96.春休み・(修行に励む日々④)
家の中に入ると消毒液の匂いと動物の独特な匂いがした。土間には縦横1メートルくらいの檻が3つつづつ積んで3列並んでいた。そこには犬が1匹ずつ離れて入っていました。私が檻の中を覗くとおじいさんが
「この犬は口の中を怪我をして食事ができなくなってね。弱ってしまったから私が預かっているんだよ。こっちの犬は後足を大怪我して治療して経過観察中。さてさて、この犬鷲くんは、どうしたのかな?」
と言って私の抱いている犬鷲を受け取ると診察台に乗せました。そして
「左側の胸が切れてるね。それに第4指が折れてる。これから治療するから君はそこで手を洗っておいで。」
と言った。私は治療室の洗面台をお借りして石鹸で手を洗った。手を洗っている最中、鷲は治療が嫌なのか
「キュワキュワキキ」
と大声で鳴き出した。先生は、
「痛かったね。もう少し我慢してね。」
と話しかけています。私が手を洗い終え診察台を覗くと、先生が傷口を縫っているところだった。そして先生は傷口を縫い終わると、鷲の指を何か針金のような物で固定して包帯のようなテープで巻いていた。全ての処置が終わるまでおよそ10分。私は先生の見事な手捌きに感動した。先生は、
「これでよし。お利口さんだったね。」
と鷲を誉めていた。そのタイミングで、
「ごめんください。」
と玄関口で女性の声がした。すると先生は
「ちょっと彼を頼むね。」
と言って私に犬鷲を預けると、返事をして玄関口に向かって歩いて行った。そして
「はいはい。彼の飼い主を連れてきたよ。」
と言って70歳過ぎたくらいの女性と戻って来た。その女性は
「庵主様、お嬢さん、この度はご迷惑をおかけしました。」
と深々と頭を下げた。そしてその女性は
「この犬鷲は半年前に亡くなった主人が飼っていたんです。うちの主人は鷹匠でこの鷲と一緒に害鳥の駆除を行う仕事をしていました。」
と言った。私は鷹匠なのに鷲を使って仕事をしていたんだ・・・。と思わずツッコミを入れたくなったがぐっと我慢をした。そして女性は続けて
「主人が亡くなってからは私が鷲の世話をしていたんです。私、この子が襲われた前日の夕方に、一人暮らしの兄からギックリ腰になって動けないから助けてほしいって連絡があって看病に行っていたんです。それで、翌朝この子に餌をあげるために朝家に戻ったら小屋がめちゃくちゃになっていて、この子がいなくなってたんです。だから警察に届けたら小屋の壊れ方が人間による物ものではなく魔物の手によるものだと言われて・・・。この子はてっきり魔物にやられたものだと思っていました。家の子を助けてくれてありがとうございました。」
と深々頭を下げた。




