10.お茶会④
私達が友人としての握手を交わしていると、皇帝陛下は、
「芦屋さん、酒はお呑みになりますか?」
と父に尋ねた。すると父は、
「はい、酒ならなんでも呑みます。」
と答えた。陛下は
「よかったらどうですか?あっちのテーブルで飲みませんか?うまい年代物のウイスキーがあるんです。」
と父を誘うと、
「ありがとうございます。いただきます。」
と言って席を立った。私は
「ちょっと、お父さん、飲みすぎないでよ。」
と言うと、父は
「大丈夫。」
と答えて陛下について行った。
「は〜。」
思わずため息がでてしまった。これから馬鹿皇子と2人でなんの話をすればいいのやら。そんな事を考えていると
「このはの名前、芦屋このはって言うんだな。」
「はい。」
「家族は?兄弟はいるのか?」
「家族は父と私の2人です。母は、私が5歳の時に無くなりました。」
「そうか。すまない。辛い事を聞いてしまった。」
「いえ。」
「実は私も1年前に母を亡くした。」
「知ってます。新聞やラジオのニュースで報道されていましたから。」
「だよな・・・。このはは、母親が亡くなって寂しくないのか?」
「そりゃ寂しいですよ。その時私は5歳で、母のことが大好きな甘えん坊だったから。だから母が亡くなってもう2度と会う事が出来ないってなった途端、精神的に不安定になったみたいで夜泣きをしたり、おねしょをする様になったりして父には迷惑をかけてしまいました。」
「今は?」
「はぁ?夜泣きとおねしょは2、3ヶ月でおさまりました。」
「そうじゃなくて、寂しくて、精神的に不安定になったりしない?急に寂しくなって・・・辛くなって人に八つ当たりとかして傷つけてしまうことはない?」
「寂しくなる時はもちろんあります。今日みたいにおいしいものを食べた時とか母に食べさせたかったなとか、私と同じくらいの年齢の子が母親と一緒に歩いてたりとか、学校の参観日とか入学、卒業式とか寂しいです。精神的に不安定になりそうな時もあります。そんな時は勉強や、スポーツ、色んな事を一生懸命やって不安定になる暇、隙を忙しさで吹き飛ばします。それと、私は辛くなって八つ当たりをして人を傷つけることだけはしたことがありません。悪いことをした奴には制裁を加えますが。私は母が亡くなってから人としてもまじめに誠実に生きることを心がけて生きてます。・・・よく、人を虐めたり、盗みを働いたり悪いことをした人に親がいなかった場合、「あの人、母親がいないからあんな悪になったのよ。」とか、「父親がいないからあんな風に育ったのね。」とかよく耳にするでしょ。だから大好きな母親が知らない誰かに私のせいで悪く言われるのが嫌だから。それと悲しくなったら父や友達や、加代子さんっていう家の家政婦さんに甘えるようにしています。だから不安定になる前にどうにかしてます。
「このははすごいな。」
「すごくはありません。第二皇子は貴族のお偉いさんとかお金持ちの方ばかりと接していらっしゃるでしょうからピンとこないかも知れませんが、平民にはどちらかの親や、両親を病気や事故や魔物に襲われて亡くした子供達はまあいます。40人近くのクラスだと5人くらいは片親や、両親を亡くしています。だから母親が亡くなって寂しいのは私だけじゃないっていう環境が5歳の私をしっかり者にした要因のひとつだと思うんです。それに親を亡くした他の子達も結構しっかりしてたし。」
「そっか。・・・なぁ、俺が寂しくて精神的的に不安定になりそうになったら、このはに、その、今日みたいに俺の話を聞いてもらうことはできるだろうか?」
「それは無理です。」




