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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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46.大事なこと

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝 

「やぁ、マルク。お疲れ様。それにしても随分な暴れようだったね」


 砦に逃げ込むと、アムが出迎えてくれた。

 流石にお遊びが過ぎると思ったのだろうか、バルザックさんは、ドムさんとテガーさんに拘束され、連れていかれた。

 模擬戦であろうとバルザックさんと戦っていたら、命が幾つあっても足りない。

 自身の息が荒い。魔力も体力も消耗した後に、バルザックさんから逃げるなんて事をした所為だろう。流石に疲れた。

 アムには、少し息を整える時間を待ってもらおう。

 ゆっくり吸って……ゆっくり吐いて…………。


「ただいま、アム。あの竜巻、お前のだろう」

「あぁ、あれくらい簡単なものさ。砦は君に任されたからね」

「ああ。ありがとう。こっちも蹴散らしといたよ」


 軽口を言うアムに合わせてみた。少しだけ、すっとした気持ちになれる。

 俺が拳を突き出すと、アムも拳を突き出す。そのまま、コンと合わせる。

 アムの笑顔に、釣られて笑ってしまう。


「やっぱり仲がよろしいですね」


 上から、凛とした声が聞こえてくる。

 視線を上げると、ミュール様がふわふわと舞い降りている途中であった。

 ミュール様に、片手を伸ばす。

 彼女も意図を察してくれたのか、俺の手にそっと片手をのせる。

 空中浮遊の出来る人間に、手助けなど必要なのかは、甚だ疑問ではあるが。

 ミュール様は、羽根が水面に着くかのように、音もなく優雅に着地をした。


「ありがとう、マルク。それに戦場では良き働きでした。フクロウの瞳を代表して礼を」

「礼は、有難く頂いておきます。ですが、俺の勝手でもあるので、気にしないでください」

「そうでしたね。では、私個人の借り一つ、ということで」

「はい」


 俺の言葉に、ミュール様は微笑んだ。何故(なぜ)アムは、この人を恐れているのだろうか疑問に思ってしまうほど、優しい笑みで。

 個人的な貸し借りで済ませて貰ったことも、俺としては助かる。

 学派に恩を売ったとか、そう思われても心外で、そして面倒でもある。


「それと、アム。あなたもご苦労様でした」

「微力ながら、ミネルヴァ様のお力になれたので有れば、フクロウの一員として光栄であります」


 アムが言葉を放つ前に、彼女の膝がピクリと動くのを見てしまった。

 膝をつき、首を垂れるのを我慢したのだろう。

 それをすると、ミュール様の機嫌が悪くなる気がするのは、俺にも少し分かる。

 結果、アムは、立ったまま礼をするに止まったようだ。


「頭を御上げなさい、アム。それに――」

「おう、ミネルヴァ様。何か解決した風で話して貰ったら、困るってもんだぜ」


 バルザックさんが、ミュール様の言葉を割って現れた。

 戦闘の興奮から落ち着いたのか、こちらに飛び掛かてくる様子はない。

 ドムさん、テガーさん。ありがとう。


「ええ、ダークマターの調査が終わっていませんから」

「ああ、そうだ。調査隊の役目がそれで、俺たちゃその護衛だからな。これで任務完了とはいかねぇのさ」

「後に百名の学派員が応援に来ますので、調査隊の再編成を行います。その護衛依頼、継続して受けて貰えますか?」

「貰えるもんは貰えんだろ? 『氷の女王』が節制家って話は聞かねぇしな」

「ええ。此度(こたび)の戦いにおける功績も合わせて」


 フフフとガハハ。

 涼しい声と渋い声のハーモニーが、砦に響き渡っている。

 遠くで、学派の人達が何故(なぜ)か怯えている。

 ドムさん達も二人から目を背け、知らない振りをしている。

 何故(なぜ)だろうかねぇ……。




「やっぱりか……」


 料理屋『グラン・ピスケス』の前で、私の口から言葉が零れた。

 朝から先程まで、屋敷でお兄ちゃんの帰りを待っていたのだが、予約の時間が迫り、時間切れとなってしまった。


(仕方ないよね……もう二人分食べちゃおう)


 お兄ちゃんが朝から屋敷を抜けていた時点で、こうなることが分かっていた。

 また”何処か”で”誰か”を助けているのだろう。自分の身を削って……。

 分かっていたが、それでも……。


「一緒に食べたかったなぁ」

「ああ。俺もだよ」

「へ?」


 聞きなれた、今聞きたい声が耳に届く。

 私は驚き、幸せの方向へ振り向いた。

 そこには、珍しく肩で息をしたお兄ちゃんが立っていた。

 お兄ちゃんはこちらに向け、手の平を見せ、制止を促している。

 お兄ちゃんは深呼吸をして、息を整えているようだ。

 どうしてここに? それよりも――


「お兄ちゃん……ってお兄ちゃんどうしたの、そんなに疲れて」

「ふー。はー。ちょっと朝から……アムに呼ばれてな……ふぅ。みんなと、モンスター討伐しに行ってきたんだよ」

「怪我は? というか、疲れたなら休まなきゃ駄目だよお兄ちゃん。ほら帰ろう」

「嫌に決まってるだろ。シャーリーん()に行って、俺ん()に行って、それでもいないから約束の店まで走ってきたのに、とんぼ返りなんて御免だね」

「あの時、聞いてたんだ」


 フラフラで町を歩き、そしてベッドに倒れ込んだお兄ちゃんを思い出す。

 私の心配を他所(よそ)に、当のお兄ちゃんは胸を張り、威張りながら言葉を返した。


「フッ、当たり前だろ」

「いっつもお兄ちゃんってば、話、聞いてないのに?」

「ぐっ! それはすまんと思っている」


 目の前のお兄ちゃんが、途端に小さくなる。彼の目も、ふにゃりとなった。

 私にはそれが面白く、楽しかった。

 うん。こんなことでいい。それでもう――


「いいよ。約束守ってくれたんだから」


 私を見るお兄ちゃんの顔が、一瞬固まる。

 動き出したお兄ちゃんの表情は、恥ずかし気に顔を赤らめていた。


「ん? どうしたの?」

「あっ、いや……贈って良かったなって」

「え?」

「耳飾り。シャーリーにピッタリだなって思ってさ。綺麗だよ」


 ちょっと残念に思った。可愛いお兄ちゃんが、横を向いてしまった。

 もっと正面から見ていたかったのに。

 自分だけに見せる表情を、もっと。もっと。


「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん。でも似合うのは当然だよ……お兄ちゃんが選んでくれたんだから……」


 そう、似合わない訳がない。お兄ちゃんが選んでくれた宝物が。

 着けてこない訳がない。お兄ちゃんから貰った宝物を。

 でも、言ってて少し恥ずかしくなった。 


「ってほら、予約の時間に遅れちゃうよ。行こう」


 私は、お兄ちゃんの手を取り、店の入り口へと向かう。

 この気持ちを隠すために。この素晴らしき時を、楽しむために。

 お兄ちゃんの笑顔を、また一枚、心に刻むために。

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