55.散歩は続くよ
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キオ達は、湯水のようにスクロールを使って、第十一階層を逆走した。
第十階層へ続く階段を、いま登っている最中である。
「アム。実験はこんな感じで大丈夫なのか?」
「問題ないさ。使用感のバラツキや改善目標は、後で彼らに話を聞くからね」
キオは『凄かったっす』としか言わない予感が。
ムウも無言だろうしで、人選的には、ワコだけが頼りだ。
「それに今は、想定通りの魔法が発動しているか? その威力は? 持続時間は? 辺りは調べておかないと、騎士団には出せないからね」
「しかも、手間も魔力も金銭もかかるから、大量に作れる物じゃないしな」
一定数納品する必要があるとしたら、安易な考えで作れるものではない。
途中で中身を変えました、なんて以ての外だ。
「ああ、だから使い捨てでも高価にせざるを得ない。犯罪使用防止の観点もあるから、製造の手間や費用が下がっても、簡単に安く出来ないというのも難点だよ」
「広く、多くにってのは難しいな」
使い捨てにも関わらず、スクロールの値段は高い。
犯罪に利用するぐらいなら、売った方が安全に金が手に入る。
スクロール一枚で命がつながる可能性を考えれば、安い物ではあるが。
それ自体が財になると、逆に持っていると危険を呼ぶ可能性もある。
安ければ乱用の元となり、高ければ必要な人に渡らない。痛し痒しだ。
「まぁ、目標は目標さ。今は騎士団の事に専念しないとね」
「量は大丈夫なのか? 特に魔力は」
「心配ご無用。今は魔力の吸い込みが違うからね」
「なるほど。今回のスクロールは全部、アレを使ったのか」
ブラックスライムの魔石を原料にした墨。あれ作るのに、こいつフラフラになってたよな。有効活用出来ているようで良かった。
「今回は、その試験でもあるのさ」
見通しは明るいのだろう。アムの表情は、活き活きしている。
会話中に歩みも進み、第十階層に到着した。
ダンジョンの構造によくあるのだが、通路、大部屋、通路、階段といった構造が多い。大部屋を通らなければ次の階層へ辿り着けない。
今回は逆走中であるから、大部屋を抜けないと第十階層探索が出来ないということだ。
キオ達は足を止め、何やら相談中のようだ。
アムは、進むも引くもキオ達に任せているようで、探索には口を出さない。
話し合いが終わったのか、キオ達がこちらに小走りで来た。
「先輩、アムさん。これから大部屋へ進みますので、助言をいただけませんか?」
「僕は、ダンジョンについてはそれほど詳しくないからね。マルク。頼んだよ」
ワコの頼みを、アムから丸投げされた。
まぁ、この中でダンジョンに潜った回数の多さなら一番だろうが……俺のやり方は、お一人様に偏っているから役に立つかどうか。
いや、先達者としてアドバイス一つ贈れないと駄目か。
「第十階層に出てくるモンスターは、一つ下と変わらないから、個別の対処は大丈夫だよな」
三人が頷く。
リザードマン、二本角、ゴブリンメイジ、後は出てもコボルトかゴブリンかという具合だ。全員対処経験があるモンスターだろうから、個々の問題ない。
「大部屋の問題点は、単純に広いことと、複数種の敵と同時戦闘を強いられることだな。敵の攻撃が届く距離がバラバラになるから、特にキオ。お前が大変だぞ」
長距離で攻撃可能な、ゴブリンメイジと二本角。
接近して攻撃する、リザードマンと二本角。
接近の中でも、曲刀と爪や牙では間合いの取り方が変わる。
接近して敵の注意を引き付けるキオの負担が、どうしても大きくなる。
「大丈夫っす」
「頼もしいな。ダンジョン特有の問題として、地形が閉じているってのがある。中に突入する場合は、場所を広めに使えるが、敵全員の攻撃に晒される可能性が高くなる。逆に、敵を通路に引き込めば、同時に戦闘する数は制限できるが、遠くからの攻撃の対処法がなければ、それに付き合い続ける羽目に陥るからな」
今回でいえば、ゴブリンメイジへの対策がなければ、大部屋から通路に向かって魔法が跳び続ける事になる。
平場でも嫌な敵なのに、ダンジョンでは、より嫌な敵に変わる。
「状況によっては、全員で逃げるってのも常に選択に入れておくべきだ。後手に回ってから逃げると遅い時が多い。判断は早めにな」
「でも、逃げてもモンスターは消えてくれませんよ」
「逃げるとまずい場面では、命懸けも仕方ないさ。だが、逃げていい時は逃げるが勝ちでもあるぞ。モンスターは、他の奴に任せてもいいんだ」
「でも、先輩は全部倒すんっすよね?」
「俺も逃げるぞ。死んだら元も子も無いからな」
キオは、俺の答えに納得がいっていないようだ。
キオは、俺をえらく持ち上げていたが、いったいキオの中では、どういう認識なのだろうか。
「キオ君。マルクの言葉はともかく、マルク自身を参考にすると碌なことにならないよ」
「でも、先輩は凄いっすよ」
「マルクは、独りを拗らせているだけさ。自分が無茶をして、どれだけ周りが心配するのか全く理解しない馬鹿だからね。真似をしてはいけない類の奴さ」
「おいアム。それだと俺が、無茶が大好きな戦闘狂みたいに聞こえるだろうが」
「アハハ。思いが違うだけで、君が”いつも通り”やっていることは、戦闘狂そのものだよ。見ず知らずの誰かならともかく、君の後輩には、冒険者マルクを真似るなんて愚行は、して欲しくないね」
そういえば前に聞いたな。
『冒険者マルクの話を聞けば、誰だってそう思うさ』と。
アムのことだ。俺やキオ達を心配しての事というのは、重々理解している。
ここは、アムの話に乗るべきだな。
「その……心配かけてすまん」
「へぇ、今日は殊勝だね。困ったら人に頼るのも手だよ、って言いたいだけなのだけれど」
くすりと笑いながら、アムは言葉を続ける。
「キオ君。君は、誰かに頼るということの大切さを知っているかい?」
「はいっす。でなきゃもう死んでるっす」
「なら、頼っていいのさ。ここに二人も余分な戦力がいるんだからね」
キオは少し考えるように黙り込み、俺、アムと順番に目を合わせ、言った。
「アムさん、ありがとうございますっす。でも頼るのは最後っすからね」
「ええキオ、そうしよう」
ワコは言葉で、ムウは頷き、二人はキオに同意を示した。
「さて、もう一度話し合いますか」
ワコの言葉に、三人はまた少し離れていった。
離れる必要もないと思うし、別の場所に行かれると警戒も面倒なんだけどな。
それにしても……。
「俺の助言は、あんまり役に立ちそうにないな」
「僕としては、先輩をしようとしているマルクを見れて嬉しいよ。後でシャーリーにも話してあげよう」
「そうやって、俺の醜聞は広がっていくんだな」
「それだけ君が可愛いってことさ」
偶にアムは、よく分からないことを言う。
まぁ楽しそうだから別にいいか……笑うアムを見るのは、嫌いじゃない。




