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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第十一章

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521/1014

514.幕間~騒動は知らぬ所で・二~

 日が昇る前、濃紺の空に包まれた朝の王都。

 魔法学派『双頭(そうとう)白蛇(しろへび)』が所有する大講堂には、三人の男女が集まっていた。

 一人は、双頭の白蛇の学派長代理である女性、ペンネール。

 琥珀色の眼鏡を身につけ、茶の髪を三つ編みにしている彼女は、既に気を抜いた表情をしていた。無事、黒い剣である(よど)みの(つるぎ)を運び込め、安堵(あんど)している。

 もう一人は、筆頭宮廷魔術師たる男性、タキオン。

 赤いローブと頭頂部に一房伸びた煉瓦色の髪が特徴的である。

 彼は既に、手の平大の魔石を三十個、周囲の床に設置し終えていた。

 それは、宮廷魔術師、双頭の白蛇の学派員達の魔力の(こも)った魔石である。

 最後の一人は、双頭の白蛇の学派員である女性、モーリアン。

 撫で付けられた美しい金の髪を揺らしながら、彼女は力強い瞳で、ペンネールより手渡された淀みの剣を握り、見つめていた。


「後はお願いします。モーリアンさん」

「他人事だな、ペンネール学派長代理。フクロウへ渡るまで、淀みの剣の責任は白蛇にある事を忘れていないか?」

「わ、忘れていませんよ、タキオンさん。外の守りも万全ですから」


 タキオンの視線を受け、ペンネールが慌てたように弁明をする。

 その言葉に、一理あると、タキオンは小さく頷いた。


「騎士団も警備に就いているからな。自信の表れか」

「そうです。ネズミ一匹通しません」

「それは頼もしいな、ペンネール学派長。タキオン、封印魔法を使っている最中は無防備だ。内からの守りは任せる」


 右手に持つ淀みの剣から目を離し、モーリアンはタキオンへ目を向け、言った。

 モーリアンの視線を受けたタキオンは、伸びた背を更に伸ばし、声を張る。

 その内なる気合を、モーリアンへ伝える様に。


「ハッ。モーリアン様には、(ちり)一つ魔力一つ触れさせはしません。我が名と命を懸けましょう」

「ああ、頼んだ。では始めようか」

「はい。タキオンさん、下がりましょう」

「魔石を踏むなよ、ペンネール学派長代理」

「うわっと。ふ、踏む訳ないですよ」


 離れる二人に目を向けずに、モーリアンは、右手の淀みの剣へ己の魔力を遠し、呪文を唱えた。


「≪(ふう)じの(まく)≫」


 モーリアンの魔法により、目に見えぬ程の薄い膜が、淀みの剣を覆い尽くした。

 そして、モーリアンは淀みの剣から手を離す。

 モーリアンの目の前で浮かび上がり、切先を天へ向け、空中に静止した。

 同時に、モーリアンの魔力が、彼女を中心に薄く広がる。

 モーリアンの魔力を受けた周囲の魔石達が、薄っすらと光を放ちながら、意思を持つかのように浮かび上がった。

 そして、モーリアンと淀みの剣の周囲を、ゆっくりと回り始める。

 離れた位置から見守るペンネールとタキオンは、浮かび、回る魔石の一つ一つから、モーリアンへ向け、魔力が流れ始めた事を確認した。

 膨大な魔力を使用する封印魔法。

 その魔力を補う為の魔石達。

 モーリアンは、魔力を身に受けながら、薄い封印の膜へと手を伸ばし、呟く。


(なんじ)、内に秘めし力に意味を持たせず。汝、外に在りし力に傷つくこと無かれ。悠久不滅(ゆうきゅうふめつ)たる汝の名は一つ。≪金剛石(こんごうせき)封印(ふういん)≫」


 モーリアンへ流れる魔力が魔法と化し、淀みの剣を(おお)い始めた。

 薄く、薄く、薄く。

 封印の膜から盛り上がる様に、少しずつ透明な結晶が形成されていく。

 ゆっくりと、少しずつ。

 モーリアンは、周囲に浮かぶ魔石から魔力を取り入れ、自らの魔力に変換し、それを魔法として放ち続ける。

 封印が終わるその時まで、繰り返し、繰り返し。

 モーリアンの周囲に浮かぶ魔石の一つが、光を失い、床に落下した。

 時間が経つにつれ、一つ、また一つと魔石が魔力を失い、落ちる。

 使用した魔力の分、淀みの剣を覆う透明な結晶は、厚みを増していた。

 朝日が昇り、王都を輝かせても、モーリアンの封印は続いていた。

 守る者も多く、襲う者の居ない中、確実に、少しずつ。




 東から登った朝日を浴びながら、六頭の馬が街道を進む。

 馬を操るは、バルザックパーティーとオルケインであった。

 速歩(はやあし)で進む一行は、モルスの使徒に追われている気配を全く見せて居なかった。

 小一時間、街道の両脇の草原に目を光らせながら彼らは進むが、モンスター一体すら、その姿を見せなかった。

 途中の村で、馬を休ませながら、バルザックとサラスは言葉を交わす。


「待ち伏せ、してるだろうな」

「そうね、バルザック。夜通し、私達に黒いモンスターを押し付けて来た奴が、まだ残ってるからね……絶対に、私の魔法で燃やしてやるわ」

「おい、サラス。目的は護衛だからな。忘れんじゃねーぞ」

「分かってるわよ。でもねぇ、人の睡眠を邪魔する奴は大っ嫌いなのよ」


 ()わった目で馬を撫でるサラスを見て、バルザックは苦笑いを浮かべた。


「逃げてくれりゃ、楽なんだけどな」

「私達が楽でも、ろくでもない事になるわよ、それ」

「だよな。依頼を受けといて何だけどよぉ、モルスの相手は、ほんと面倒だぜ」

「そこは、同意しとくわ」


 (うなず)くサラスは、大きな欠伸(あくび)をした。目も細くなっている。

 バルザックも、釣られて欠伸をしてしまう。


「王都に着いたら、まずは宿探しだな」

「酒よ」

「ハハッ。付き合うぜ」

(おご)りなさいよ」

「へいへい」


 周囲の警戒から戻って来たテガー、シャラガムと交代し、二人は警戒へ向かう。

 村は、平和そのものであった。

 バルザックとサラスの鋭敏な感覚は、何一つ異常は無い事を知らせている。


「まっ。追っては来てねぇな」

「挟み撃ちは、御免よ」

「ドム達は、オルケインさんの守りに徹して貰うさ」

「進む先に黒い影が出たら?」

「昨夜と同じで、俺達の出番って訳だ」


 ぐるりと村を回りながら、二人は仲間の元へ向かう。

 すれ違う村人達は皆、バルザック達に小さく頭を下げていた。

 手を軽く挙げる事で、その返事とするバルザック。

 特に知り合いでもない間柄のやり取りなど、このようなものだ。


「さて、巻き込まない内に、行きましょうか」

「馬には、ちっと無理させちまうけどな」

「背に腹は代えられないわよ」

「ああ、命を懸けんのは、暴れ回る時だけにしてぇぜ。罠に掛かってグサリ、なんてのは勘弁だ」

「あんたなら、罠ごとぶっ壊すでしょ」

「やわっちい罠ならな」


 自然体に話しながら、二人は肩を揺らして笑う。

 その姿は、周囲から見れば、気の抜けたものにしか見えないだ。

 だが、その実、二人の意識は、常に警戒を続けていた。

 それは、モンスターの闊歩する世界を渡り歩く冒険者ゆえである。

 バルザックとサラスは、そのまま仲間達と合流する。

 バルザックの目に、活力の満ちたドム、テガー。シャラガムの顔が映った。

 そして、オルケインは、疲れが滲み出ていた。


「オルケインさん、あと一歩だ。気張って行こうぜ」

「ええ。馬は、あと一度休ませますか?」

「いや。このまま王都まで直行だな」


 バルザックは、オルケインの質問の答えを帰しながら、視線を送り、他のメンバーの同意を取る。

 皆、一様に(うなず)き、ハッキリと意思を示した。

 進むと決まれば、罠が待っていようと進むしかない。

 バルザックは、決断を言葉に変え、鼓舞とする。


「よし。いくぜ、みんな。クソッたれの罠を踏み潰すぞ」

「「「おう」」」「ええ」

「よろしくお願いします」


 バルザックパーティーとオルケインは、それぞれの馬に乗り、馬の鼻を王都へと向けた。


「任せろ。ハッ」


 快活な掛け声と共に、馬達が歩みを始める。

 その速度は、操りに合わせ、動きを速めた。

 トコトコ歩きの常歩(つねあし)から、蹄が小気味良い音を立てる速歩(はやあし)へ。

 そして速歩から、足運び自体が変わり、走る駈歩(かけあし)へと。

 バルザック達は、未だ朝日と呼ぶべき東からの光を浴びながら、草原を割って伸びる街道を駆けていた。

 次の村を通過し、更にその先の村も通り抜ける。

 そして、次の村へ向かう途中の草原で、バルザック達は足を止めた。

 何もない地面から、()き上がるかのように、黒いモンスターの群れが現れたからだ。闇よで見るよりも、その黒は暗かった。

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