ある貴族少女の日記 5
喜劇の夜会のお片付けはなんとか脱することができました。
めったに開催されない徒花事案ではありますが、いざ開催されると被害は甚大ですね。
なにせ王太子殿下が亡くなっているのですから。有力貴族の嫡男や騎士団長の嫡男まで亡くなっているのですから。記憶洗浄儀式魔法により、隠蔽されますけれど。
それだけ「異世界からの来訪者」の影響が大きかったのでしょう。異世界から来ているとのことですし、なにか魔法とは違う妙な力によって男性をたぶらかしていた可能性もあります。そうでなければあれほどの子息がたが女一人にあれほど腑抜けてしまわれるとは思えません。
さて、喜劇の夜会についてですね。
校内安全マニュアルにはいまだ記載されませんが、
一説によるとこの徒花事案は被害者側のかたが激しい怒りや憂鬱にとりつかれ、加害者側を殺してしまいたいほど憎んでいる場合に起きるとされています。
媒体として「どこかへの招待状」が使用されるのも今回だけではございません。「真紅の貴婦人」による復讐殺戮パーティーであることはもう判明済みですので、もしかしたら「真紅の貴婦人」が手ずから「どこかへの招待状」を被害者、そして加害者に送っているのかもしれません。これは回数が重なっていけば確定情報となることでしょう。
……確定情報となるほど何度も起きていい事件だと思っているわけではありません。本当ならこれで現象が終了して未確定なまま更新されないほうがいいに決まっていますから。
寮長は……。
わたくしたちのミラーナ寮長はお亡くなりになりました。
命に別状はありません。ですけれど、全ての記憶を失っていたのです。辛い記憶を忘れたかったのかもしれません。
全ての記憶を失った彼女はかつての彼女ではありません。ですから、わたくしたちの知るミラーナ寮長は今回で亡くなられたのです。
彼女は公爵令嬢ではありましたが、わたくしと同じくこの神聖魔法学科にいる際には親しみのあるお姉様で、いつか外の世界で自由に生きてみたいとおっしゃられていました。
夜会の会場には、返り血まみれで眠りにつくお姉様がいました。返り血にまみれ、穢れているというのに神聖な精霊たちが彼女を心配そうに囲んでおりましたの。
彼ら精霊の願いは彼女のこれからの平穏な生活と、未来。
わたくしたちはそれを叶えました。
もうミラーナ寮長を知る人はわたくしたち以外にはおりません。
わたくしは、はじめて記憶洗浄儀式魔法の要を務めました。
尊敬する寮長を笑って送り出すためにわたくしがやらなければ誰がやるというのでしょう?
寮長はわたくしが受け継ぐことになるでしょう。
ミラーナ様は、精霊たちに囲まれて誰も知らぬ場所で幸せに暮らすのです。彼女が望んでいたように、自由に。生活に不自由なく。
ちょっとしんみりしてしまいましたね。
夜会の跡地では多数のご遺体がありましたが、そのほとんどは遺殻の竜が持ち去ったあとでした。
遺殻の竜が遺体を持ち去った際には現場に粘液のようなものが残されるので、それで判断しております。
しかし、元凶にとなった「異世界からの来訪者」の遺体がなかったので、みなさんで捜索することになりました。
喜劇の夜会で加害者が死なずに終わることはありません。ですが、被害者に殺させるよりも「真紅の貴婦人」の価値観で愉快な……報いのような無様な死が訪れるのであれば、見逃されることもあります。今回はそれだったのでしょう。
現に、「妖恋樹」の近くに「顔の浮き出た木」が出現していましたが、その顔は「異世界からの来訪者」のものでした。あの樹木に魂が食われるとその苦痛が永遠に続き、苦悶の表情がそばの木に浮かび上がるのです。
王太子殿下の顔は浮かばなかったので、夜会の会場で辛うじて生き残っていたのでしょうか。彼女が亡くなられたので連動して亡くなったはずです。キューピッド・ベンチの作用はそういうものですから。
しかし、彼女の顔こそ浮かびましたが、肉体のほうは遺殻の竜が回収してしまったようでした。
それで終わったらよかったのですが、浮かんだ顔が「異世界からの来訪者」のものだけでしたので、もしかしたら肉体に眠った魂は無事なのではないかと議論がされ……そして、遺殻の竜からの遺体奪還作戦が行われたのです。
こちらに関してはうまくいきました。
けれど、今度は眠りについている魂を呼び起こす方法が分かりません。
そこでわたくしたちは徒花事案を複数利用することによりヒントを得ることになりました。
正気の沙汰ではありません。けれど、みんな必死なのです。
生きて帰ることができたら、また結果を日記にまとめましょう。




