07.乱入者は嗤う(※ノエル視点)
先日の暴動事件の報告をしたいとクララックから連絡があり、彼が王宮で割り当てられている私室へと向かう。
そこで、事件に至った経緯を教えてもらうことになった。
「こちらが、騎士団から提出された報告書です」
クララックから手渡された書類には事件の概要と聴取内容が書かれている。
捕らえられた犯人たちはみな、呪術をかけられていた。
事件に関する『何か』を告げようとすると喉が引き攣り、身を捩って苦しんでいたようだ。
恐らくは口封じの呪いがかけられているのだろう。
おまけに、毎夜悪夢に苛まれているらしい。
そのうち一人は精神を病み、言葉にならない言葉を叫ぶようになってしまう、手をつけられない状態になっていると報告書に書かれている。
「下っ端が捕まることを想定して、黒幕が入念に準備していたようだな」
「ええ、おかげで俺たちができたのはトカゲの尾の先を切り落とす程度のことです」
「奴らが新たな戦力を得る前に先手を打ちたいところだ」
「……そうですね。死よりも苦しい思いをさせて二度と立ち直れないよう完膚なきまでに叩き潰し――……、いや、懲らしめましょう」
途中で言い直したが、犯人たちを絶望に突き落とすのは止めないだろう。
相変わらず、人の良さそうな顔を見せておいて、容赦ないやり口を考えているようだ。
(レティは癖のある生徒ばかり受け持っているな)
クララックたちも、今の生徒たちも、個性派ぞろいで指導するのは大変だろう。
それでも、レティは彼らと過ごす時間が好きで、何よりも大切にしている。
だからこそ常々、生徒たちには深い嫉妬を覚えてしまう。
(今頃、ラクリマの湖で昼食を摂っている頃だろうか?)
今日は天気が良く、窓の外に広がる景色は穏やかで平和だ。
レティは湖の景色を楽しんでいるだろう。
そのような事を考えていたからなのだろうか、こちらの油断を突くようにして突然、強い魔力の気配が近づいてきた。
「……侵入者の気配がする」
強い魔力の気配はノックス王国の国境に近づき、そのまま踏み込んできた。
恐ろしく強い魔力を隠そうともせず、こちらを挑発しているように移動している。
ご無沙汰していた感覚だ。
魔力の強さも、このわざとらしい侵入方法も、何もかもがあのお方らしい。
「またですか?!」
「マルロー公たちの手の者ではないから落ち着きなさい」
差し向かいの席に座っているクララックが、神経質そうな手つきでメガネを掛け直した。
以前の暴動で兄が負傷して以来、マルロー公たちに対する怒りを抱えている。
そのためか、事件の主犯であるマルロー公周辺の調査に、積極的に協力していくれている。
「王国領土の中に入り込んでいるようだ」
「安心できない状況に変わりありませんね」
「ああ……。よりによって、レティが学園の外に出掛けている日に現れるなんて時期が悪い」
レティは大丈夫なのだろうか、と不安になり、ジルに話し掛けた。
そうしてジルから返ってきたのは、想像していた通りの事態だった。
「……本当に、笑わせてくれる」
「フ、ファビウス侯爵、目が全然笑ってないのですが……どうしたんですか?」
「ジルから非常事態の知らせがあった。私の代わりにミカをここに残そう。至急、ラクリマの湖に行ってくるよ」
いつもそうだ。
あのお方は、私が居ない隙を狙ってレティに近づいている。
そうしてこちらの反応を見て嗤っているのだとわかっていても、見過ごすことはできない。
あのお方は今回も、何かしら目的があってレティに近づいたのだろう。
「メルヴェイユの国王が、またもやレティにちょっかいをかけに来たらしい」
一度目は罪人の魔術師ヤニーナの身柄の確保、二度目は途絶えていた妖精たちとの親交の回復。
今回は、間違いなく――あの事だろう。
「生徒たちに関わることだから、レティが無茶をしないか心配だ」
そして、ノエルも懇親会に乱入します。




