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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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515.幕間~騒動は知らぬ所で・三~

文章微修正

「村に近ぇな……全員、下りるぞ。オルケインさん、モルスを追ってくれ」

「はい。≪(かぜ)はちどりの浮揚(ふよう)≫」


 馬から素早く下りたオルケインは、目玉程度の大きさの球体を手の平に乗せ、呪文を唱え、(まぶた)を閉じた。

 魔法は、球体から一対の薄い羽根を生み出し、羽ばたき、球体ごと空へと運ぶ。

 この球体は魔道具であり、オルケインの義眼と繋がり、オルケインに球体の見た光景を届けるものである。

 闇夜ならばまだしも、日の照る朝。空からの監視の目から逃れる事は出来ない。

 草原を横に広がる黒い影の如きモンスター達の姿が、一望できる。

 大型の犬を思わせるダークハウンドが、八十体程、既に飛び出していた。

 その後ろには、ゆっくりと動き出した百を超えるオーガの群れ。

 その中に、槌を持たぬオーガの姿を、オルケインは目撃した。

 

「オーガの中に弓持ちが交じっています、お気を付けて」

「チッ、ハイオーガか……シャラガム、俺には守りは要らねぇからな。ドム、テガーは、オルケインさんの守りを。サラスは、ぶっ飛ばせ」

「任せろ」「「ああ」」

「逃がさないわよ。モルスの使徒!」

 

 馬から降りたバルザック達の活力あふれる声が響いた。

 特に、サラスの声には、怒りの感情が溢れ出している。

 オルケインは、空からの視界に集中する。

 草原を踏み荒らすのは、硬質そうに見えるゴーレムが十。

 そして――


「また居やがるぜ、ジャイアント。三体か」

「『巨人殺し』にジャイアントをぶつけるなんて、阿呆(あほう)よね」


 オルケインはバルザック達の声を聞きながら、黒い巨人の奥に、馬で逃げるフードの男を発見した。オルケインは、その男の行方を追う。

 一方バルザックとサラスは、言葉を交わしながら戦闘準備を始めていた。

 バルザックは体を伸ばし、サラスは既に魔法の準備をしている。


「サラス、外野はともかく、おめぇまで言うのかよ、それ」

「別にいいでしょ。もうマルクと一緒にケリ付けたんだから」

「ったく。じゃ、巨人殺しの力、見せてやるか」

「ダークハウンドは気にせず突っ込みなさい」

「応よ!」


 バルザックは言葉と共に駆けだした。

 たった一人、モンスターの群れの中へ。

 モンスター達の先鋒として四足を地につけ走るダークハウンドが、突出したバルザックへ襲い掛かる。

 が、背の大剣を抜刀したバルザックは、己に飛び掛かり、爪と牙が己に届くダークハウンドのみの相手をし、俊足を生かして、前へ駆け抜けていった。

 だが、バルザックの前から、横から、背から、ダークハウンドは迫る。


「マルクじゃないんだから、一々(いちいち)狙わないわよ。≪魔力(まりょく)()≫」


 安全圏にいるサラスの声が、草原に響き、呪文により魔法の矢が生み出された。

 大量に。

 サラスの真上、その空に生み出されたのは、薄紫色をした千の矢。

 その全てがダークハウンドへ向け飛んだ。

 サラス達の方へと向かうダークハウンドへと、そしてバルザックに群がるダークハウンドへと。

 薄紫の矢は鋭く、影の如き黒いダークハウンドのやせ細った肉を削ぎ、突き刺さり、その命を奪い取る。

 一斉掃射された魔力の矢は、面を埋め尽くし、たとえ素早きダークハウンドですら、そこに逃げ場など無い。

 半数の矢がダークハウンドに突き刺さり、半数の矢が地面を穿(うが)つ。

 そして、その矢の雨の中を走り抜けるバルザックには、一本の矢すら刺さっていなかった。

 バルザックの走り抜けた地面にだけ、矢が突き刺さっていない。


「ふぅ。今日は上手くいったわね」


 サラスの後ろで、オルケインを警護中のドムとテガーが苦笑いを浮かべる。

 シャラガムは、己にサラスからの危険が無いゆえか、クスッと笑いながらオーガとの距離を目測していた。弓への対策として。

 一方、矢の雨の中を走り抜けたバルザックは、オーガ達を鋭く睨みつけながら、前へ、前へと走り続けていた。己が背を襲った矢を気にも留めずに。

 オーガに迫るバルザックの耳が、オルケインとサラスの声を捉えた。


「モルスの者が捕まりました。騎士団です」

「え? 騎士団? もぅ! 燃やし損ねた!」


 地団駄を踏んでいるであろうサラスの姿を思い浮かべ、バルザックは楽し気に失笑し――肉薄したオーガの胴へ大剣を払い、その身を真っ二つにした。

 その時、炎の矢が、モンスター達の背に突き刺さった。

 ジャイアントは、炎の矢を物ともしていないが、オーガとゴーレムは別である。

 燃え上がり、もがき苦しむオーガとハイオーガ。

 炎の矢を嫌うように脇へゆっくりと動くゴーレム。

 その多くが反転し、バルザック達に背を向け動き出す。

 バルザックは、己を襲うオーガを楽々と斬り殺ししながら、戦況を観察する。

 目と、耳と、直感を用いて。

 目は、背を向けるモンスター達を捉えた。

 耳は、騎士達の怒号にも似た人の掛け声を捉えた。

 直感は、そのまま殲滅(せんめつ)を続けろと伝えている。


「やる事は、同じってこったな」


 驚異的なモンスターの力によって振り下ろされる(つち)を、バルザックはいとも簡単に上方へ弾き飛ばし、踏み込みと共に、振り上げた大剣を振り下ろした。

 頭から開かれる黒いオーガの肉体。

 その内側も黒く、闇のようであった。

 だが、塵と化すものに恐怖を覚える事などない。

 バルザックは、一太刀ごとにオーガを一体ずつ消滅させる。

 バルザックが腰を捻り、上体を横へ向けると、その胸先を矢が通り抜けた。

 射線の通ったハイオーガである。

 だが、その射撃は、己の位置を知らせる事にしかなっていない。


「待ってたぜ」


 ハイオーガへの道を塞ぐように迫るオーガへ、バルザックは一足で肉薄する。

 そのまま大剣にて斬り上げ、右腰から左肩を切断した。

 オーガは、その身を斜めにずらしながら、死へと旅立つ。

 塵となるオーガの体を押しのけるように真っ直ぐ進み、バルザックはハイオーガへと迫った。

 弓を持つハイオーガの眼前には、大剣を振りかぶったバルザックの姿が――瞬間、既に銀の線はハイオーガの身に刻まれていた。

 死にゆくハイオーガを前にして、バルザックは後ろへ飛び退()く。

 二本の矢が、バルザックの先程まで立っていた位置を通過する。

 射撃方向から二体のハイオーガの位置を特定したバルザックは、着地と同時に力強く地を蹴った。足から地へ力が伝わると共に、バルザックの体が素早く前へと進む。

 道行くオーガを叩き切りながらハイオーガへと肉薄したバルザックは、ハイオーガの持つ弓ごと、その肉体を上下に分けた。

 二分する銀の線の進む先には、バルザックの大剣が朝日を浴び輝いている。

 剣と足を止める暇は、オーガの群れの中にいるバルザックにはない。

 だが、暇は無くとも余裕はあった。

 囲まれているにもかかわらず、バルザックは不敵に笑みを浮かべ、もう一体のハイオーガへと突き進んだ。

 暴風と化したバルザックを止められるものは多くない。

 オーガには不可能であった。

 (かわ)し、切り裂き、蹴り飛ばし、弾き返す。

 バルザックが、オーガの海を泳ぐ。

 自由に、笑いながら。

 バルザックがオーガ相手に暴れている間に、その裏にいたゴーレムたちが炎の槍に貫かれ、次々と消滅していた。

 騎士団側から放たれたものでは無い。サラスの魔法である。

 オーガの数が減り、ゴーレムが消え、残るはジャイアントと、騎士団へ向かったオーガだけであった。

 バルザック達にも騎士団の動きが見える程に、敵が少なくなっている。

 騎士団達の剣が赤く燃え、オーガの肉を切り裂いていた。

 オーガの振る槌を盾で防ぎ、後ろへ飛ばされる騎士もいれば、華麗に盾で()なし、燃える剣でオーガに致命を与える騎士も居た。

 オーガの相手を任せても良い、と考えたバルザックは、悠々と騎士団へ向け侵攻するジャイアントへ向け、走り出した。

 巨人殺しがジャイアントへ肉薄する。

 その結果は、()して知るべし。




「助かったぜ。だが、何で騎士団がこんな所に来てんだ?」


 モンスターを全て殲滅し、安全を確保したバルザックは、騎士団の最も偉そうな人物に声を掛けた。

 それは、(ほお)までピンッと伸びた口髭(くちひげ)(たくわ)えた五十程の騎士であった。

 前線に出るには珍しい年齢の彼は、ダイダロス。

 王都防衛。その遊撃の任に()く騎士隊の隊長である。

 ダイダロスは、気さくに声を掛けるバルザックに対し、髭を横に引っ張り、放すと、胸を張った。


「礼はよい。王の言葉に従い()(さん)じただけの事。しかし、流石『巨人殺し』見事な太刀筋(たちすじ)ですな」

「まぁ、それが仕事だからな。騎士団にもやる奴がいるみてぇだな」


 バルザックの鋭い瞳が、周囲で警備と魔石回収を行っている騎士達へ向けられた。幾人かの騎士が、背を震わせ、怯える。

 その様子を見るダイダロスは、張りのある声をバルザックへ返した。


「いやいや、まだまだですぞ。此度(こたび)もスクロールに助けられた部分が多い。使用法も合わせ、鍛錬が必要ですな」

「ハッハッハ、手厳しいな。で? モルスの使徒を捕まえたんだろ?」

(しか)り。気絶させ、我々が確保している。鉄骨龍へ引き渡すべきかな?」

「いや必要ねぇよ。だが、ダークマターを持っている可能性が(たけ)ぇし、怨嗟(えんさ)の炎には気を付けてくれよ」

「忠告、感謝する」


 (おの)が自慢の髭を手甲を付けた指で()れながら、大きく(うなず)くダイダロス。

 放した髭が、小さく跳ねる。


「隊長。魔石回収と冒険者への魔石の引き渡し。完了致しました」

「良し。我々は王都アルギエバへ戻るぞ。バルザック殿も共に行きますかな?」

「いや。騎士団と一緒に進めば動きが鈍る」

「ですな。時間を掛ければ、つけ入る隙も大きくなる。では、背は任されよ」

度々(たびたび)助かる。任せたぜ、隊長さん」

「道中、油断なされるなよ」

「おう」


 バルザックは、変わらず気さくに返事をし、ダイダロスへ背を向けた。

 バルザックの視線の先には、怪我一つ無い仲間達とオルケインの姿が見えた。

 その(かたわ)らには、度重なる襲撃で倒したモンスターの魔石を背負う馬達の姿も。

 それは此度(こたび)、モルスの使徒の仕掛けて来たモンスターの苛烈(かれつ)さを表していた。


「流石に、もう来んじゃねぇぞ」


 そう呟きながら仲間の元へと戻ったバルザックは、休む間もなく、サラスに詰め寄られた。今にも魔法を放ちそうなサラスに。


「モルスの使徒は!」

「そのまま引き渡すに決まってんだろ。さっさと王都へ行くぞ」

「チッ。命拾いしたわね」

「どっちにしろ首は飛ぶけどな。みんな、行くぞ」

「「「おう」」」「はーい」「ええ」


 五人の声が、バルザックの号令に答えた。

 疲れを見せているのは、変わらずオルケインだけである。

 バルザック達は馬に乗り、街道を駆ける。

 騎士団が両脇にて整列している街道の真ん中を。

 (ひづめ)を軽快に鳴らしながら。

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