おうち探しはトントン拍子
週末。祥順は浩和と共に物件巡りをしていた。浩和は二つの不動産屋で三つの物件候補を見つけてきた。それを見に行っているのである。
2LDKが二つに3DKが一つ。間取りの事は分からないが、浩和には何か感じるものがあったらしい。
「まずは一つ目」
不動産屋のスタッフに連れられてやってきたのは祥順が現在住んでいるようなマンションであった。都内でもよくある細長い系のマンションで、一つの階に三部屋しかない。十階建てという事を考えればおおよそ二十七部屋といったところか。
LDKを多めに取った間取りになっていて、他の部屋は小さめだった。小さいとは言っても五畳半ずつで、半畳のクローゼットがついているのだから、まあまあだろう。寝て着替えるだけならば、この広さで十分である。
「一緒に過ごす時間が長いと仮定して、最低限を詰め合わせている物件がこれ」
「なるほど」
浩和のその一言で、祥順が感じた印象が正解だったと分かってほっとした。
トイレとバスルームは祥順の家と多分同じ広さで、祥順の生活ががらりと変わるような場所ではなさそうである。ただ、浩和の家のバスルームを考えると手狭のような気もしなくもない。
それは本人が理解した上での物件候補なのだろうが……。
日当たりはそこそこで、祥順は割と普通に暮らせてしまいそうである。キッチンはカウンタータイプになっていて、その壁側には食器棚があった。こちらは比較的浩和の住んでいる家に似ている。
「なかなかだろう?」
「そうだね」
あまり会話という会話のないまま、一通り見たところで次の物件へと向かう。余計な会話をしない事で、祥順が集中して物件を見れるように気を配ってくれているのかもしれない。
次の物件は3DKで、ちょっと変わった間取りだった。
「ここは3DKなんだけど、実質2LDKなんだよ」
「ええ?」
聞けば、一部屋は引き戸で完全に開ける事ができ、開けっ放しにしておけばL字型のLDK風になるのだと言う。間取り図で見た通り、収納は少な目で家具が必要になるだろう。
LDK風にしてしまえば意外にも開放感のある部屋に見える。
「わ、広く感じるな」
「だろ。変わり種って感じで、候補に入れたんだ」
キッチンはカウンターテーブルが置かれた壁付けタイプだった。さっき見たキッチンの方がお洒落な気はするものの、これはこれで使いやすそうではある。
何より、ちょっとバーっぽくて格好良い。
他の部屋は普通で、さっきと同じくらいの広さだ。家賃の方はそこそこ上がる。二人で支払う事を考えれば、とてつもない金額ではないのがさすがは浩和のチョイスだと言わざるをえない。
ついでに言えば、バスルームは浩和の家と同じくらいだった。余裕があって良い。
最後に別会社での2LDKである。先ほどの不動産屋には改めて連絡をすると告げて別れた。辿り着いたのはこれまた少し変わった間取りだった、中央にLDKがあり、その両脇に一つずつ部屋がついているタイプである。ほぼ正方形の枠に、上手く部屋を入れ込んでいる。二つの部屋は広さが異なっていて、狭い方の部屋の隣はバスルーム等が並んでいる。
中央のLDKにあるキッチンはアイランド型で、料理好きな人には受けが良さそうである。それを示すかのように、浩和がキッチンに張り付いている。彼がじっと見つめているのは電化製品だった。
IHコンロが備え付けとは、祥順が思うに少しばかり豪華なオプションである。祥順の家はコンロが付いていなかった。だからあれは入居の際に購入した品である。そう言えば、この部屋が一番値段が高かったなと思い出す。豪華なオプションのせいかもしれない。
ただ、枠に当てはめる為に犠牲になったのか、バスルームは最初に見た物件に近い広さだった。
「キッチンは一番ここがおすすめなんだ」
「やっぱりそうか」
備え付けというのは大きな利点だと思う。恐らく新婚夫婦向けの物件という奴だろう。子供が産まれても一人までなら融通できるし。だからそれなりに揃ってるし、金額が金額なのだった。
三つの部屋を見終わった二人は祥順の家へと戻ってきた。ソファに並んで座り込み、コーヒーで一息ついた。
「さて、いくつか実際に見て回ったわけだけど。どう?」
「そうだなぁ……」
記憶の新しい内に第一印象をリサーチ、といったところか。祥順は浩和に問われるがまま、見てきた物件を頭の中に思い描いた。
どれも、祥順にとってイヤだと感じさせるような決定的な何かはなかった。どう返事をしたら良いものか。
「俺はあまりこういうのがよく分からないんだけど。一つ目は二人で住むならリーズナブルでありだと思う。二つ目は二人で住むなら金額は上がっても、広々使えて悪くはないかなって。
三つ目 は金額が気になるけど、備品を見れば納得できる」
とりあえずの感想を伝えた。そもそも、素養的に間取りの品評には向かないのだから仕方がない。
「うーん……」
浩和が悩ましい声を上げた。それはそうだろう。良いとも悪いとも言えていないのだから。
「つまり、一つ目は普通にあり。二つ目はどちらかと言えば乗り気。三つ目は乗り気ではないけど文句はない。そんな感じかな」
「おお」
少し悩んだ末に浩和が出した解釈に、祥順は感嘆の声を上げた。すばらしい。祥順のあの言葉だけで推測するとは。
「はずれ?」
「いや、当たってると思う。別にどれになっても良いとは思ってるんだ。俺は間取りに拘りがないから、むしろよく分かんなくて何を言えばいいかも……」
自信のなさのあまり、尻窄まりになってしまった。ごにょごにょと口をすぼめて言う祥順の頭にぽんと手が乗せられた。
ちらりと見れば、浩和が爽やかな笑みを浮かべている。
「良いんだよ。すべてにおいて専門でなくて。少しくらい俺の方が詳しい事を残しておいてくれないと困るしね」
何を言っているのだろうか、この男は。その台詞は祥順が言うべきだろう。
「それはさておき、どの物件にするかは決まりだな」
「え?」
「カジくんの意見を取り入れたら二つ目の物件で決まりになるだろ」
疑問符を浮かばせたまま唖然とする祥順を見て浩和は笑う。
「え、だって熱心に三つ目のIHコンロに夢中だったじゃないか」
「変わったものがあれば普通注目するさ。三つ選んだのは俺だけど、どれになっても良いなと思って選んだんだ。
その中で一番良いなとカジくんが思ったのが二つ目のものなら、俺はそれで良いんだよ。カウンタータイプは、あれはあれで便利だしな」
これからどれにするか意見を出し合って決めるのだと思っていた祥順は拍子抜けしたのだった。
2021.8.19 誤字修正
2024.1.6 一部加筆修正




