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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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577.話し合いにはお茶を

サブタイトルが500話と被っていましたので変更しました

 里の長であるユーディアナ様の家も、他の家と変わらない。

 いや、気持ち大きい気もするな。

 ケルンさんは、やはり来訪の(しら)せとして扉を叩くことは無く、ユーディアナ様の家に入っていった。里では、これが普通なのだろう。


「失礼します」「お邪魔するのじゃ」

「なっ! ユーディアナ様!」


 先に入ったケルンさんが、何か騒いでいる。

 ケルンさんを追って食卓のある部屋へ向かうと、ケルンさんに詰め寄られているユーディアナ様がいた。

 肩より少し長く、波打つ銀の髪は、ユーディアナ様の流れる輪郭を際立たせている。実年齢は不明だが、見た目は六十程に見える女性だ。

 だが、年を感じさせない立ち姿から、その衰えぬ活力が見え……ん? 前にお会いした時と違って、どこか、変だ。

 ケルンさんに詰め寄られ、困った顔をしているからではない。

 少し、元気がない?

 顔も少し赤い気がする……お疲れなのだろうか?


「まだ起きてはいけません。早く寝室へお戻り下さい」

「ケルン。森と里に係わる大切な話し合いを、私抜きで行うつもりですか?」

「それは、御尤(ごもっと)もですが……」


 どうもユーディアナ様は、体調が優れないらしい。

 口籠(くちごも)るケルンさんを援護するように、テラさんが口を(はさ)んだ。


「これ、ユーディアナ。意地の悪い事を言うでない」

「テッラリッカ、マルク様、よく来て下さいました。ごゆっくり……っと言いたい所ですが、状況が状況ゆえ、お許しを」

「いえ、お気になさらずに」


 俺とテラさんへ向け、丁寧に腰を折るユーディアナ様の動きは、緩慢(かんまん)だ。

 テラさんは、頭を上げたユーディアナ様に近づき、彼女の手に触れた。


「うむ、それは気にする事ではないのじゃ。なる程のぅ……お主が体調不良ゆえ、パラサイトを焼くのに手間取っておるのじゃな」

「逆だ。奴らが多すぎる所為(せい)で、ユーディアナ様が無理をなされたのだ」

「本当に、お恥ずかしい限りです」


 責任感の強い人なのだろうが、体調不良を恥じる必要などないだろう。

 それが、問題解決の為に努力した結果なら(なお)の事だ。

 まぁ、こう考えていても相手には伝わらない。そのままを口にしよう。


「ユーディアナ様、体調不良に恥も何も無いですから。ゆっくりお休み下さい」

「ええ、奴らの事は、我々にお任せを」

「そうじゃ。休まぬのなら、無理にでも寝床へ放り込むぞい」

「あら、テッラリッカ。貴女(あなた)に後れを取る程、衰えてはいませんよ」


 ユーディアナ様とテラさんが視線を交えている。

 テラさん……なにも、体調不良の人相手に火花を散らさなくても……。

 しかし、これでは(らち)が明かないな。

 ユーディアナ様は、無理にでも話し合いに参加しようとするだろう。

 そしてテラさんとケルンさんは、ユーディアナ様に休んで欲しいと……三人が話し続けていても、平行線のままかな?

 この場合、俺が口を挿むべきか……多少の無礼は、許して貰おう。


「なら話し合いは、ユーディアナ様の寝室にて」

「マルク! それは――」

「カーカッカ。それは良いのぅ」


 笑うテラさんに遮られた言葉は『無礼にも程があるぞ』だろうな。

 御尤(ごもっと)もである。


「テッラリッカ、お前まで――」

「良い案ですね。では、私はお茶を用意しましょう」

「お主は寝室じゃ。マルク、茶を頼む」

「はい。テラさんはユーディアナ様を」

「任せい」


「あら、困りました」と狼狽(うろた)えるユーディアナ様の手を引き、テラさんは部屋を出ていく。

 俺は、二人を見送りながら、茶の準備を始める事にした。

 十分な魔力と、想像を。

 ティーポットを用意し、茶葉を六(さじ)、そして少し多めに湯を注ぎ入れる。

 頭の中で茶葉が躍り、少しずつ湯の色に変化が生まれる。


「マルク。お前の発言一つで、面倒になったな」


 ケルンさんが眉間を揉みながら、そう言った。

 体調不良のユーディアナ様を、今回の問題解決に巻き込みたくは無いのだろう。


「たぶんですが、放っておく方が面倒なります」

「そうか?」

「はい。ちゃんと話し合った方が良いですよ」


 俺の知り合い達が聞けば『どの口が言ってる』と思うかもな。

 だが、大事な事だ。


「フッ。そうかもな。ならば俺達は、茶を用意するとしよう」

「それならば、既にお茶の用意は始めてますので」


 俺が自分の頭を指差すと、ケルンさんは口元を小さく歪めた。


「その魔力か?」

「はい。なのでカップを」

「外には、変な魔法があるんだな」


 ケルンさんは、そう言いながら小さな笑みを浮かべ、部屋を出ていく……いや、そもそもこの魔法って、テラさんが母に教えた魔法なんだけどな……まぁいいか。




「し、失礼致します」

「お待たせしました」


 緊張と共に寝室へ進むケルンさんの後ろから、空のカップを持ち入室する。

 ユーディアナ様の寝室を見て、少し親近感が沸いた。

 今現在、上体を起こしたユーディアナ様が薄毛布に包まれている、大きめの寝台が一つ。その枕元に小さな卓が一つ。

 他は、服の棚一つに、書き物が出来る机と椅子が一つずつ。

 机の上には、魔工石の灯りを設置する為の細い台が置いてあった。

 正直な所、質素というべき室内だろう。

 ゆえに落ち着く空間だ。


「ありがとう御座います、マルク様。ケルンも、ありがとう」

「これは、私の楽しみの一つですから」「いえ、私は何も」

「ほれ、椅子は一つじゃ。早いもの勝ちじゃぞ」


 寝台の端に座るテラさんが、椅子を指さす。

 どちらが座るべきか、決まっている。


「俺はお茶の用意が。ケルンさん、どうぞ」

「すまんな」


 椅子を寝台側へ向け、座るケルンさんから目を放し、俺は、木製のカップを机へ置いた。手持ちのままでも注げなくはないが、態々(わざわざ)危険を冒す必要は無い。


「≪自然(しぜん)息吹(いぶき)≫よ」


 右手人差し指の先の先から、茶を注ぎ入れる。

 色付いた液体が流れ出て、木製のカップを満たしていく。

 カップから反射でもするかの様に、茶の香りが鼻をくすぐった。

 四つのカップを七割ほど満たし、残りの茶は頭の中で保留としておこう。

 おかわり不要なら、後で自分で飲むとするかな。


「ユーディアナ様、こちらへ置きますね」

「ふぅ、良い香り」


 ケルンさんの前を横切り、寝台横の小さな卓へカップを置く。

 テラさんとケルンさんには、直接持って貰おう。

 木製のカップは、茶の熱を直接伝えず、底面が少し熱い程度であった。


「話し合いには、お茶が必要じゃ」

「頂くとしよう」


 話し合いへ向け、口を(うるお)すかの様に、三人はカップを口へ運んだ。

 俺も一口。

 口の中に広がる味わいの中に、小さな渋みが良い変調を生んでいる。

 そして果実の如き甘い香りが、口から鼻へと抜け、香りが味へと変化した。

 うん。まだまだだが、悪くない茶だ。

 声にならぬ三人の吐息が聞こえる。

 それが、何よりの茶の感想だろう。

 柔らかなユーディアナ様の目元が、更に緩む様子を見れば、(なお)の事、言葉による感想は必要なかった。

 寝室に茶の香りが漂い、それと共に穏やかな空気が流れていた。

 だが、まったりし続ける訳にもいかない。

 無礼ついでに、俺が事を運ぶことにした。


「では、ケルンさん。聞かせて貰えますか? アルケーの森を襲う問題を」


 もし早く手を打たねばならぬ問題ならば、茶を飲んでる余裕は無いのだから。

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