↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミネルヴァの雄~冒険者を辞めた俺は何をするべきだろうか?~  作者: ごこち 一
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/1014

105.『鴨の葱』の頼み事

誤字修正 読みやすいように全体修正 内容変更なし 誤字報告感謝

「起きて、お兄ちゃん。お兄ちゃん」


 いつもの声で、目が覚める。

 体を起こす前に、いつもと違うことに気が付いた。まだ、日が出ていない。

 俺を起こしたシャーリーの顔も、浮かない顔をしている。

 まさか! 俺を呼ばねばならぬ事態が!


「何かあったのか!」

「え? あっ、違うよ、お兄ちゃん」


 シャーリーの声は落ち着いていた。賊やモンスターでは無いらしい。


「えーと。緊急事態とかじゃ無いんだな」

「うん……」


 それでも、早くに起こしに来たということは――


「よし、手伝いに行くか」

「え? まだ何も言ってないよ」

「ん? 店の手伝いが必要なんだろ?」

「なんで、そういう勘はいいの? お兄ちゃん……うん、ちょっと人手が足りなくて、手伝って欲しいんだ」

「顔洗ったら、出発な」


 体を伸ばし、いつものように――「≪(いや)しの(みず)≫」――顔を洗う。シャーリーが差し出してくれる布で、顔に残った癒しの水を拭き取る。

 うん? まだシャーリーが微妙な顔をしている。


「どうかしたか?」

「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんってさ、嫌だったり断ったりしないの?」

「するぞ。面倒なことは、当然面倒くさいし」

「私の勝手な理由で早く起こして、雑用させようってしてるんだよ」


 うむ、そう考えると中々億劫(おっくう)な話だな。だが断る理由は無い。

 そして、受ける理由はある。


「シャーリーには、いつも世話になってるんだから、こういう時に返さないとな」

「それは、好きでやってるだけだよ」

「なんだ、俺と同じじゃないか」

「違うってば、もう……」


 シャーリーが困ったような顔をしている。

 俺も我が強すぎただろうか? いや、シャーリーとリンダさんの手伝いは譲れない。たとえシャーリーだろうと。


「もう目が覚めたし、手伝うのは決定だからな。諦めろシャーリー」

「何で、お願いしてる私が断る流れなの……わかったよ。店の手伝いお願いね、お兄ちゃん」


 シャーリーの伸ばす手を取り、寝床から立ち上がる。

 さてと、今日は、いつもより頑張りますか。




「朝早くからすまないね、マルク。旦那もハイスも居なくて人手が足りないんだよ。そう、猫の手も借りたいぐらいさ。マルクが来てくれたから猫の手どころか虎の手だから、大助かりだよ。さぁ、早速作業を始めようじゃないか。マルクは、おばちゃんと一緒に搬入を頼むよ」


 恰幅の良いリンダさんは、今日も元気で満ち溢れている。壮健で嬉しい。

 だが、開口一番にこれでは、少々面食らう。

 朝の挨拶ぐらい挟ませて欲しいものだ。

 ハイスは、シャーリーの弟である。鍛冶師見習いで、現在修行中の身だ。久しく会ってない気がするが、リンダさんの語り口調を聞くに、元気なのだろう。


「おはよう、リンダおばさん。運ぶのは倉庫で良いんだよね?」

「ああ。おばちゃんが検品して、マルクが運ぶ。そしてシャーリーが仕分ける。これで行こうじゃないか」

「了解です」「うん。お母さん」


 まだ外は、薄暗闇に包まれている。

 魔工石が灯り続けているので、明るくはあるのだが、少しだけ肌寒い。

 シャーリーが内仕事で良かった。

 作業をするために、俺達は移動する。

 シャーリーは倉庫へ。俺とリンダさんは、そのまま進み裏口へ。

 搬入口にもなっている裏口を開けると、そこには山のように積まれた木箱の数々が……これ、倉庫に入り切るのか?

 リンダさんが、木箱を開け、中を(あらた)め始めた。

 俺は、リンダさんの作業が済まないと動けない。

 リンダさんが、手持ちの紙に、小さくて細い棒を押し当てた。

 赤い液体を付けた棒で、検査済みの印を残しているのだろう。

 俺は、リンダさんに近付き、木箱を両手で持ち上げる。


「ありがとう、マルク。終わったのは、そっち置いとくから、どんどん持ってっちゃって」

「任せて」


 開けっ放しの扉を抜け、廊下を通り、倉庫部屋へと木箱を運ぶ。

 やはりこれは、訓練していない人には辛い作業だ。

 中身の前に、木箱がそこそこ重い。

 そして、裏に積まれた大量の木箱……手伝いに来て良かった。


「シャーリー。これ、どこに置く?」

「こっちに持って来て」


 倉庫部屋の奥にいるシャーリーの所まで、木箱を運ぶ。落とさぬよう、慎重に。

 そして、床にそっと……置く。

 荷物は、持ち上げる時と置く時が、筋肉に負荷が掛かる。

 普段のリンダさんも、腰を痛めなければよいが。


「ほい。じゃあ次、持ってくる」

「はーい」


 シャーリーの元気な声を聞くと、張り切る気持ちになる。

 さぁ、運搬作業は、朝飯前に終わらせようか。




「ビィは、来年卒業なんだっけ?」

「いきなりなーに? 丸二年もまだあるのに、気が早いよ、マルク兄ちゃん」


 そう言って、シチューを食べる事に戻ったビィは、シャーリーの妹である。

 年の頃は十と幼く、まだまだ成長真っ最中である。

 顔立ちもリンダさんやシャーリーに似ており、可愛らしい。

 髪の色は、父親似なのか、少し暗めの茶色だ。

 毛先が、外側に跳ねているが、あれは寝ぐせでは無い。

 ビィは、魔法の才があった為、現在、魔法学派の営む学び舎に通っている。

 今日も、朝食後は学び舎へ直行らしい。

 子供は、子供で大変なのだ。


「ビィが、どういう道に進みたいのか、ちょっと気になってな」

「まだ考えてないよ」

「そうか。ならいいんだ」


 俺が冒険者を辞めてから、ビィとは初めて会ったから、少し心配になったのかもしれない。

 彼女が自分の考えで、己の進む道を選べるのなら、手助けしてあげたくなる。

 学び舎を出た魔術師の進む道は、幾つもある。

 冒険者。工房。商会。学派員。

 師の付き人になる場合もあれば、自身の研究室を持つ場合もある。

 宮仕えならば、筆頭宮廷魔術師の下について、国事に関わる道もある。

 お勧め出来ないが、戦力として王国兵になる道も一つだろう。

 魔法を使う以外の仕事に就くことも、当然可能だ。

 ビィは、何を選ぶのだろうか? 自分の意思で選べるのだろうか?

 真っ当に働いている幼馴染達に言わせれば、まずはお前が働け、と言われるだろうが……心配なものは、心配なのである。


「マルク兄ちゃん。シチュー冷めるよ」

「おっと! せっかくのリンダさんのシチューが」


 匙を、シチューへと潜らせる。

 持ち上げた匙の中に、とろりとした乳白色の海が見える。

 零さぬように、口へと運ぶ。

 少々の粘性が、舌に甘さを届けてくれる。煮込み、溶け込んだ野菜たちが、一層、一層と、折り重なっているようだ。食感となる豆も、良い変化となる。


「んー。おいしい」


 ビィが思考を止めてくれたおかげで、まだまだ温かい。

 そうだ、ゆっくり食べねば。ビィの教育に悪い。

 ゆっくりと食べる俺を、ビィはジーっと見つめていた。丸い目が愛らしい。


「がつがつ食べて良いんだよ。マルク兄ちゃん」

「フフフ。生まれ変わった俺は、エレガントに――」

「フッ。エレガントなんて……アムさんが言うならまだしも……フッ」


 ビィの肩が、ガタガタと震えている。

 どうも鼻で笑っている訳ではないらしい。変なツボに入ってしまったようだ。

 うん。放っておこう。

 今、大事なのは、食事の続きだ。ゆっくりと、味わって食べよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。