44.テーベ平原の戦い~一閃~
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「アム。お前が何故ここにいるんだ」
「オルケインさん、御無事でなによりです。それと、僕がここにいるのは、ミネルヴァ様に連れてこられたからですよ。マルクのついでに」
アムの言葉に、オルケインの顔が歪む。
「ミネルヴァ様が直々にお見えになって……」
「マルクしか目に入っていないと思いますが。お気をつけください」
「わ、わ、わ、分かった」
そしてオルケインは、ぎこちない動きで他の学派員の元へと向かっていった。
「よう坊主。さっきは、手間省いてくれて助かったぜ」
「いいえ、マルクの頼みですので。初めましてバルザックさん。僕の名は、アムと申します」
「ハハッ。戦場で自己紹介はいらねぇよ」
「私、サラスっていうの。宜しくアム君」
「おいおい」
呆れるバルザックを無視し、サラスはアムにしな垂れ掛りながら言葉を続けた。
「ねぇアム君。ちょっとお姉さんに、さっきの魔法の事、教えてくれなぁい?」
アムは表情一つ変えず、端正な顔を保っている。
「魔法は各々が秘匿すべき……と言いたい所ですが、別に構いませよ」
「あら、話の分かる子ね。私そういう男の子好きよ」
「初歩魔法の応用です。魔力を増した竜巻の中で、複数の風の刃を制御しているだけの単純な魔法です」
「そんなの制御出来る訳ないじゃない。インチキ」
損した! と言わんばかりにサラスは、アムから体を離す。
それをアムは鼻で笑った。
「すまねぇな坊主。こいついつもなんだ。許してくれ」
「お構いなく。して、冒険者の皆様は、これからどうするおつもりですか?」
「ああ、マルクの助け――いや、違うな。一緒に暴れてくるぜ。坊主も来るか?」
「いえ。マルクにここを頼まれていますので」
「そうか。じゃあ後ろを頼んだぜ坊主。よし、お前ら行くぞ」
「「「おう」」」「はーい」
言うや否や、バルザックパーティー五人は、砦から駆け出して行った。
その後姿を、アムは見送る。
「援軍は送ったよマルク。君には必要ないかもしれないけどね」
そしてアムも砦を出る。倒し損ねたホークマンが居ないかの確認に。
かなりの数のオーガを倒せただろうか。
振り返り――「≪火精霊の球撃≫」――魔法を放つたびにオーガとオークの比率が変わり、オークが多くなっていく。
そしてまた、砦へ向け駆ける。
しばらく距離を稼ぎ、もう一度、振り返り、呪文を唱える。
「≪火精霊の球撃≫」
生み出した十の炎の球に、魔力を無理やりに込め、オーガへの致命打となるように放つ。ばら撒くように、適当に。
命中の確認はしない。
また砦へ全力で走る。爆発音だけが、背から響く。
何度も繰り返す。
いつだって、何をするにも地道に。
するのは、面倒くさいんだよなぁ……。
ドカンと吹き飛ばしたくもなるが、ジャイアントに魔力を残しておきたい。
結構、走った気がするが、砦まではまだ距離がある。
距離もまた、ジャイアントが暴れた時の安全圏を確保しておきたい、
もう砦には、ホークマンの姿は見えない。
戻れば、援護が受けられるだろう。
だが、それは一歩間違えれば、避難した村人を巻き込みかねない事だ。
砦から誰かがこちらに来ているのが見えたし、そろそろ――
「ここらで足止めとするか、≪火精霊の球撃≫」
振り返り、今度はオーガを狙って、放つ。
オーガとオークでは、オーガの方が攻撃性が高く、近寄られると厄介だ。
オーガの数を優先して減らす。
魔法の直撃と共に、爆発が広がる。
黒い影のようなオーガ達が、上半身を吹き飛ばされ、その存在が掻き消えていく。が、代わりにオークが最前列に出てくる。
肉厚な黒い壁は、まだまだ開きそうにない。
いつも見ているピンク肌のオークよりも、黒で覆われたオークは、端正で強靭に見える。見えるだけだろうから、戦う分には問題ないが。
大群が揺らす地面の感覚が伝わるほどに、オーガとオークの作る黒い壁は近付いてきている。
まずは、正面に穴を空ける。
両翼のモンスターが砦へ抜けても、彼らが処理してくれるだろう。
火精霊の球撃は、使いやすくて良い。
イメージも簡単で、魔力の調整も容易い。が、別の魔法が使いたくなる。
火精霊の球撃で一体一体倒した方が、魔力は節約できるのだが……。
横に一列、吹き飛ばすには良い魔法が一つある。
炎の力をただ、ただ高める。
ただ真一文字に薙ぎ払う。払うのは敵ではない。
己の中で溢れ出る炎を、魔法に転化する。それは炎竜の放つ一撃。
右手を空に掲げ、呪文を唱える。
「≪炎竜の一閃≫」
右手から青い空に向かって、赤く、視認できる魔力の塊が飛んでいく。
魔力の塊が、空中で停止すると同時に、俺は右手を振り下ろし――
「薙ぎ払え」
魔力の塊から、一筋の赤い光が放たれた。
それはモンスター達の下、その地面に突き刺さり、赤い光が、左から右へと地を撫でていく。
瞬間、地面から、炎の柱が立ち昇った。光の描いた線の導きに沿って。
黒い影が炎の柱に焼かれる。オーガもオークも関係なしに。
咆哮が聞こえる。それは断末魔だろうか。
炎の柱はあっという間に消えていった。炎に巻かれた者達を共に連れて。
騒がしい戦場に、拍手の音が聞こえる。
ミュール様だ。彼女は、今も優雅に砦側上空で浮かんでいる。
俺を観察できる位置で、俺を演者とした劇でも見ているかのように。
「おう、派手にぶっとばしたじゃねぇか、マルクよぉ」
到着が思ったより早かった。この渋い声には聞き覚えがある。
俺は振り返らずに、彼に話しかけた。
「お久しぶりです、バルザックさん」
「ドム達も来てるぜ」
「はい。ミュール様に聞きました」
「ハハハ、で? どうする? もう近くまで来てっが?」
「あー、すみません、オークをお願いしていいですか」
横を向き、バルザックさんを見ながら頼むことにした。
二十台後半だっただろうか?
彫りの深い顔には、若さが溢れていた。
彼の、獲物を狙う鋭い目は、冒険者達をも震え上がらせることで有名だ。
筋骨隆々な体付きと、鋼よりも堅そうに絞られた腕によって振るわれるべき大剣は、今、現在も、彼の大きな背に担がれている。
バルザックさんは、鋭い目で俺をひと睨みし、笑い出した。
「お前もジャイアント狙いか。まぁいいぜぇ。俺達も、黒豚ぶっ潰したらすぐ行くからな。俺の分も取っとけよ」
そして、バルザックさんは、オーガとオークの群れに飛び込んでいく。
その後ろから、胸部甲冑を着こんだ戦士然とした二人が続く。
ドムさんとテガーさんだ。
他の二人は距離を取っているのだろう。魔術師だし。
さてと、彼らが来てくれたなら、もう温存は必要ない。
俺が狙うのは、奥に見えるジャイアントだ。
たしか数は、十体だったか。
遠距離から狙っても、効果は薄い。接近して、切り伏せるのみだ。
でも、まずは。
「≪火精霊の加護≫。そして――」
自身を守る魔力の塊を。
纏う炎。指先で炎が揺れる。
想像の中で一つの形になり、その存在の名を呼ぶ。
「≪炎獄王の鎧≫」
全身から炎が溢れ出る。炎は一つだ。自身が炎の様だ。
触れる地も燃える。
変わらず視界が悪いが、ジャイアントを倒すまでは我慢だ。
しかし、これは守りでしかない。
あとは、ジャイアントに近付きながらで。
足が前に進む。蹴った地が燃え上がる。
炎竜の一閃で開いた道も、左右のオークらが押し寄せてきていた。
振るわれる棍棒も、掴みかかろうとする手も無視して突き進む。
棍棒は空を切り、オークの手が燃え、焼き切れた。
もう、オークはどうでもいい。バルザックさん達が全て平らげてしまうだろう。
俺が考えるのは、一本の剣。
自身の持つ魔法の中でも、強力な一つ。森で、奴を斬り過ぎてしまった魔法。
何度も練習した。繰り返し、繰り返し。
イメージをより強固にするために、大きすぎる力を制御するために言葉を使う。
「其は原初の光。猛る汝に触れるは誰ぞ。今ここに塵と化す者の名を――」
もうすぐ、ジャイアントの振るう大棍棒の届く範囲に入る。
燃える炎を、全てを焼き切る力を。脅威を塵と化すただ一つの剣を。
この手に。
「――我に、示せ。≪炎帝竜の大剣≫」
振るわれた大棍棒の内側に潜り込み、回避する。
巨大ゆえに、空く隙がある。
燃える俺の両手には、さらに熱い、持つ手を溶かすような赤い炎の大剣が握られている。
俺は大剣を振るい、目の前の黒いジャイアントの両足を、焼き切った。
切断面から下の足は焼き消えていく。
が、上は炎がくすぶり続けるだけで、ジャイアントが燃えることはなかった。
回復力ゆえだろう。
しかし、足を失ったジャイアントは、上体を倒しながら落下していた。
届くなら、斬れる。
落下するジャイアントの股から首の下までを、その場で斬り上げる。
切り裂かれたジャイアントは、炎に浸食されるように、燃え、消えていった。
「まずは一体」
これは、先が長そうだ。




