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束の間の幸福

「瞬はもう帰った?」

一人になってどのぐらいの時間が流れたのだろうか?

真っ暗な部屋の中。静かな時間だけが流れていた。

拓馬に声を掛けられるまで、瞬が語っていた全ての言葉が何度も何度も頭の中でリピートされていた。

息が詰まりそうな現実の世界が嫌で二次元に逃げてきた私の心を見抜かれてた。

あの時すぐに、『そんなことない』と言えない弱い自分がいた。

都合のいい現実逃避?

この言葉が引っ掛かる理由は、心の底ではそう思っていたからなのだろうか。

拓馬が現実の世界にいたなら、拓馬に恋をしていただろうか?

現実世界で同じ空間に拓馬がいたら?

きっと彼は現実世界にいても、とても素敵でカッコ良くて私の手の届かない人だと思う。

それなら、やっぱり、二次元にいる彼に恋してる方が傷付くことはない。

瞬の言うような都合のいい恋愛ができる。


「リンネ?」

私の前で膝をついて、真っ直ぐな瞳で私を見上げる拓馬がこんなに近くにいてくれるのに、明日には消えてしまうのではないかと言う不安を隠すことができない。

それは拓馬に忘れられる不安なのか、私が忘れてしまう不安なのかどっちなのだろう?

電源を切ったら忘れてしまうような恋?

「あのね、拓馬。私、向こうの世界でずっと貴方に支えられていた、貴方がいるから乗り越えられてきた事もいくつもある。貴方に声を掛ける事も、貴方に触れる事も、実際に会うこともできなかったけど…」

それでも好きでした。

伝える事のできない気持ちを心の中にしまいこむ。

「…。瞬に何言われたの?」

私の両手の上に自分の手を合わせるから、拓馬の体温が伝ってくる。

ここにいれば、こうして拓馬に触れる事ができる。

絶対に会えないと思っていた拓馬の隣にいる事ができる。

ゆっくりと首を横に振り、拓馬の手を握り返し、自分の方に引き寄せると、拓馬は驚いたように私を見た。

大好きよ、本当に大好き。

たった一言なのに、言葉に出すことができないもどかしさ。


っつ。

また貧血のような感覚が襲ってきた。


「リンネ?大丈夫か?」

「…。う、うん、だ、大丈夫」

「顔真っ青だよ?…ほら、ベッドに入って」

言葉より早く、拓馬は私を抱き寄せベッドに寝かせる。

そこまではいつも通りだったけど…。

…‼

「た、拓馬?」

拓馬が私の隣に潜り込んできたのだ。

「あ、顔が赤くなってきたよ」

意地悪っぽく笑い、ツンと私の頬をつついてきた。

こんな近くに拓馬を感じて、私の心臓は破裂寸前。

ドキドキが止まらなくて、このまま死んでしまうのじゃないかと思ってしまう。

「大丈夫、リンネが眠ったら自分の部屋に戻るよ」

「…」

「さぁ、安心して目を閉じて。プリンセス」


耳に落ちてくる心地よい拓馬の声に先程までの胸の高鳴りが嘘のように穏やかになっていく。


この次目を開いた時に一番初めに映るのが拓馬であるように、と祈りながら目を閉じた。


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