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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十二章

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525.ありのままで

 炎の訓練に励む俺の腹が、音を鳴らした。

 太陽は、頂点から下り始め、今現在、昼食時を少し過ぎた時間である。

 だが、昼食はテラさんが帰って来てからだ。

 それまでは、訓練を。

 アムも俺の訓練を見ているだけでは流石に暇だったのだろう。今は、俺の作った魔力の壁へ向け、思う存分魔力の槍を放っている。

 少し広めに作り直した魔力の結界の中で、俺の魔力の壁が破壊され続けていた。

 アムの槍は、俺の作る雑な魔力の槍と違い、鋭く、美しい。

 今も、薄紫色同士が衝突し、その鋭き穂先によって貫かれた魔力の壁が、消失した。さらに進む魔力の槍は、二枚目に深々と突き刺さる。

 そして、役目を終えた槍が、壁と共に消えていく。

 あれを二十や四十も飛ばされたら、敵わない。

 比較的単純な魔法一つでも、使い手の違いで全く違う魔法に見える。

 アムの魔法は、緻密で、洗練されていて……美しい。

 大雑把に魔法を使っている俺が、阿呆(あほう)の様に思えてくるから困ってしまうな。


「≪魔力(まりょく)(かべ)≫」


 俺は、この場を動かずに呪文を唱え、再び攻撃予想地点に魔力の壁を補充する。

 五か所、三層、計十五枚。

 離れた位置に魔力の壁を作ると、少々魔力を多く消費する為、勿体(もったい)ない気もするが、アムの暇つぶしに態々(わざわざ)動くのも(しゃく)だ。

 この右手に注ぐ魔力に比べれば、微々たるものである。


「ありがとう、マルク。≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 アムが空に手を伸ばし、更にその上にシュッと伸びた魔力の槍を生み出した。

 五本横並びに作られた槍は、アムが掲げた手を前へ下す動きと共に、放たれる。

 やや斜めに打ち下ろす様に飛翔する魔力の槍は、魔力の壁を貫き、五か所同時に破壊した。命中箇所が、人の頭程度の高さなのは、狙ってやっているのだろうか……恐ろしい、恐ろしい。

 それに、幾度の魔法の行使で、加減を覚えたのだろう。

 魔力の壁を、綺麗に一枚ずつ破壊していた。力の調整の上手い奴だ。


「フフフ。やはり楽しいね。魔力を思う存分振るえるというのはさ」

「何か怖い事言ってるな」

「好き勝手に魔法を使うマルクには、分からないかもしれないね。≪魔力(まりょく)(やり)≫」


 話ながらも準備の進んでいた魔力が、アムの呪文により、槍へと形を変えた。

 宙に浮かぶは、十の槍。

 残りをまとめて破壊するつもりなのだろう。


「さぁ、行くんだ」


 芝居がかった声で、前方へ片手を伸ばすアム。

 それに従い、飛ぶ魔力の槍は、射出の機をずらし、五射を二度に分け、俺の魔力の壁へと襲い掛かった。貫かれ、槍と共に消えゆく壁。

 十の槍が消えた時には、俺の作り出した魔力の壁は一枚も残っては居なかった。

 俺の吹かせている風に身を委ね、赤く短い髪を手でサラッと流すアム。

 その姿だけで、絵になる奴である。


「気が済んだか?」

「そうだね。これぐらいにしておこう。テラさんも帰って来たみたいだし」


 アムの言葉を聞き、俺は、右手の炎を含め、周囲の魔法全てを消した。

 後片付けは、しておかないとな。

 そして振り返ると、テラさんが小走りでこちらへ向かって来ていた。

 日の光を反射する(まぶ)しい笑顔を見れば、孤児院の様子がどうであったかは分かりきっている。平穏無事であったと。


「マルク、アム。待たせたのぅ、飯に行くぞ!」

「狼のまんぷく亭だけど、大丈夫か?」

「二人と一緒なら、平気さ」


 アムと一緒に、テラさんと合流すると、テラさんは俺の隣を歩き始めた。

 そのまま両手に花で、町へと繰り出す。


「孤児院の皆は、問題無かったみたいですね」

「うむ。子供らはケロっとしておったわい。むしろ、ヒルデやハル達の方が怯えとったのぅ。大人がシャキッとせねば、子に不安が伝わるというのに」


 子供達が平然としていたのは、恐らく十年前の事を知らないからだろう。

 十四であるキオ達も、邪竜事件の事を詳しく知らなかったみたいだしな……十にも()たぬ子が多い孤児院ならば、(なお)の事だ。

 不安がる、ヒルデ院長達の反応が普通であろう。

 俺の考えを、肯定する様に、アムが口を開いた。


「仕方が無いですよ、テラさん。不安に思う方が普通なんですから」

「そうなのじゃが……このように、町は落ち着いておるのじゃ」


 狼のまんぷく亭へと進む道は、少しの人通りがあった。

 それは普段と変わらぬ光景で、そこに恐怖や不安が満ちている事は無い。

 ただ、普段よりも視線が俺に突き刺さっている。

 テラさんにでもなく、俺の隣を歩く美男子にでもなく。俺に……。


「アムが言ってたのは、これか」

「彼らも本人に直接言う程、肝は()わってないみたいだね」

「だが、目は口ほどに、ってやつだな」

「ん? 何の話じゃ?」


 テラさんへ向き直ると、テラさんが俺を見上げ、首を(かし)げていた。

 答えようと思ったが、俺よりアムが早かった。


「彼らの言葉を、小耳に挟んだんです『マルクが何とかしてくれる』と」

「何じゃそれは! 全く……うーむ……マルクが信頼されている事を喜ぶべきか、無責任な輩共の性根を叩き直すべきなのか……困るのぅ」

「これは、信頼とは別の何かかと……それにテラさん。危ない事は、しちゃ駄目ですよ。俺は、周りの声なんて気にしませんから」


 嘘だ。少し気になる……少しだけ。


「マルクがそう言うのであれば、わしも気にせぬ様にするのじゃ。しかし、町が不自然に平和なのが、そのような理由とはのぅ……」

「まぁ、変に可笑(おか)しくなっていないだけ、マシって事で」


 邪竜の目覚めと王国の危機。

 その不安に押しつぶされ、暴徒が生まれるよりは、はるかに良い。

 今の所、実害もなさそうだしな。

 町の様子がこれならば、シャーリーやエルも大丈夫だろう。


「お主は、鈍感なのか度量が広いのか、まだまだ分からぬ事が多いのぅ」

「マルクは昔から、変な男ですから」

「アム。もう少し言い方をだな……いや、変なのは自覚してるけどな」


 実際、真っ直ぐすくすく成長していたら、俺の様には成っていないだろう。

 自分を嫌いでは無いが、人とずれている事は、重々理解している。


「カッカッカ。良いではないか。変わった所も、お主じゃ。わしは好きじゃぞ」

「ありがとう、テラさん」


 テラさんの優しさが、()みる。


「誰しも少々変わっておるものじゃ。わしも、アムものぅ」

「そうですかね?」

「フフッ。そうだよ、マルク」

「うむ。そうじゃ」


 テラさんは、世話好きなのに自由奔放で、良い。

 アムは、品行方正に真っ直ぐ生きていて、良い。

 二人共、そんなに変わった所はあっただろうか……特に思い付かない。


「フッフッフ。分からんでも良いのじゃ」

「そのままの僕らを、受け入れてくれているって事だからね」

「んー? 余計に分からないんだが?」

「良い良い」「フフッ」


 まぁ、良いか。

 左右から聞こえる声は、実に楽しそうに弾んでいる。

 なら、俺にとってそんな事は些事(さじ)でしかない。

 何処(どこ)か人と変わっていても、テラさんはテラさんで、アムはアムだ。

 俺が好きな二人は、ありのままで、隣を歩いてくれているのだから。

 それで、良い。

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