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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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545.後輩達の相談事

誤字修正 誤字報告感謝

 酒場から屋敷へ戻ってみると、来客中であった。

 食堂には、テラさんとキオパーティー五人が座っている。

 そして、各々(おのおの)のカップにお茶を注ぐシャーリーの姿が。


「ただいま、と、いらっしゃい」

「マルクや、おかえりなのじゃ」「お兄ちゃん、おかえりー」

「あっ、先輩! おかえりなさいっす」


 そして次々に口から出る「お邪魔しています」の声。

 前髪で目が隠れている小柄な少女ムウは、無言で俺を見ながら、(うなず)いていた。

 その口を真横に引きながら……なぜ少し不機嫌なのか、分かってしまう。

 俺の魔力入りの茶を期待していたら、普通のお茶が出て来た訳だな。

 だが、ムウよ、シャーリーの淹れるお茶の方が、美味(おい)しいんだぞ。

 一応、魔法の茶も用意しておくか。

 想像の中で茶葉を躍らせながら、俺はテラさんの元へと向かった。

 来客対応の交代の為に。


「テラさん。キオ達は俺が」

「うむ、交代じゃ。わしとシャーリーは、買い物に行ってくるからのぅ」

「なっ。買い物なら俺も――」

「駄目だよ。お兄ちゃん」


 お茶を配り終えたシャーリーから、お叱りの声が飛んで来た。

 椅子から立ち上がったテラさんも、俺の目の前で、大きく(うなず)いている。


「こ奴らを、放置していく気かえ?」

「クッ。分かりました。いってらっしゃい、テラさん、シャーリー」

「シャーリーの事は、わしに任せい。では、いってくるのじゃ」

「お兄ちゃん、いってきます。お客さんも、ごゆっくり」


 キオ達の「いってらっしゃい」に手を振り返しながら、二人は食堂から出て行ってしまった……追いかけたい気持ちを抑え、先程までテラさんが座っていた場所に、座る。

 椅子が少し(あたた)かく、そして目の前には、手付かずのカップが一つ。

 そして卓の中央には、クッキーを並べた皿が一枚。


「行っちゃったっすねー」

「キオ。恨むぞ」


 真正面に座るツンツン頭の少年キオに、思いの(たけ)を告げる。

 十四歳という、あどけなさを残す顔が、俺の言葉で引きつった。


「なんで俺っすか?」

「お前だろ、うちに来た理由」

「……っす」

「まぁ、冗談だ」


 半分な。半分。

 俺は改めて、座っているキオパーティーを見回してみる。

 正面のキオは、パーティーリーダーを務め、今尚成長中の少し背の低い戦士である。無茶をしがちな点を除けば、人を助ける為に頑張れる、良い奴である。

 キオを真ん中にし、向かって左に、大柄な戦士グルドンが鎮座していた。

 普段は、その剛腕で大斧を振るう力自慢だ。

 そしてキオを挟んで逆側には、ごく普通の可愛らしい少女に見えるワコが、キオを見ながら苦笑いを浮かべていた。

 その普通さと裏腹に、軽装で前衛を務める戦士である。

 そして俺の左に座るのが、キオパーティーの回復術士、ゼノリースだ。

 若草の如く青々とした髪をした少年で、恐らく何処(どこ)かのお坊ちゃんである。

 まぁ、気にする事では無いな。

 そして、俺の右側に座るのが、口数少ない魔術師ムウ。

 封印魔法の使い手であり、モーリアンさんの一番弟子である。

 魔力の事に関して以外は、実に素直で良い子だ。

 ムウは、俺の顔を見上げながら、口元に半円を描いていた……いや、俺が準備中の魔法の茶を見ながら、だな。


「それで、全員揃って、一体、どうした? 事件か?」

「ある意味、事件かもしれません」


 そう言ったワコの視線が、キオへと向く。

 いや、ゼノとグルドンもキオを見ている……やはり原因はお前か、キオ。

 ムウは、周りに構わず、お茶を飲んでいる。

 俺もキオを真正面に捉え、じぃーと見てみた。

 キオもまた、俺を真っ直ぐに見返している。

 そして、意を決したかの様に、口を開いた。


「実は俺、先輩に相談があるっす」

「ああ、何だ?」

「先輩! 俺も邪竜討伐に連れて行って欲しいっす」

「……アホか、お前は。ワコ、こいつを四日間くらい、縛っておいてくれ」


 ワコとグルドンが『だよな』と言いたげな表情を浮かべていた。

 一方、俺に『アホ』と言われたキオは、まだ、俺を真っ直ぐ真剣な目で見つめている。見られても、俺は意見を変えるつもりは無い。


「先輩。鉄骨龍では、各自好きにしろって通達が出たっす」


 だから、自分は好きに動くって事か。

 ワコ達の表情と『俺も』と言っていたことから、キオ個人の判断なのだろう。


「お前が死んでも、(なん)にもならないぞ」

「俺が弱いのは分かってるっす……でも、俺も手助けがしたいんっすよ」

「って言って、私達の話、聞かないんですよ、こいつ」

「それで、先輩の所へ」

「迷惑を掛けて、すみません」


 キオの言葉に続いて、ワコ、グルドン、ゼノリースの言葉が飛ぶ。

 ムウも、お茶を飲みながら、俺に(うなず)いていた。

 まぁ、命に関わる問題だ。

 勝手に飛び出して死なれるよりは、こういう面倒の方が良い。

 俺は、再びキオをじっと見る……真っ直ぐに。

 キオは、(わず)かにたじろぎながらも、俺から視線を外さない。


「駄目っすか?」

「悪いが、手助けどころか、邪魔だ。そう言う事は、もっと強くなってから言え」

「でも! それじゃ、誰が先輩を助けるんっすか……鉄骨龍の皆は、誰も動く気ないっすよ」

「らしいな」

「だったら――」

「自分が死ねばいいって? そんな、馬鹿なこと言うつもりか?」

「でも、俺には、それしか……」


 ずっと俺の目を見ていたキオが、お茶に視線を落としてしまった。

 全く、世話の掛かる奴だ。


「今、最も大きい脅威と戦う事だけが、誰かを守る事なのか?」


 (うつむ)きながら、無言で首を横に振るキオ。

 分かってるなら、後は決めるだけだ……自分の答えを。


「なら、キオ。お前は、お前のやれる事をしろ」

「なにをっすか?」

「自分で考えろ、って言いたい所だけどな……この町を、頼む」

「え?」


 顔を上げたキオが、キョトンとした目で俺を見ていた。

 驚く事なんて、何もないだろうに。


「俺が邪竜と戦いに行く間、町の人達を守ってやれ。それも大事な冒険者の仕事だろ……って、別に俺が町を守ってる訳じゃないんだけどな」


 今も町を守っているのは、聖騎士隊と鉄骨龍の冒険者達だ。

 そして目の前に居るキオも、鉄骨龍の一員である。

 だから本来、俺の言ってる事は、的外れなんだろうが……説得の為に、あえてこう言わせて貰った。


「それで、先輩の役に立てるっすか?」

「別に俺の役に立つ必要は無いだろ? お前の、いや、お前達の考えで動けば良いんだよ」

「……っす。皆と相談しろ、って事っすよね」

「ああ。周りを見ろ。お前には、信頼できる仲間がいるんだからさ……それを(ないがし)ろにする奴は、俺は好きには()れん」


 自分みたいだからな……お一人様を(こじ)らせるのは、俺だけで十分だ。

 ようやくキオが、俺以外に目を向け始めた。


「みんなは、邪竜討伐、反対なんっすよね?」

「ああ。先輩の言う通り、俺達が行っても邪魔なだけだ」

「行きたくても、死ぬだけだって」


 グルドンは、大きな体で(うなず)き、ワコは目を伏せる。


「何度も言ってるが、俺達の実力なら、町で待機するのが一番だろ」

「依頼」


 ゼノリースは素っ気なく、ムウは短く、依頼をこなす事が大切だと()く。

 キオも贅沢な悩みを、俺に突き付けてくるものだ……羨ましい限りだよ、全く。


「そうっすよね……分かったっす。俺達は、町で待機するっすよ」


 キオが、四人を見回しながら、すっきりした顔で、そう宣言した。

 そしてキオは、また俺を見て、心配そうな顔をする。

 今度は何だ?


「でも、先輩は大丈夫っすか?」

「そもそも俺は、お前たちに、一言も討伐隊に参加するなんて言ってないけどな」

「え!? 先輩、行かないんっすか?」

「いや、たぶん行くけど」

「っすよね。俺、俺達、先輩が死ぬとか、嫌っすよ」


 見回すと、一様に(うなず)いている。

 本当に、息の合ったパーティーだな、こいつら。


「その気持ちだけ受け取っておくさ。元より死ぬつもりはないから、安心しろ。邪竜は、俺と討伐隊が倒しておくから、安心して町に居てくれ」

「うっす。町の事は、俺達に任せるっすよ」

「頑張って下さい、先輩」

「御武運を」

「先輩の無事を祈っています」

「大丈夫」

「別に、今すぐ出立する訳じゃないし、邪竜が、王国側に来るとも限らないんだけど……ありがとな」


 五人全員が、表情を崩し、少年少女らしい笑顔を見せてくれた。

 俺が十四の頃は、どんな顔、してたっけな……。

 普通の少年らに見えても、こいつらは冒険者だ。

 死と隣り合わせでいきている……それでも、死ぬのは今じゃない。

 邪竜に、こいつらを殺させるわけにはいかない。

 誰かに会うたびに、戦う理由が一つずつ積み重なっていく気がする。

 だがそれは、気分の悪いものではなく、俺自身の積み重ねに()るものだ。

 俺は、用意している魔法の茶から、茶葉を取り出し、保留する。

 今は、シャーリーの淹れたお茶を飲もう。

 まだ、(あたた)かなお茶を一口。

 俺に(なら)うように、皆もお茶を飲み始めた。

 キオに至っては、中央に置かれたクッキーをパクパク食べている……フッ、遠慮のない奴だ。だがそこが、こいつの良い所の一つなんだろうな。

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