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間奏2-2・騎士の誓い(リュディガー視点)

「それなら今日の『商談』も断るつもりなのだな?」



 ジークフリートがいつの間にか空になっていたグラスにワインを注いでくれる。さっきまで応接間で出されていたワインの方が価格的には上のはずだが、こんなに美味しくは感じなかった。酒は酌み交わす相手が一番大事なのだと、つくづく思わされる。



(『商談』、か)



 リュディガーはつい笑ってしまった。社交以外で笑うなんて久しぶりだ。



「それを言うなら『縁談』でしょう」

「商談だろう? 手持ちの商品むすめにどれだけ付加価値をつけて高く売り飛ばすか、の話し合いなのだから」

「それはまあ、そうですが……」

「しかし商談なら、互いの条件が釣り合えばまとまることもある。出会いは運だ。嫌々引き合わされた相手が運命の相手だった、という可能性もゼロではないからな」



 出会いは運。

 銀色の姫君の幼くも麗しい面影が脳裏に浮かぶ。



(……ガートルード殿下に巡り会えたのは、間違いなく私の人生最大の幸運だった)



 軍人としての剣は帝国に捧げた。だがリュディガー・フォルトナーとしての剣を捧げる相手など死ぬまで会えまいと、半ば諦めていたのに。



 かの姫君は、あまりにまばゆく神々しかった。歳にそぐわぬ気高さと慈悲深さに打たれ、気づけばひざまずいていた。

 我が淑女レディと呼んだ瞬間、感じたことのない法悦が脳を焼いた。あれからずっと、ガートルードはリュディガーの心の一番奥深くに住んでいる。



「……残念ながら、運命ではありませんでしたね。そもそも本物の娘でもありませんでしたし」

「どういうことだ?」

「連れて来られたご令嬢の顔色があまりに悪いのが気になって、父親を問い詰めてみたら、実の娘ではなく養女だったことが判明したのですよ」



 妖精のような美少女で、気立てもよく教養も深く、公爵夫人に相応しい。それが父親の某伯爵の売り込み文句だった。あまりにしつこいので直接断るつもりで呼べば、断られるなど思わなかったのか、娘同伴でやって来たのだ。



 確かに儚げで美しい令嬢だった。父親とは似ても似つかない。

 それも当然だった。リュディガーがほんの少し殺気を混ぜた魔力を放っただけで、伯爵はがたがた震えながら白状したのだ。令嬢は分家の娘で、これほどの美貌の主ならリュディガーを射止められるにちがいないからと、半ばさらうようにして養女にしたのだと。



 年頃の娘を持たぬ貴族が、政略結婚のため親族から養女を取ること自体は珍しくない。養女の側にも、本来の家格では釣り合わない高位貴族に嫁げるというメリットがある。

 しかしそれは、あくまで両者が合意していればの話だ。……令嬢には幼いころからの婚約者がいた。間もなく結婚するはずだったのに、無理やり婚約を解消させられ、養女にされてしまったのだ。怯えるのも当然だった。



 理不尽な婚姻を強いられる境遇に、剣を捧げた姫君が重なった。



「……酷な話だな」



 ジークフリートが嘆息した。



「まったくです。縁談は正式に断った上、本人の意にそぐわぬ縁組は無効とし、実家へ帰すよう厳命しました。今後令嬢の身に大事が起きればフォルトナー公爵の名において処罰する、と言い置きましたから、さすがにこれ以上の暴挙は慎むでしょうが……」

「……、そうだな」



 やはりわかっていないか、とジークフリートは内心苦笑した。



 ジークフリートが酷だと言ったのは、今後の令嬢だ。

 実家には確実に帰してもらえるだろう。婚約解消も取り消され、婚約者と結婚もできるはずだ。



 だが令嬢の心には、刻まれてしまった。リュディガー・フォルトナーという男の姿が。

 帝国最高の貴公子が自分のために怒り、絶対的支配者であった伯爵に立ち向かい、救ってくれたのだ。令嬢の目にはリュディガーが白馬に乗った王子のように映っただろう。



 今後、令嬢はなにかあるたび婚約者とリュディガーを比べ、現実との落差に悩むことになるだろう。婚約者の男もきっと気づく。誰かと比べられていると。それがフォルトナー公爵だと悟れば、決して埋まらぬ差に苦しむだろう。



(リューが憤ったのは、その令嬢のためではなかったというのに)



 幼なじみであり従弟でもある弟分の心の内を、ジークフリートは正確に察していた。リュディガーの心に住まうのは、銀色の姫君一人だけだ。その姫君は、ジークフリートの貴婦人でもあるのだが。



「……まあ、今回の一件が知れ渡れば、売り込み攻勢もいったんは落ち着くだろう」



 ジークフリートの慰めに、リュディガーは頷く。



「そうであって欲しいものです。私が公爵位を受け継いだのは、ヴォルフラム様の……陛下の代理を務めるためなのですから」

「やはり、お前は残るか」

「陛下の代理が務まる親族は、今や私くらいですからね」



 物わかりのいい顔の下にくすぶる無念を、ジークフリートは見逃さなかったが、気づかないふりをしておくのがせめてもの詫びというものだろう。ジークフリートもまた血統上はヴォルフラムの数少ない成人した親族だが、ブライトクロイツ公爵家が取り潰されたことにより身分を失った――しがらみから解放された身なのだから。



リュディガーはブリュンヒルデ推しでティアナ推しの担当さんから『ある意味レシェフモートよりもやべー男ですよね』と真顔で評価されています。

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― 新着の感想 ―
担当さんは妹萌え 妹萌えしないリュディガーはやべー男扱いと
更新ありがとうございます。 担当さんがブリュンヒルデ推しでティアナ推しなことが衝撃すぎて、頭から内容が吹き飛びそうになりました(笑)
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