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果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第1話 俺は彼女を理解できない
4/13

1-2B 残された二人

アカリ視点

「大原くん」

 国語の時間。私の席の隣りにいる少年は心ここにあらずといった表情でぼーっと前を見ている。

 先生に自分の名前を呼ばれているにも関わらず、彼の視点は黒板に釘付けである。

「ちょっと、ちよっと。大原くん」

 先生が彼を現実に引き戻す。我に返った彼は先生と目を合わせる。

「大原くん、先程から何度も呼びかけているのですが。どうかしましたか?」

「あ、いえ。何でも。で、何でしょうか」

「教科書。続きを読んでくれますか」

 彼を見る。首が左右に動き、目線が行ったり来たりしているのを見ると、彼はおそらく何も聞いていなかったのだろう。

 隣で私は教科書をユウタの方に向けて指を指す。

(まったく……。ここだよ)

 彼はそれを見て、自分の教科書と照らし合わせる。そこからは落ち着きを取り戻したようで、彼は教科書を読み始めた。

「あ、はい。であるからして……」

 一体最近どうしたのか。お昼に聞いてみよう。



 昼食の時間。ユウタが席を立つ。彼の手には弁当と思わしき包み。彼の行動を見て、今日は食堂かと察した私も席を立つ。

「どこ行くの」

「食堂だ」

「弁当があるのに?」

 確かに食堂に弁当を持ち込んではいけないというルールはないが、大抵は教室で食べれば済む話だ。それについての言及はしない。

 しかし、逆に彼は私に聞いてきた。

「なぜ、ついてくる?」

「お昼を一緒に食べたいからだよ! それ以外ないじゃん!」

 私は昼食のときはいつもユウタの隣または正面にいる。女子グループ食べるのも悪くないが、できるなら中学時代に願ってもできなかった彼との時間を大切にしたい。

 そんなユウタの挙動だが、いつもは無関心を装っているが、ときどき周囲を気にする素振りを見せている。一体何なのだろうか。



 食堂に着いて、席を確保する。お昼時はやはり混んでいるので一苦労だが、今日は問題なかった。

「ちょっと待っていろ」

 そう言って彼は机に弁当を置いたまま席を立ち、食堂のおばちゃん達がいる方向へ向かう。何か追加で頼むのだろうか。

 少しして戻ってきたユウタは片手になにか持っている。

「やるよ。さっきの礼だ」

 それは、デザートの類――プリンだった。

 私は感謝を述べつつ、ありがたく頂く。

 ほっぺたが落ちそうなくらい美味い。市販のプリンとは違う美味しさに包まれ、幸せを感じる。

「うん、美味しい! ありがとう!」

 満面の笑みでその美味しさを表現した。

 

 時間が過ぎる。

 デザートも弁当も食べ終える。ユウタの目の前の弁当も空になっていた。


 私は気になっていたことを彼に聞いた。

「最近、ぼーっとしてるけど……。どうしたの?」

「別に何も。いつものことだろう」

 そう言って彼は目線を逸らす。何かを隠しているのは明白だったが、問い詰めてもはぐらかしそうだ。

「そうなんだ。ふーん……」

「何だよ」

「別に何もないよー」

 これ以上は、よしておこう。

 私は欲しい情報が得られないことへの諦めから拗ねた態度をとる。そんなことを彼は気にも留めず私に聞いてくる。

「お前さ」

「何?」

「俺といて、楽しいか?」


 一瞬、彼が何を言っているのかわからなかった。でも、動揺しているところを見せれば彼を不安にさせる。だからすぐ答える。

 だって楽しいのは本当のことだから。

 

「うん! 楽しいよ」

 ちゃんと彼に伝わっただろうか?

 私は彼の反応を見る。

「……そう」

 反応は今ひとつ。伝わってはいないようだ。

 私はユウタの反応が気になったので尋ねる。

「何? どうしたの?」

「なんで、そう思う?」

 彼は私がそばにいる理由を知りたいようだ。居たいからでは納得してくれなさそうな彼だ。どうしたものか。

 ……ここは発想を逆転させてみよう。

 私が理由を言うのではなく、逆に私がここにいてはいけない理由。それがないのなら私はここに居ていいはずだ。

 ……そもそも理由などなくていいのでは?

 私は彼に聞いてみる。

「いちゃいけないの?」

「いや、そういうことでは……」

 彼は返答に困っている。予想外の逆質問だったようで、効果は抜群。彼は黙ってしまった。

 

 私は言う。本心を。

「私はね、嬉しいんだ。中学で一緒に学校生活を送れなかった分、高校ではーー」

 目線が一人の男子を捉える。

 A組の山城アツシ。中学時代の同級生だ。

 チラチラとその美男子に女子の目線が行ったり来たりしている。

 勿論、私が興味あるのは彼ではなくユウタだけど。

 


 山城が私に気づいてこちらに寄ってくる。

「よお、光原。奇遇だな」

「あ、アツシくん。ご無沙汰だね」

 複数の視線がこちらに向けられる。ただの同級生との会話なのに、変に注目されるのはあまりいい気分ではない。

 そうだ、ユウタに言っとかないと。

 私はユウタに山城のことを紹介する。


「ああ、この人は山城アツシくん。中学の同級生でねーー」

 私が言い終わる前にユウタは突然席を立った。

「悪い、邪魔したな」

「えっ、ユウタ?」

 私が驚く間もなく、彼は食堂を出て行った。


「あいつ、なにか勘違いしてるんじゃね?」

「……そうかも。私達の関係ってただの友達なのに」

 食堂に残された私と山城。相変わらず視線が集中していて、嫌気が差してくる。

「何かあったのか?」

「ううん、何も」

 山城を紹介した途端だった。まるでユウタ自身が邪魔者だとでも思ったのだろうか。実は逆で、今この場にいる彼が本当の邪魔者である。

「ならいっそ、俺とーー」

「それだけは絶対に嫌」

 私は中学のときに山城に告白された。でもその時すでに私はユウタが好きだったので、希望を微塵も持たせない形で山城を振った。

 それからは友達という関係で人付き合いをしてきたのだが、ことあるごとに勘違いされる。

 私と山城が付き合っているなんて真っ赤な嘘だというのに。

 それからというもの、彼はことあるごとに私を見つけては話しかけ、距離を縮めようとしてくる。

 してほしい相手としてくる相手が違う。

 求めているものと現実が違う。

 どうしてこうも上手くいかないのか。

 私はため息をつく。


「で、これからどうするんだ?」

「勿論、誤解を解くに決まってるじゃない」

 まずやらなければならないことだ。先程のやり取りだけで勘違いされるわけにはいかない。

 当たり前だ。ユウタとの関係がおかしくなったまま、学校生活は送りたくない。

「私はこの辺でお暇するから」

「じゃ、俺も」

 私はムッとした表情で彼を見る。

「……何だよ、並んで歩くくらい。友達なんだからいいだろ?」

「はぁ……。あんた、友達からはじめましょうは建前なのよ。本当なら友達という括りですら嫌なくらいよ」

 言い過ぎても当の本人にはダメージがつかない。彼に遠慮なく本音をぶつけられるのは、彼の性格を信頼しているから。


 仮にユウタに本音をぶつけたらどうなるか。

 なんで笑ってくれないの?

 なんでチャットのやり取りで絵文字がないの?


 そういうことが疎い人間だと知っているはずなのに、言ってしまえばユウタとの関係が壊れてしまう。彼に口すら聞いてもらえなくなる。


 嫌われたくない。


 この感情が私を一歩踏み出せず、縛り付け関係を進めることができないのだ。

「知ってるか? 好きの反対は嫌いではなく無関心なんだぜ」

 そう言うと彼は私より前に出てあっという間に廊下の向こう側へと消えていった。

 残された私を見て、影で笑う人の声が聞こえる。

「かわいそー。山城くんに弄ばれてるー」

 私が置いていかれたみたいに見えるのだろうか。あの自由気ままで、全てが軽い山城に振り回されている。それに気づいてから怒りが込み上げるまで時間はかからなかった。

「……本当にムカつく!」

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