廻廊に重く反響した。
「さあ、愚かなる者よ。再び我が血の遊びに興じようではないか。」
合図もなく、血の刃が一斉に襲いかかる。数は以前より遥かに多い。復活した分体たちが各地から再集結するのに呼応して、場に渦巻く血流が凶器と化していた。
斧幸とアストラで受け流していく。
攻撃を受けるたびに斧幸が重力を帯びていく。
斧幸は俺が不運な目に合えば会うほど威力が上がる。
他の奴はそう思っている。
だが、それは少し違う。
斧幸は不運を貯める性質がある。
これは厄災風斬でなんとなくわかるだろう。
では、その溜め込んでいる不運は普段どうなっているのか?
それは斧幸の質量となっている。
斧幸は不運を貯め込むほど重くなる。
質量が上がるから威力が上がるだけである。
そういう観点では斧幸は理論的には威力が上がり続ける武器である。
しかしそれは使用者がどんな重さでも使いこなせればの話である。
実際には重すぎて振り回せなくなることも結構ある。
そういう時に使用しているのが厄災風斬である。
あれで一度不運を吐き出させて軽くする。
まぁ、初めはただのガス抜きようだったのだがちょっとした理由からこれを必殺技へと昇華させた。
奥の手になったのはいいがこれを使いこなすのがそれはそれは大変なこと
まず威力を出すためにそれなりに不運の貯蓄がいる。かといって溜めすぎると斧幸が重くなり攻撃を当てるのが難しくなる。
そのため適切な不運の量を維持するのが大切である。
不運は攻撃を喰らうことでも溜まる。
そのため今までは受ける攻撃と斧幸によってもたらされる不運を計算しながら戦っていた。
しかし今は
『来るよ!』
アストラが短く合図を送ると、鎖が伸びた。鉄球が軌道を描き、空間を切る。血の刃を絡め取るように鎖を“流し”、鉄球をヴァイスに向けて放つ。
このようにアストラの鎖で大半の攻撃は受け流せるようになったのと斧幸が重くなってもアストラで細かい攻撃ができる。
それにアストラの鎖は斧幸と連携させている時斧幸が溜めている不運の量によって長さが変わる。
そのため鎖の長さで厄災風撃の威力がわかるようになったのも戦いやすくなった。
二つの遺物がひとつに噛み合う。
その感触は俺を飛躍的に成長させている。
『そう! いいよルシアン、その調子〜。次は左にひねって……ほら、いい感じ!』
アストラは嬉しそうに指示を出す。こいつは口は軽いが、戦場での導きは正確だ。
血の刃を弾き、斧幸で一撃を与えにいく。
刃先が血を割り、肉を裂く音がした。ヴァイスの目が僅かに細まる。だがすぐに、血の流れが速くなりその速度は人体の反応を凌駕していた。姿が一瞬消え、そこから別方向へ斬りつけてくる。
「やはり速いな……だがな」
滑るように身を返し、斧を振り抜く。斧幸が血を断ち、肩口に深く刻む。血が噴き上がる。ここで終わらせてやる、そう思った瞬間、冷たい痛みが腹に走った。さっきと同じような感触だ。ヴァイスの剣が、まるで予告していたかのように俺の脇腹を穿つ。
俺は倒れない。倒れている余裕はない。
今ここであの剣についた俺の血を取り込まれたら一貫の終わり!
また動けなくなる!
ヴァイスとの距離を詰めなければ!
詰めてひたすら攻撃して血を飲む瞬間を与えない!
アストラがもう一度叫んだ。
『鎖をもっと“伸ばして”、構造物を活かして鉄球を曲げて!』
なるほど!
だがそれよりもこうした方が次につながる!
「"シルト"!」
シルトを柱のような形で展開し、そこに鎖を引っ掛けて鉄球の軌道を曲げる。
ヴァイスがそれを避けたところで反対側にもう一つシルトの柱を作り今度は斧幸を投げる。
斧幸も軌道を変え鉄球と斧幸についた鎖がヴァイスを挟んでクロスする。
すかさず斧幸を手に取り力いっぱい引っ張ることによりヴァイスを鎖で縛りつけることに成功する。
そのまま体重を載せて斧幸を叩き込み、ヴァイスの肋を砕く。血の飛沫が舞い、床を赤く塗る。だが、その一瞬、俺の視界がゆらついた。腹の傷が疼く。用心深くなければならない。
ヴァイスは今の一瞬で鎖が緩んだ隙に脱出する。
ヴァイスは手を口元に当て、舌先で血を舐める仕草をしたがアストラのもう一つの能力である不運の共有により俺の血はその手には既になくなっていた。
「……愉快だ。貴様は、よく耐えるな。」
「勝手に悦に入るなよ。」
斧幸を振るうたびに、瓦礫が落ちそれを頭にぶつける、足元が崩れてこけるなど不運に見舞われる。だが、その度にアストラの鎖はさらに伸び、鉄球のリーチが広がる。俺の一撃はより重く、より遠くまで届くようになる。
『いい感じ、いい感じ〜!今のは思いつかなかった。ルシアン、もっとみせて!』
アストラは跳ね回る声で煽る。だが、その無邪気さが今の俺を支えているのは確かだ。あいつの喋りがあるから、俺はヒラメキを得られる。
ヴァイスの動きはますます苛烈になる。血を圧縮して、刃を束ね、光の帯のように放つ。レーザーのように一直線に火線が走る。避けようとする俺の足元が一瞬、血で縛られた感触を覚える。
「愚か者よ、何故そこまでして我に挑む?」
ヴァイスの声は嘲笑を含んでいる。だが、その目は真剣だ。こいつは遊び相手を求めているだけではない。己の力を試す挑戦者を欲している。
「理由は単純だ。次の階層に行くのにお前が邪魔だからだ。」
斧幸を振り抜く。刃が血を断ち、アストラの鎖が広がり、鉄球が振り回る。
血の奔流が、瓦礫を蹴散らし、俺を押し戻す。だが俺は踏ん張る。アストラの声が耳元で弾ける。
『やった! ルシアン、今の流れすごく良かったよ! ほら、もっと見せて〜!』
その言葉に応えるように、俺は斧を振る。紅い光が一閃し、ヴァイスの剣を弾き飛ばす。衝撃で空気がひび割れ、血が飛沫となって舞う。
ヴァイスの剣が振るわれるたび、死ぬような圧が走る。
その一撃一撃は、俺の命など簡単に奪える攻撃ばかりだ。
だが負ける気はしない。
「ぐっ……!」
薙ぎ払われた血の衝撃波を、斧幸で受け止める。肩が軋む。骨が鳴る。それでも足を止めず、アストラの鎖を操り鉄球を走らせる。
『右! 右だよ、ルシアン!』
アストラの叫びに合わせ、反射的に体をひねる。
すれ違いざま、ヴァイスの剣先が俺の頬をかすめ、血が散った。
「遅い!」
ヴァイスが踏み込み、血の剣を三連で繰り出す。
「知ってる!」
俺はそれを、アストラの鎖を一瞬たるませることでいなした。鎖の反動で鉄球が跳ね上がり、ヴァイスの死角へ滑り込む。
ヴァイスは反応し、剣でそれを弾くが、予想外の衝撃に目を細める。
「……重いな。」
「そういう仕組みだよ。」
斧幸が唸る。鉄球が地をえぐり、反動で空気が爆ぜた。
俺の動きに合わせて、アストラの鎖がさらに伸びる。不運の蓄積が今俺が扱える限界に近づいている証拠だ。
『そのまま、ルシアン!』
「わかってる!」
踏み込み、鎖を地に叩きつける。鉄球が円を描き、瓦礫の壁を跳ね、勢いそのままにヴァイスの頭上へと回り込む。
ヴァイスは一瞬で見切り、血の盾を展開するが、遅い。
「……終わりだ!」
渾身の一撃。
アストラの鉄球が、音を置き去りにしてヴァイスの頭を叩き潰した。
鈍い破砕音とともに、血と骨の破片が飛び散る。
ヴァイスの首から下が、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
……終わった。
俺は息を吐き、肩を落とす。
これで第四階層ようやく突破だ。
だが、その瞬間。
「っ……!?」
ヴァイスの倒れた身体の傍で、血が蠢いた。
液体が集まり、膨らみ、脈打ち――やがて、再び“顔”を形づくる。
その歪な頭部が、牙をむき出しにして俺の肩口へ噛み付いた。
「ぐあっ!」
肉を裂く音。痛みが、全身を駆け抜ける。
「……正直、ここまでやるとは思わなかった。」
ヴァイスの声が、血の中から響いた。
「今は私の能力で無理矢理、血を操り身体を動かしているにすぎない。もう時期、私は消滅する。お前たちの勝ちだ。」
ヴァイスの瞳が血の光を放つ。
「だが一人は道連れにしよう。《血縫》!」
全身が硬直する。筋肉が、自分の意思で動かない。
まるで血そのものが、体の中で凝固していくようだ。
「く……そ……!」
「私を追い詰めた褒美だ。苦しまないように消してやる。……待て、貴様、斧幸はどうした!」
ヴァイスが気づいた。俺の手には、今、確かに斧幸がなかった。
「血が見えた瞬間、保険をうっといて正解だったな。」
俺は口の端を吊り上げる。
「お前に噛み付かれる瞬間、斧幸を上に投げたんだよ。……そろそろ落ちてくる頃だな?」
ヴァイスが反射的に天井を見上げる。
紅い影。
そこには、超高密度の不運をまとった斧幸が、質量をもって降下してくる姿があった。
「だいぶ重くなってるからな。威力も保証済みだ。……それと一応、仕留め切れるように――これもやっておくか。」
息を吸い、叫ぶ。
「《厄災風撃》!」
瞬間、斧幸に蓄えられていた膨大な不運が解放され、
空間そのものが歪むほどの爆発が起きた。
爆風がすべてを呑み込む。瓦礫が舞い、視界が白く染まる。
「……これ、俺は生き残れるかな。」
呟いた言葉が、爆音にかき消された。
数分後。
崩れた瓦礫の山をかき分け、俺は這い出した。
身体中が痛む。だが、生きている。
「……はぁ……なんとかなった……」
『おつかれ〜! すっごい爆発だったね! あ、ほらルシアン、見て見て!』
アストラの声に促され、視線を向ける。
そこには、光を帯びた宝箱が静かに浮かんでいた。
階層ボス撃破の証。
箱が開き、暖かな光が辺りを包み新たな遺物を手に入れる。
同時に、奥の壁が音を立てて崩れ、次の階層へ続く扉が現れた。
俺はゆっくりと立ち上がり、息を整える。
「……さて、ミノリ達と合流したら次の階層に向かうとしよう。次は何が待ってるかね。」
『次も絶対勝とうね、ルシアン! 今度はもっと面白いものを見せて。』
「お前、そればっか言うな……。」
だが、不思議とその声が嬉しかった。
瓦礫の中で、俺とアストラはミノリたちを待つ。
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