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恋愛グッドエンド

「優菜、早くご飯食べないと遅刻するわよ」

階段下から高らかに響いてる母親の声を受け流しながら、部屋の鏡の前で髪をとかしている私がいた。

ここは自分の部屋なのに、本当に自分のいるべき場所はここなのだろうか?などと訳の分からないことを考えてしまう自分がいた。

「もうちょっと待ってて」

明日から高校生最後の夏休み。

今日は終業式だけの予定で授業は無いけど、サボる訳にはいかないのが学生の辛いとこ…。

あれだけ嫌だった高校生活も残り僅かになっていた。

入った当初は毎日が地獄で朝が来るのが憂鬱で、いつも逃げたいと思っていた。

逃げることしか考えていなかったのに。

いつからだろう?逃げてちゃいけないと思えるようになったのは?

逃げない強さを教えてくれたのは誰だった?



「優菜ー、いい加減にしなさい」


つかつかと大きな足音が聞こえたと思ったら、勢いよくドアが開いた。

「いつも言ってるでしょ?時間に余裕もちなさいって。また事故にあっても知らないわよ」


ノックもせずに扉を開けたバカ母の髪型は今年40の大台にのると言うのにも関わらず、耳の位置よりも高いツインテールだった。

きっとまたどこぞの美少女戦士を意識しての髪型なのだろう、と思ったが突っ込んだら負けなので見ない振りをした。


「そう何度も事故になんてあわないわよ」


バカ母が言っているのは、今から二年ほど前の事である。

通行途中、信号無視してきた車に轢かれてしまうと言う私にとって忘れられない事故があったのだ。

大量の出血で血液を提供してくれる人を探すのが大変だったらしい。

何せ私の血液が珍しいものだから…。

同じ血液型の母と、それからクラスメイトのいづみが同じ血液型と言うことを知り輸血してもらい、幸い窮地を乗り切る事ができた。

その後の数週間眠り続けていた私の記憶は曖昧だった。

ずっと長い夢を見ていた気がする。

とても温かくて優しい夢を見ていた気がする。

私の隣には誰かがいてくれていた気が…。

あの事故以来、私は大切な何かを忘れてしまった気がする。

忘れちゃいけない何かを…。大切な約束を…。

「優菜!」

バカ母の声で我に返り、私は急いで下に降りていった。



***************


「おはよう、優菜」


通学途中に後ろから走ってきたクラスメイトのいづみに肩を叩かれた。

初めはそんなに仲良く無かったけど、あの事故からかな?

よく話すようになり、今では大切な親友だ。


「今日終わったら図書室で勉強しない?」


受験生っぽい会話を振られた。

そう、受験生なんだから勉強しなくちゃ。

私たちは現実を生きているのだから。


「う…ん」

だけど、何だろう?やはり何かが胸に引っ掛かる。


「受験終わったらいっぱい遊ぼーね」

うん、そうだね、と返事をしながら、あれほど嫌だったこの現実をいつから受け入れるようになったのかを思い出そうとしたがやはり思い出せない。


「そう言えば」

いづみがポンと手を叩き、


「今日あのゲームの最新版の発売日だね、ほら、うちらが高校入りたての頃はまってた、『理想のプリンスのいる場所』いつからやらなくなったんだっけ?」

懐かしそうに話した。

そうだ、私はそのゲームが大好きだった。

そのゲームの推しキャラに本気で恋をしていた。

二次元に行きたいほど本気だった。

それなのに…。


「私が事故にあってからかな?何かあの後ゲームしたら全く面白くなくなって…」

面白くなくなった?

何だろう?とても不思議なんだけど、あの事故の後でそのゲームをしたら、全く面白くなくなっていた。

いづみもどうしてあんなにはまっていたのか分からないと言うように首を傾けた。

「瞬も楓もレントもイケメンだしトキメクんだけど、何か物足りないんだよねー、インパクトに欠けるって言うか…」

いづみの言葉にうんうんと頷きながら、誰か一人主要人物の名前が欠けていると言う不思議な感覚になる。

瞬、楓、レント……。、あと一人、誰?誰かがいた。

そう、何かが……、ううん、誰かが足りない…。

そんな事ある訳無いのに。

ずっとこんな感じ…。

私、やっぱり何かを忘れてる。


その時、横を通り過ぎた人がすーっと暖かい風を残していった。



「優菜?どうしたの?」


急に歩を止めた私にいづみは前につんのめりそうになった。


「ごめん、何か今…」

「は?」

「ううん、何でもない」

何だろう?今の感じ。優しくて温かくて、そして愛しい空気。

追いかけなくちゃ、咄嗟的にそう思った。

「いづみ、先に行ってて」

「え?」

「ごめん」

何か言いたそうに口を広げたままのいづみを背中に、私はさっきの人が歩いて行った先に走り出した。


一歩一歩進む度に、不思議な景色が頭の中を蘇る。

見たことの無い遊園地で一緒に観覧車に乗った人は誰だった?

その人のために、その人と一緒にいたいために私何してた?

契約更新…?何の?

誰かに渡された白い紙、その紙に自分の好きな人の名前を書いた。

誰の?

あの時、私が書いた名前。

そうだ、彼の名前は、私の大好きな人、大切な大切な人の名前は。

走り続けて、辿り着いたのは丘の上にある公園に一人の男性が立っていた。

私は男性の後ろ姿に向かって思い出した名前を呼んだ。


「拓馬?」


ゆっくりと振り返った彼と目が合う。

その瞬間全ての事を思い出した。

思い出したくてもあれほど思い出せなかったのに。

次から次へと、まるで映画のフィルムを見ているような不思議な感覚だった。

彼と過ごしたかけがえの無い日々。

私は本気で彼を愛していた。

彼は無言で私に近付き、ぎゅっと私を包み込んだ。

包み込まれた状態のままで耳元で囁かれる大好きな人の声。


「ずっと会いたかった」


愛しい愛しい拓馬が私の前にいる。

拓馬からの言葉が私に降り注ぐ。


「やっと見つけた、もう離さない」


そして、時間が止まる程の長いキス。


私が帰りたかった場所はここだ。


私は拓馬の背中に回した腕に力を込めた。




















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