自分の名前
『優菜、早く起きて』
私を呼ぶ声が聞こえる。
誰?
起きたいのに目が開けられない。
眠くて瞼が重いのとは違う、気だるさで体が重い。
こんこなこと前にもあったっけ?
あれ?私ずっと誰かに呼ばれていなかったっけ?
優菜?
そう、私は優菜。
自分の名前に違和感を感じるなんておかしな感じ。
だけど、今の私はその名前で呼ばれていない。
私は…。
「リンネ」
ああ、愛しい人が私を呼んでいる。
目を開けなくちゃ。
**************
目を覚ますと、ベッドの横で椅子に腰かけたまま、コクりコクりと船を漕いでいる拓馬がいた。
きっと、一晩中私の側にいてくれたのだろう。
私が眠った後もずっとずっと…。
そう思うと、申し訳ない気持ちよりも嬉しい気持ちでいっぱいになってしまう。
しばらく愛しいその横顔を見つめていると、私の視線に気付いたのか、寝ぼけ眼をこちらに向けた。
「…ん?あれ?リンネ起きたの?」
「うん、おはよう。拓馬ずっと側にいてくれたの?」
「おはよう、うん、一晩中かわいい寝顔見てた」
「え…」
思わず照れてしまう言葉も何事も無いように言ってくるから、こっちの方はドキドキが止まらないよ…。
「よく眠れた?」
つと立って、カーテンを開けると朝の陽ざしが部屋を照らした。
「ずっと誰かが私を呼ぶ夢を見ていたの…私の本当の名前を…」
「リンネの本当の名前?」
拓馬が訝しげに首を傾けた。
「何それ?聞きたいんだけど…」
「普通の名前だよ、ごくごく当たり前の名前」
「でも、それがリンネの本当の名前なら呼びたい」
「…」
乙女ゲームと言うのは、初めに好きな名前を入力するものの、キャラクターがその名前を呼んでくれることはない。
その名前の部分は、『お前』とか『おい』とか全く呼ばないとかなのだ。
それならば、わざわざ現実の名前を使うこともないな、と思いアニメちっくな名前を使っていた。
もし、好きなキャラが自分の名前を呼んでくれたら?そんなこと考えるだけで、胸がドキドキしてしまう。
自分の本当の名前を呼んでもらえること、それは乙女ゲームをしている子なら一度は叶えて欲しい願いのはず。
「優菜だよ」
「お前にぴったりの名前だな」
拓馬は私の頭に手を置き、優しく笑うと、
「好きだよ、優菜」
おでこにキス。
「何回言っても足りないぐらい、優菜が大好きだよ」
そして、それが唇に触れる。
「オレはお前が思ってるずっと前からお前のこと好きだった」
「え…?」
ずっと前から…?
前にもそう言ってたよね?
それってどう言うこと?
疑問に満ちた私の顔に、拓馬はふっと悲しそうな笑みを見せて答をくれた。
「この世界にお前を呼んだのはオレなんだ」




