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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十三章

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575.襲い来る木製人形

 人の子供程の大きさの木製人形は、その顔の造形すらない頭部をこちらへ向け、飛び跳ねながら近づいて来る。

 俺は独り、前へ出る。

 敵の動きが分からない以上、テラさんが戦える空間を作るべきだろう。

 テラさんが接近戦をする心配は無いだろうが、念の為だ。


「≪炎帝竜(えんていりゅう)(ほのお)≫」


 (まと)う魔力の上から、両手に(たぎ)る赤い炎を宿す。

 叶うならば炎帝竜の大剣を使いたかったが、接敵まで時間がない。

 先陣を切って飛び込んできた木製人形へ向け、一歩、二歩と踏み込み、右の拳を打ち込む。

 拳にて燃える炎が、木製人形の突き出した鋭い手を溶かし、胴を(えぐ)り取った。

 空中で姿勢を崩した木製人形が、燃えながら俺の後ろへ流れ、落ちる。

 こいつはもういい。次だ。


「≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 前へ進みながら、二十の槍を頭上に並べ、その場に待機させる。

 明らかに俺へ狙いを定めている三体は、問題ない。

 だが、残りの四体の動きが、どちらへ行くか分からない。

 更に森であるのが厄介だ。

 少し離れた位置でも、木々の盾が、放つ槍を阻害する。

 幸い奴らは、跳躍、着地を繰り返しており、素早くとも直線的だ。

 二十の槍を置き去りにして、更に前へ。

 正面に横並びで二体、その奥に一体。

 横並びの木製人形が、前傾姿勢を深め、矢の様に跳んだ。

 俺は右へと一足で(かわ)しながら、交差する一体を、左手の炎で撫でる。

 焼き払うのは、木製人形だけだ。

 燃え落ちた一体よりも、俺へ飛び掛かった勢いそのままに通り抜けた一体へ集中する。

 奴が着地をする機を狙って、待機させていた魔力の槍の一本を放つ。

 放たれた槍が木製人形の胴に突き刺さり、俺の方へと木製人形を吹き飛ばした。

 吹き飛んできた木製人形が、地面に転がる。

 俺は、その場へ駆け寄り、起き上がろうとする木製人形へ拳を振り下ろした。

 燃える拳が槍の穿った胴を貫き、拳が大地を突く。

 炎が木製人形へと移り、そのまま全身へと燃え移っていった。

 炎帝竜の大剣のように、消えぬ浸食の炎では無いが、この炎とて炎帝竜さんから伝授された強力な炎だ。森に燃え移れば、大惨事となる。

 そうしない為のミュール様の教えであり、魔力制御だ。

 炎に包まれながら、あがき、鋭く尖った手を俺へ伸ばす木製人形。

 だが、その手は俺に触れる事無く、塵と化し、消えていった。

 拳を大地に付けたまま、残心している暇などない。

 俺は、交差の際に左手で燃やした敵が、炎と共に消えている事を一瞥(いちべつ)し、他の敵の位置を確認する。

 一体は、変わらずこちらへ狙いを定め、飛び掛かる機を(うかが)っている。

 残りの四体は、左右に分かれて、後ろにいるテラさん達を狙っているようだ。

 ならば俺のやるべき事は簡単だ。

 正面の一体へ突撃しながら、待機させていた魔力の槍を一本、正面の敵へ放つ。

 俺を追い越しながら飛んだ槍は、命中叶わず、地面に突き刺さった。

 回避のため横へ軽く跳んだ木製人形へ、更に槍を放つ。

 命中すれば御の字だが、命中は期待しない。

 目的は――回避と攻撃を合わせた奴の跳躍は、奴と俺の距離を狭める。

 相手を動かす為の一射。

 迂闊(うかつ)に跳んだ動きは、単調で(ぎょ)しやすい。

 俺の顔目掛け跳ぶ木製人形を、右の拳で迎撃する。

 魔力と炎を(まと)った拳は、奴の腕を砕きながら溶かし、そのまま肩を砕いた。

 燃えながら吹き飛び、俺から離れていく木製人形は、そのまま空中で炎に飲まれ消えた。

 魔力の残滓(ざんし)一つ残さずに。

 さて、残りの四体は恐らく――見回した俺の目に、緑の(つる)に絡めとられ、身動きの取れぬ四体の木製人形の姿が映る。予想通りだ。

 それも、魔力の槍で狙いやすい位置で、捕縛してある。

 待機させていた残り十六の槍を、全て木製人形へと放つ。

 魔力の槍は、拘束を解かんと暴れる木製人形の頭を砕き、胴を穿(うが)ち、足を砕いた。

 中々に硬い木製人形とて、四本の直撃を受ければ、死ぬらしい。

 死と共に塵へと還る様子は、モンスターの様だが……やはり魔石がない。

 恐らく、ロードゴブリンの生み出すゴブリンと同じような物だろう。

 モンスターの生み出したモンスター。

 奴らは魔石を落とさない。

 まぁ、事情は青年達に聞けばいいか。

 今は、周囲の警戒を続けよう……とはいえ、近くに敵がいる様子はない。

 しかし、アルケーの森に魔力が満ちている所為(せい)で、魔力感知による索敵が出来ないのが、本当に困りものだ。

 近接距離まで近づけば、流石に分かるんだけどな……。

 今は、敵も居ないようだし、戻るとしよう。

 俺はテラさんの所へ戻りながら、全ての魔法を解除した。


「カッカッカ。(かずら)の束縛は罠としても使えるのじゃ」

「テラさん、お見事」

「うむ。マルクとわし、二人ならば当然の結果じゃ」


 両手を腰に当て、胸を張るテラさんは、俺の言葉に大きく(うなず)いた。

 しかし、拘束用の魔法は、便利だな……俺も覚えたいものだ。

 だが(かずら)の束縛は、植物生成魔法の延長線上にある魔法だろう。

 俺には、まだまだ遠い魔法だ。

 おっと。こんな事を考えている暇は無いのだった。

 テラさんと共に、傷を負った青年達の元へと向かう。


「マルク様。そしてテッラリッカさん。助かりました」

「この恩は、いつか」

「通りがかりじゃ。恩など要らぬ」

「ええ、まずは傷を見せてください」


 正面から見る二人は、やはり美形であった。

 美しき銀の髪に、無駄な肉の無い流麗な顔の輪郭。整った鼻筋と目……流石、理不尽の里の人達だ。

 まぁ、男女問わず、俺の周りには何故(なぜ)か顔の造形の良い人ばかり集まっているからな……今更気にしても仕方のない事だ。

 顔を見ていても無意味なので、近づき、二人の状態を見る。

 一人は右腕が折れ、左肩が裂け、血が流れている。

 もう一人が、頭皮が切れて出血が酷い。

 どちらから治癒する? 決まっている。


「≪(いや)しの(みず)≫」


 俺は両手に癒しの水を生み出し、左手は傷の深い肩へ、右手はもう一人の頭部へ動かした。そう、両方治癒する方が手っ取り早い。

 癒しの水を触れさせ、手は、患部(かんぶ)に触れない様に。

 そのまま魔力を込め、癒しの水を広げ、患部(かんぶ)を覆う。


「他に、傷は?」

「いや、他には――」

「正直に言わんと、逆に迷惑じゃぞ」

「すみません。組み付かれた時に、腹を蹴られました」


 頭部からの血が止まった青年が、申し訳なさそうに言った。

 テラさんの言う通り、ちゃんと言って貰わないと迷惑だ。

 傷を放っておいて勝手に死なれても、困る。

 癒しの水が(しばら)く残り続ける様に、更に魔力を込め、頭部から手を放す。

 そのまま青年の腹部へと右手を動かし、癒しの水で腹を包み込む。

 雑な治癒だが、取りあえず里へ戻るまでの応急処置だ。

 頭を怪我した青年は、これで十分だろう。

 問題は、左肩が裂けた青年だ。

 こちらに集中しよう。

 左肩を覆う癒しの水の魔力は、もう十分だ。

 しかし、出血は止まっているが、これでは現状維持でしかない。

 とは言え、俺は、深手の傷を治癒をする便利な魔法なんて知らない。

 俺は、両手を患部(かんぶ)から放した。

 今は、ぶらりと垂れ下がった右腕の治癒が先だな。

 肘から手首までの間……折れているのは、丁度真ん中あたり。

 青年の右肘に手を当て、そこから癒しの水を伸ばす。

 肘から先を全て包むように、癒しの水を(まと)わせ、魔力を込める。

 痛みで歪んでいた青年の顔が、ようやく落ち着きを見せ始めた。


「マルク様、ありがとうございます」

「まだですよ」

「うむ。添え木をしたら、里へ戻るのじゃ。それまでは油断するでないぞ」


 テラさんは、そういいながら青年の腕に添え木し始めた。

 邪魔にならぬように、俺は手を放しながら自らの手に纏う癒しの水を消す。

 当然、全ての患部には、魔法を残して。

 テラさんの処置は手早い。

 骨の位置を確認しながら、滑らかな動きで骨折部を木と(つる)で固定した。

 そして添え木に力が掛かるように、(つる)で右肩と(つな)ぐ。

 青年の折れた右腕は、肩から伸びる(つる)に支えられ、彼の腹の前で落ち着く。

 慣れた手つきだ。

 俺がやると、もっと雑な添え木になってしまうだろう。

 ドレイク先生にも小言を言われたっけ……まぁ、それは横に置いておこう。

 

「他に痛む所は?」

「いえ」


 短い言葉だが、青年の声には活力を感じる。

 うん、もう大丈夫だろう。

 後は、本職である回復術士に任せよう。


「良し! マルク、お主ら。奴らがまた出る前に、里へ戻るぞい」

「「「はい」」」


 テラさんが先頭、俺が一番後方につき、里へ向け歩き出した。

 怪我をしている二人の足取りも、安定している。

 さて、最後尾についた俺は、後方の警戒に集中せねばならない。

 奴らがまた来るなら、俺の背からだろう。

 魔力感知が()かぬ以上、耳と直感が頼りとなる。

 土草を踏む足音に、葉の擦れる小さな音。

 時折聞こえる動物達の動く音にすら、警戒を強める。

 何も無いとは言え、誰かを守って進むというのは、やはり疲れるな……。

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