エピローグ
「ゆうれいだの、えんきりだの……あたし、さわぎすぎちゃった」
智子が少し照れながら笑った。
「ま、オレらもだけどな」
「ほんとだね」
智子は声を上げて笑った。
「あはは……なんだかおかしい!」
三人でひとしきり笑った後、伸行が親指で石段のある茂みの方をさした。
「帰ろうぜ」
智子がうなずいた。
「でも……来てよかった。わすれられない、ぼうけんになったし」
「そうだよな」
伸行と智子は、軽やかな足どりで、ススキの茂みの方に歩き出した。
「おそくなっちまったな」
「あたしはおそくなるって言っといたから、だいじょうぶ」
「オレもへいきだぜ」
吉清が最後尾を歩きながら言った。
「ボクも」
智子は、伸行に続いてススキの茂みに入った。
「ホッとしたら、おなかすいちゃったな」
「じゃあ、かえり、アイスでも食ってこうぜ」
「いいね、おごってくれるの?」
「ばーか。トモコのおごりだよ。お前のためにきたんじゃねぇか」
「じゃ、いいや」
「なんだよ、それ」
「うそよ! おごってあげる。おれい」
「よっ! ふとっぱら!」
茂みに入った二人は、軽口を言い合いながら歩いていった。
「それにしても、時代げきみたいな、話しかたする人だったね」
最後尾を歩いていた吉清は、修行している男がいた滝の方を振り返った。
ところが、滝つぼにいたはずの男の姿が、どこにも無かった。
「……え? あれ? あの人……」
その後の言葉が出なかった。
……まさか、あれは……いや、そんなはずは……
吉清の胸に、ひやりと冷たい風が吹き抜けた気がした。
「ヨシくーん! 帰るよー! はやくアイスたべにいこう!」
遠くから智子の元気な声が聞こえてきた。智子の声は、どうやら茂みの向こうではなく、石段の下あたりから飛んできたように感じられた。吉清が呆然としている間に、二人は茂みを抜け、石段を降りていたようだった。
吉清は言おうか迷ったが、胸の奥のもう一人の自分がそっと言葉を引き留めた。
……二人には黙っておこう。
吉清は滝に背を向け、静かにススキの茂みに歩き出した。
<終>
この物語を執筆しているあいだ、私はいつも遊佐未森さんの「風の自転車」という曲を流していました。
遊佐さんは独自の世界観をもつシンガーソングライターで、目立ったヒットこそ少ないものの、楽曲には根強い人気があります。
「風の自転車」は、NHK教育テレビで浅賀玲音さんがカバーされていましたので、ご存じの方も多いと思います。青春一歩手前の少年(あるいは少女)が、友情とも愛情ともつかない気持ちを胸にかかえて、好きな「君」の住む街に自転車を漕いで会いにいく情景を描いたこの曲は、智子たちのキャラクターと関係性のイメージを整えるときの助けになっていました。
この曲は、現在も販売されていますし、動画サイトなどでも視聴できるようです。
ここで作中の表現について、少し補足します。
作品の中で、吉清が水深を折尺で測り流速を目視とストップウォッチで計測しておりましたが、あれは水文調査と呼ばれるもので実際にも行われています。ただし、吉清の方法は概略調査であり、詳細な調査のときには流速計などを使いより正確に計測を行います。
最後にお知らせです。
智子たちの、また別の日の話を書いております。
今度は運動会を前にして、智子たちに思いがけないことが起こります。
一週間ほど別の短編を挟んで、再来週より公開予定です。
また智子たちに会いに来て頂ければ幸いです。
2026年5月、自宅にて記す。




