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ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第一章

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35.彼への伝言を頼めるのは

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

「マルクは相変わらずだね」

「茶なら出ないぞ」


 二人分の食器を洗い、戻った所で、いきなりの言葉だ。

 コップがあるなら、幾らでも水は出せる。

 いや、茶を出す魔法を、今度考えてみるか?


「フッ。違うよ。昨日の話さ。あちらこちらと大変そうだね」

「あれ? 何か怒ってる?」


 アムの語気が鋭い。機嫌を損ねる部分があったかな?

 アムに対して、いつもと違うことをしたとすれば、贈り物ぐらいだ。

 気に入らなかったのか、もしくは、風習や伝統として贈ってはいけない物だったとか……。

 うーん、わからん。って昨日の話か。

 なら、贈り物ではないのか?

 アムの視線に気付いた。卓に肘を立て、その手で顎を支えながら、アムは自身の頬を指でとん、とん、と叩いている。行儀が悪いな。


「また、見当違いの事を考えているね……シャーリーから聞いたよ。君がフラフラして帰ってきたってね。僕は、何があったかを知ってるから、追及はしないさ」

「あぁ。それはすまん。シャーリーに心配させたのなら、後で謝ってこないとな」

「その必要はないよ。彼女だって、身の無い謝罪をされても困るだろうさ」

「うっ」


 昨日だって、その前だって。

 荒事に首を突っ込む以上、命の危機は付きまとう。

 だから、シャーリーに心配させない。なんてことが出来る訳がない。

 もしそんな時が来るとしたら、それは、シャーリーの俺に対する評価が地に落ち、”どうでもいい人間”に分類された時だろう。

 それは、それだけは、絶対に御免だ。

 では、どうする?

 俺は、その答えを持っていない。


「マルク。そうやって悩めるようになっただけ、前よりは、まともになっているよ。冒険者だった時の君は”誰か”について考える暇も、余裕もなかったからね」

「お前が怒っているのか、それとも褒めてるのか。正直、分からないんだが」

「どっちもさ。スープが無ければ、一日お説教だったけどね」


 そう言うと彼女は、表情を和らげた。


「スープでほっこりかと思ったら、怒っているし、かと思えば笑い出すしで……今日のアムは、忙しいな」

「フフッ、君のせいだろう、君の。僕がここで、マルクが起きるのを待っていたのだって、昨日から今朝にかけての話を、伝える為なのだからさ」

「学派からのお使いか。お前も大変だな。ダークマターは、その後?」

「問題ないよ。封印した魔術師は、良い腕をしているね。あれを見れば、誰が封印したかを秘密にしたがる理由も分かるさ」

「アムは、誰がやったか知ってるのか?」

「誰なのか知らされてないよ。あれがマルクの魔力って事は分かるけど。君は、あんなこと出来ないよね」

「出来れば俺も、封印の魔法を見たかったんだけどな」


 そうすれば、真似出来たかもしれないのに。


「へぇ。マルクにも秘密の魔法だったのか。確かに興味があるね」

「そうだな、気になるな」


 ただ気絶していただけ、ということは知らないようだ。黙っていよう。

 それより今は、気になることを聞くべきだ。


「それで、アム。ザギーはどうなった?」

「あぁ、それ当然偽名だったよ。本名は、別にいいよね。まぁ大人しく喋ってくれたから、スムーズに”話し合い”は終わったようだよ」

「それで、あれは何処(どこ)で手に入れたって?」

「既に学派が調査隊を組んでいるよ。場所は君には秘密さ。言ったら、すぐに飛び出して行くだろうからね。だから僕が、君への伝言役に選ばれたのさ」


 監視任務付きかよ……ちょっと心外だ。


「流石にそこまで、短絡的でも馬鹿でもないぞ」

思慮(しりょ)しても突撃するのが君さ。時には自分で馬鹿になるのも君だよ。だから心配なのさ。今回だってアレを封印する為に、魔力を提供したのだろう?」


 アムが、苦い顔をしながら話を続ける。

 今日のアムは、百面相だな。


「それが魔術師にとって、どれほど危険なことなのか。自身の魔力を他者に預ける危険性を、そのまま命まで取られる可能性もあったのに」

「信用してたってのもあるけどさ。アレを壊すのも、危険には変わりないからな。その場で封印できるなら、賭けてみたいだろう?」


 ダークマターは破壊すると、モンスターを呼び寄せる強力な魔力を拡散させる。

 ダンジョンのあるこの町の近くで安易に破壊すると、大惨事になる。

 十年前に、邪竜がこの国に現れたのも、あの石の所為(せい)だった。

 今回も、比較的人の少ない場所で破壊し、集まったモンスターを全て倒す必要があった。もしくは、封印の可能な魔術師、王都にいる魔術師が到着するまで、群がるモンスターと戦い続けるしかなかっただろう。

 ムウが居てくれたおかげで、迅速な対処が出来たことは、僥倖(ぎょうこう)であった。

 それに、個人的にも壊さなくて良かったと思う理由がある……。


「成功して一番喜んでいるのが、パック先生なんだけどね。マルクも所有権を主張しなくて良かったのかい?」

「関わった冒険者パーティーも放棄したんだろう? 俺が言うことじゃないさ」

「ああ。まぁ主張されても、お金で解決しただろうけどね。結局、主張したのが我々だけだったから、ダークマターは、フクロウの瞳で保管することになったよ」

「壊すなよ」

「それは、頬を擦り付けている人に言っておくれ」


 俺に一釘刺し終えたからか、アムの顔は、普段と変わらぬ微笑を帯びた美少年顔に戻っている。

 その顔が百面相していたのも、俺を心配してくれての事だと思うと、申し訳ないような、ありがたいような、複雑な気持ちになる。

 とはいえ、何かをアムに返せるわけでもない。

 今日はアムの監視を受けて、大人しく過ごそう。


「それで? 監視は何時までなんだ」

「ん? 監視なんてしないよ。してもいいなら、鎖で(つな)いでおくかな」

「そのためのアムじゃないのか? 学派は、ただの連絡係にお前を使うなんて贅沢しないだろ」

「僕以外だと、マルクが無理矢理にでも聞きだしかねないと、思っているんだよ」

「学派は俺を、猛獣か戦闘狂とでも思っているのか」

「君と面識がなければ、そんなものだよ」

「え? 嘘だろ……」

「フフッ。冒険者マルクの話を聞けば、誰だってそう思うさ。実際は、こんなに優しくて、ゆるい男なのにね」

 

 そしてアムは、再び穏やかに笑い出す。

 俺は、また要らぬ事実を知ってしまった。

 まさか見知らぬ人々に、戦闘狂扱いされていたなんて。




 少しの間、アムと二人で、ただゆったりと駄弁(だべ)る。

 冒険者だった頃は、近況報告がてら話すことはあっても、こう只々(ただただ)雑談するための雑談なんてした憶えがなかった。

 (さかのぼ)って考えると、二人で母に魔法を教わっていた時まで、戻ってしまった。


「でな、全力でぶっ放そうと思ったらな……」

「アハハ、よく無事だったねマルク……」


 共通の話なんてほとんどない。

 それでも適当に、ただ適当に言葉を交わす。

 だがそんなひと時も、屋敷のトラップが発動したことで、終わりを告げる。

 俺もアムも、即座に近場の剣を取る。

 この習慣が役に立った試しなぞ特にないが、体に染みついたものだから仕方がない。今回も、普通の来訪者だろう。

 門から玄関までの道を確認できる窓へ移り、外を確認する。

 見知った五人だった。


「アム、この間の新人パーティーだ」

「ふぅ。これが発動すると、つい警戒してしまうね」

「全くだ」


 二人して剣を戻し、顔を見合わせる。

 こいつ、息を抜いた顔までも優男だ。


「来客みたいだし、そろそろ帰るとするよ」

「今度は、茶を出すよ」

「茶葉は、期待しないでおくよ」


 アムは、彼らと出会うのが面倒なのか、裏口から帰っていった。

 さて、茶は出せないけど、出迎えぐらいしますかね。

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