3-12.災厄戦争の遺産
魔獣になった敵を、遺産の知識でサポートを受けながらの皆伝秘技で倒すことに成功した。
倒した敵は人には戻らないようで、もう虫の息だった。
「ウゥゥ···。シヌノカ···?イヤダ···、イヤダ···」
「···勝手な野郎だぜ。自分が生きるために人を食らうだなんてやっておきながらな」
「···あなたに聞きたいことがあります。その能力、『改造してもらった』と言いましたけど、誰にやってもらったんですか?」
「イタイ···、イタイ···。タスケテ···、タスケテ···、ボイドサマ···」
「なっ!?やはりあの悪神か!」
「そういう事か···。他にあなたのような人はいるんですか?」
「ヤダ···、ヤ···、ダ···。シニ···、タク···、ナ···、イ···」
「···残念だなんて思えねぇな。コイツの自業自得だ」
「うん···。どうして···、どうしてこんな事をしたんだろうね?」
「大方、身内とかを魔獣にやられてこの世界に絶望したんだろうな。そこに悪神がつけ込んだんだろうよ」
「だとしたら···、ボクも···、こうなっていたかもしれないね」
「そんな事は!?」
「ボクだって、あの時に人生を諦めたんだよ···?もし、あの時に声をかけられてたら···」
「ライ!それは···」
「ボクは···、本当に運が良かったんだ。賢者の遺産に···、テオに助けてもらったんだ···」
「ライ···」
「···ここはもう討伐完了だね。他は?」
「どうやら終わりのようだぜ···。あぁ~!疲れたぁ〜!」
ボクも緊張の糸が切れたのか、その場でへたり込んでしまったよ···。さっきまで感じていた力も、今は感じなくなったね。
「キミたち!?大丈夫かい!?」
「いえ···、大丈夫じゃないです···。ちょっと立てないですね···」
「オレもだ···。力を使い果たしちまったぜ···」
「詳しく話を聞きたいのだが···、部屋を用意しよう。そこで休んでくれ。肩を貸そう。立てるか?」
「はい···」
「なんとか···」
そうしてボクたちは近くにあった役所の仮眠室を貸してもらったんだ。力を使い果たしてしまったために、横になったらすぐに寝ちゃったんだよ···。
翌日···。
「···ん?ん~~···。もう···、朝···?」
周りが明るくなってきたので目が覚めたよ。横を向いたらテオが寝ていた。
改めて昨日の事を思い出してみた。人が魔獣の姿に変身するなんて···。しかも、魔法も使うし普通の魔獣よりも桁違いに強力になっていたね。
そして『人を食って生きる』という恐ろしい生き方···。人としてではなく魔獣として生きると言い切る考え方···。
とても普通では考えられないね。いくらボクみたいに生きる事を絶望したとしても···。
···いや、それはボクの考え方がそうなだけなんだろう。アイツはそうじゃなかった。人を滅ぼしてやる!という魔獣とまったく同じ考えだった。だから、悪神ボイドの甘言に乗ってしまったんだろうね。
「ん〜〜?おっ···?朝かぁ〜?」
「おはよう、テオ。ゆっくり眠れた?」
「ライ···?おう···、ぐっすり眠れたみたいだぜ」
「まだ兵士さんたちが来てないから、軽く朝ごはんにしておく?」
「そうだな。なんか甘いものがいいな!」
「じゃあ···、これだね!ドーナツってやつで!」
「おっと!?いいじゃねえか〜!オレ、これ好きなんだ〜!」
テオは元気そうだったね!昨日は丸1日飛びっぱなしで休憩なしで戦闘に突入しちゃったから、余力がなくてキツかっただろうしね。
落ち着いたところで昨日の話をテオとすることにしたんだ。
「テオ?昨日のアイツに『魔獣同化能力持ち』って言ったよね?何か知ってるの?」
「···ああ。あれこそ『災厄戦争の遺産』だな」
「『災厄戦争の遺産』···。戦争で使われたって事?」
「そうだ。だいぶ前に災厄戦争の話をしたよな?あの時には話をしなかった部分なんだが···。ここからは胸くそ悪くなる話になるぞ?その時に龍脈爆弾を使ったって話をしたよな?」
「うん。そのせいでアトム湾もできちゃったってボードの町でも聞いたね」
「あれのせいで当時の人族はタガが外れたみたいでな···。やっちゃいけないことも平気な顔でやるようになっちまったんだよ···。『やられるぐらいならなりふり構うもんか!』ってな」
「そんな···」
「そしていくつもの兵器が開発されたんだ。『いかに効率的に人殺しができるか?』ってな。そして···、禁断の領域に手をつけちまったんだ···。それが、『魔獣同化』だ」
「『魔獣同化』···」
「魔獣の生命力を吸い出してから人に強引に注入して、人であるにも関わらず魔獣の力を手にする狂気の技術だ」
「そんな!?」
「この技術を用いて魔獣を有効活用しつつ、人族は兵士たちを人を超えた『強化人間』として兵器扱いしたんだ。最初は絶大な戦果を挙げたみたいだったが、これには致命的な欠点があった。最初は人としてただ単にその魔獣の力を手にするだけなんだ。ところが、時間が経つにつれて精神が魔獣に侵されてしまい、人を見境なしに襲うようになるんだ」
「え···、ということは···?」
「そうだ。最終的には逆にその人が魔獣に乗っ取られてしまうんだ。そうなると人としての自我が失われ、魔獣が人の姿で高度な知性を持ってしまうんだ。魔法も人と同じように使いこなせるし、さらには『同化』と言って、アイツみたいに人の姿を捨てて元の魔獣以上の、凶悪な魔獣になっちまうんだよ。自我を保つには定期的に人を食わないといけなくなるんだ」
「そんな···。じゃあ?」
「ああ。アイツはすでに魔獣に乗っ取られていたのさ。死ぬ間際に自我が戻ったんだろうから、あんなふざけた事を言ったんだろうよ」
「そうだったんだ···。あれ?もしかしてそれって···?」
「そう、この話には···、続きがあるんだ···。魔獣を使うという点でこれは失敗した技術になるはずだったんだ···。ところが、今度はその技術を!オレたちドラゴン族を犠牲にしてやりやがったんだ!!」
「なんだって!?」
「···ドラゴン族は戦争には一切加担しなかったし、協力を要請されても拒んでいたんでな。最初はただの気まぐれでやったらしい。集落以外で過ごしていたドラゴン族を騙して拘束し、やりやがったんだ···」
「ひどい···。そんな事を···」
「そして、それが見事に成功しちまって、ドラゴン族の力を持った人間、『竜人』が誕生しちまったんだ···。竜への変身や、翼も持って自由に飛び回り、とんでもない力を持つにも関わらず、魔獣と違って安定していたために味を占めちまったんだ···。そして···、『ドラゴン族狩り』が始まったんだよ···」
「············」
「当時、ドラゴン族の集落同士はいろいろやりとりをすることができてたんだ···。実際に行き来もしてたんだ。アキさんやご先祖様のリオさんのおかげでな···。そして、襲われたという情報が、各集落にすぐに伝わった。ここから先はどうなったかは話した通りだ···。もちろん、襲われた集落では犠牲が多少出たものの、全員返り討ちにしたみたいらしいぜ」
「············」
「ちなみにさっきの『竜人』だがな?欠点がなかったわけじゃないんだよ。寿命が極端に短かったんだよ」
「そうなんだ···」
「簡単に言えば、ドラゴン族の力を人が操るにはムリがあったのさ。強大な力を制御できずに力が暴走して自滅しちまったんだよ。まぁ、自業自得だな」
「···そうだね」
「だから竜人はもういないはずだが、魔獣同化能力持ちはそれなりにいるはずだ。おそらくAランク冒険者だと、かなり厳しいだろうな···」
「ボクたちはどうしたらいいかな?」
「どうする事もできねえな···。ボイドがどこにいるのかもわからんし、アジトもわからん···。襲いかかってきたら撃退するしかないな···」
そんなとんでもない人がたくさんいたら本当にマズいね···。どうにかできないものかな···?
魔獣同化能力は災厄戦争時にタガが外れた人たちによる狂気の技術でした。
このタガが外れないようにしているのが抑止論です。現代では核がこれに相当しています。
お互い保持して牽制しあってるんですね。ですが、これの致命的な欠点は、1発使ったら終了です。
当然仕返ししますから、連鎖的にどんどん使っちゃうんですね。エーレタニアでは抑止力が崩壊してしまったがために『生き残るため』にこんな恐ろしい技術が誕生してしまったのです。
これを応用したのがドラゴン族を利用した竜人でした。これに対して激怒したために地上を放棄して浮遊大陸に避難しちゃったんです。
ちなみに魔獣を洗脳して操るなんてのまであったのですが、どちらかといえば魔獣同化の方が安定してたということもあって失われてるんです。
悪神ボイドが関わってるようですから、今後も恐ろしい作戦が行われてしまいます。それに立ち向かうライくんたちの活躍を今後は書いていきます。
さて次回予告ですが、今回の戦闘で賢者の遺産の能力がさらに解放されました!使いこなす練習は後日やるとして、町の人に今回の戦闘の事情説明をしますよ〜。
それではお楽しみに〜!




