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間奏2-3・騎士の誓い(ジークフリート視点)

「……リュー。俺は……」

「ガートルード殿下、いえ、女王陛下の騎士として親征軍に加わるつもりなのですね?」



 グラスをテーブルに置き、切り出そうとしたジークフリートに、リュディガーは微笑んだ。ほんのりにじむ羨望に本人はきっと気づいていないだろう。



「お見通しか」

「当たり前ですよ。我が貴婦人と定めたお方が険しい道を歩もうと決断されたのに、馳せ参じないのなら、その者は騎士ではありませんから」



 自嘲の響きが切なかった。剣を捧げたのだから、リュディガーもまたガートルードの騎士だ。帝国の人間として誰よりも早く出会い、その輝きに魅せられたリュディガーこそ、女王として立つガートルードのもとへ駆けつけたいだろうに。



「俺は我が身一つしかないから剣を振るうだけだ。貴婦人のために戦う者の背中を守るのもまた、騎士の務めだと思うぞ」

「ジーク……」



 リュディガーは翡翠の双眸を見開き、はあ、と息を吐いた。額に手を当て、顔を逸らす。かげりを帯びて艶めく横顔に、かの令嬢なら心を溶かされてしまうだろう。



「貴方に隠し事はできませんね」

「我が貴婦人の御身をおそばでお守りしたいと願うのは、騎士の本能のようなものだ。それだけが献身ではないと承知していても、割り切れるものではない」



 ヴォルフラムは兵力を持たぬガートルードのため、自ら帝国軍を率い、女王親征軍の主力となるべく出陣すると表明した。つい最近まで病弱で『欠陥品』と揶揄されていた皇子が女神の力で凛々しい美少年に成長し、悪辣な僭王に国を奪われた幼い女王を救おうとしている。しかもその女王は帝国の救い主とも謳われる元皇妃で、傾国の美女と名高い祖母に生き写しの美少女である。



 吟遊詩人が歌い上げる英雄譚サーガよりもドラマチックな現実に、民は熱狂した。その熱は騎士にも貴族にも伝染し、皇禍こうかによって失われた皇家の求心力と威光を急速に回復させつつある。



 しかし本来、皇帝自ら他国のために軍を率い出陣するなど、あってはならないことだ。形ばかりの大将とはいえ、戦場では危険が付き物。万が一ヴォルフラムの身に大事が起きれば、帝国は皇禍とは比べ物にならないほどの危機に襲われる。



 援軍を派遣したいのなら、リュディガーを総大将に命じ、軍を率いさせるべきなのだ。リュディガーは近衛騎士団団長を務めた軍人であり、亡き先帝アンドレアスの従弟でもあるのだから、皇族が女王に協力を惜しまないというアピールもできる。



 だがヴォルフラムが自ら出陣したいと言い出した時、リュディガーは止めなかった。いや、止められなかったのだろう。生まれてからほぼすべての時間を苦痛と共にベッドで過ごした挙げ句、たったの三歳で積もりに積もった帝国の泥をかぶるはめになったヴォルフラムの願いを。……ジークフリートもそうだったから。



 だからリュディガーは正式に公爵位を受け継ぎ、フォルトナー公爵となった。ヴォルフラムが不在の間、国政を代行する宰相の位に就くには、相応の爵位が必要が求められるからだ。



 近衛騎士団団長は辞任せざるを得なかった。激務を兼任するのは不可能という現実的な理由と、宰相は常に中立的な立場でなければならないという建前上の理由から。



 リュディガーが一介の騎士として戦場に立つことは、二度とない。彼の今後の戦場は宮廷、敵は皇族を食い物にしようとする大貴族だ。



「……わかっては、いるのです」



 グラスに添えられたリュディガーの指が、ふるりと震えた。



いくさは前線の兵だけでするわけではない。前線を支える兵站へいたん、物資を調達し過不足なく前線へ手配する者がいなければ、戦線はたちまち崩壊する。役割が違うだけなのだと。それでも……」

「……」

「それでも貴方を羨ましいと思ってしまう。……私は、……私は……」



 うつむけた顔をそむける。なにも言われずとも、ジークフリートにはわかっていた。嫉妬にゆがむ醜い顔を見られたくないのだと。……リュディガーを醜いなどと、なにがあろうとジークフリートが思うことはないというのに。



 ジークフリートは立ち上がり、テーブルを回り込んでリュディガーの隣に腰を下ろした。この位置なら、視線を向けない限り互いの姿は見えない。



「約束する、リュー」



 視線は反対側に向けたまま、ジークフリートはリュディガーの肩を叩いた。帝国男性としては細身の外見にそぐわぬたくましさは、リュディガーがたゆまぬ努力を続けている証だ。



「なにがあろうと我が貴婦人のおそばに在り、あらゆる災いからお守りすると。……お前の分まで」

「……ジーク……」



 ぐっと息を呑む音が聞こえ、しばし経った後、リュディガーは立ち上がった。無言で右腕を突き出され、ジークフリートも立ち上がる。



「……私も約束します。貴方がたの戦いを、決して滞らせないと」



 ジークフリートとリュディガーは頷き合い、互いの右腕を交差させた。

 騎士がその命とも言える利き腕を預け合う。

 それは命をかけた誓いの儀式であった。



リュディガーとジークフリート編、終了です。

この二人はきっと最期までこんな感じかと。

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