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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
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第47話

「先輩。俺も晃みたいに、"間違い"を犯さないようタブレットを預けた方がいいですか?」


いくら今の自分の肉体が女の子と言え、《拠点》にいる間は、自由に男に戻ったり女の子になったりできるのだ。

女の子だけの狭い部屋で寝泊まりするのだから、万が一の保険はかけておいた方がいいかもしれない。


「ちゃんと責任を取ってくれるなら……"間違い"を犯しても……いいわよ」


何この可愛い生き物!?


普段は元気いっぱいの楓が自分だけに見せてくれる『女の子の顔』に、クラッと来てしまう。


責任を取る覚悟など、とうの昔――楓を守ると誓ったときにできている。

だからこの場で鉄雄に戻り、彼女を押し倒したいと思ってしまうが、さすがに他の女の子の前で"そんなこと"をできるはずもない。


「あ。僕なら大丈夫だから……気にしたり遠慮したりしないでください」


「いえ……私が大丈夫ではないのですが」


戦闘用かどうかの差こそあれ、【義体♀】は使用者の心や精神という"魂"がそのまま、別途用意された女の子の肉体に宿るという代物だ。

にも関わらず、目の前の銀髪少女は性格が変わっているというか、何かと"積極的"になっているような気がする。


「オレもいつでも大丈夫だぞ。ついさっき楓さんにアソコん中を造りなおしてもらって、膜も再生したからな」


「お前それ、俺に抱かれる前提で話をしてないか!?」


アイのときは『ですます口調』を心がけているが、驚いたりツッコミを入れる場合は"素"が出てしまう。


まったく、葉月は何を考えているのか。

他の子が見ている前で鉄雄が楓を抱けるかどうか、という話だったはずだ。


それにしても1日1回制限の【欠損補填】を使い、有賀に乱暴された形跡を消すのに、葉月が2番目に来るとは思わなかった。

事実、心を病んでしまった少女たちを優先して治すと決めていたはずだ。


何かしら状況が動いて、こちらの知らない裏事情があるのだろうし、そこは明日聞いてみよう。


「ちなみにわたくしは自分自身の恋愛に興味がないのですが、他の女性の方たちと一緒に2Pや3Pで抱かれるのなら……」


……桜しかり、塔子しかり。

生徒会長になるには、常軌を逸した性癖の持ち主でなければいけないという決まりでもあるのだろうか。


さて。

これ以上この話題を続けていれば、取り返しのつかないことになりそうな気がする。

もうタブレットを預ける云々はどうでもいい。とりあえず寝てしまおう。


アイはごく自然を装い、おやすみなさいと宣言してフトンをかぶってしまう。


仲間たちは、各々物足りなそうな気配を見せていたものの、一人、また一人と横になる。

こうして女子寮の狭い一室に、少女たちの安らかな寝息が漂いはじめた。


          *


(うおおおぉぉぉぉ。こんなん眠れるかァァァァァァ!)


布団に入って1時間後。

アイは目をギンギンと開きながら、布団の中で悶絶していた。


右を向けば美少女が無防備な寝姿を晒しており、左を向けば美少女が布団を抱き枕のように抱え込んでいる。

その彼女たちの奥に控えているのもやはり美少女。


乙女たちが一呼吸する度、室内の空気が甘くかぐわしい物に入れ替わっていくような錯覚を覚える。


……肉体的な性別はさておき、健全な男子高校生としては、こんな状況では悶々として眠れるはずもない。


そう。アイの反応が正常なはずだ。

だから少女の赤い瞳には、二つ隣で塔子と葉月に挟まれながら、布団の中で規則正しくCカップの胸を上下させている晃が異質に映ってしまう。


(なんでアイツはこの状況で平然と寝てられるんだ!? アイツも俺と"同類"だよな?)


考えたところで答えは出てこない。

いや、むしろ考えれば考えるほど、泥沼にハマっていくと言わざるを得ない。


何故なら、アイが最終的に出した結論は『アイで寝れないなら鉄雄になればいいんじゃね?』という、混迷の極みとも言うべきものだったからだ。


――後になって振り返ってみても、なぜ女の子の群れの中でてつおに戻ろうとしたのかを理論的に説明できない。できるはずもない。

疲れとか混乱とかで冷静な判断力を喪っていたから、としか言いようがない。


ともあれ、アイは布団を頭からすっぽり被ると体から魔法のようにタブレットを取り出し、【義体管理アプリケーション】を操作した。


アイという少女の肉体が魂を切り離され、タブレットの中へと四次元的に収納される。

同時に、タブレットの中で『時間が止まった状態のまま』保存されていた鉄雄の肉体が現実世界に現れ、少年の魂がその肉体に入り込む。


こうして元の姿に戻った鉄雄は、1秒と経たずに自分の判断ミスを痛感した。


(ぐあああっ! 一瞬で勃起しやがった!)


部屋に漂う甘い空気が何倍にも増したような感覚。

いや、現実に空気比率が変わったわけではないのだが、男の体で味わう女の子の気配はまるで別物のように感じ、体が生理現象として反応(興奮)してしまう。


極めつけは、寝ている布団に染みついた"女の子"のフェロモンだ。

シャンプーや石鹸の香りと花の蜜が混じったのような少女そのものの匂い。


アイになっていた自分自身が布団に移してしまった残り香なのだが、コレで興奮の後押しをしてしまったのは、あまりに倒錯的すぎると言うしかない。


……女の子の俺(の痕跡)に、男の俺が発情する……。

鉄雄とアイは肉体的には完全な別物――あるいは別人なのだから、正しい気もするし、間違っている気もする。


だが、こんな形で色欲に負け、性のはけ口として隣で寝ている少女に手を出すのだけは絶対に間違っている。

何より楓に対して失礼すぎる。


(くっ、我慢できそうにないし、こうなればこっそり抜け出してトイレで自己処理するしか……ぎゃああああ!)


「んうぅ……鉄雄ぉ……大好……んにゅ……」


あまりに絶妙なタイミングで寝ぼけた楓が転がり、布団を超えて抱きついてくる。


(クッ……鎮まれッ……俺の股間!)


もはや限界はすぐそこまで迫っている。

肉欲が理性を駆逐しようとした刹那、鉄雄は最後の力を振り絞ってタブレットを操作。


(ゼェ……ハァ……あ、危なかった)


"アイ"は楓に抱きつかれた格好のまま、ホッとGカップの胸をなでおろしていた。

心はさておき体が女の子になったことで、楓の衣類を乱暴に剥ぎ取って"ブチ込みたい"という情念が無事消え失せた。


(けど、その代わりに湧き出てきたこの感覚は何なんだよ!?)


股間がカッと熱くなる"ムラムラ"とした欲望が、下腹部の内側からじんわりと熱を帯びて全身に広がるという"ウズウズ"したモノへと変質する。


相手を征服することで自分のモノにしたいという欲求が鳴りを潜め、相手を包み込んで受け入れることで自分のモノにしたいという欲求が湧き上がってくる。


(これ……アイの体が女の子として発情してるってこと……か?)


鉄雄と入れ替わる前のアイであれば"悶々"で済んでいたはずだ。

しかし、鉄雄おとこの肉体で一度興奮した心が、再びアイに戻ってもその体を"温め"はじめたようだ。


不幸中の幸いと言うべきは、最初からアイで発情した訳ではないので、こっちの体であればまだ理性にブレーキがかけれそうなこと。

そして限界を超えて暴走してしまっても、この体にはアレがついてない為、楓の純潔を奪うという最悪の事態だけは避けられる。


(つっても、何もないにこしたことはないからな。何とか朝まで頑張ってみるか)


「にゅふふ……つお……キスして……アイ……おっぱ……揉ませ……」


身じろぎひとつしないことで、寝ぼけている楓の抱擁を耐える。


現在時刻は午前2時。

朝の訪れは……まだ遠い。


          *


異界に太陽というものは存在しない。

空はどこまで行っても赤や青、黄色などギトギトの原色が渦巻く不気味な光を放っており、その明るさは時間の経過によって変化したりはしない。


だから、カーテンの隙間から差し込む朝の光が眩しくて起床ウェイクアップ、ということはない。

しかし――それでも"朝"という概念は人間という種そのものに備わっており、目を覚ますのは自然の摂理と言えるかもしれない。


「んぅ……朝か……」


「おはよう。よく眠れた?」


「いえ、あまり眠れませんでした」


正直一睡もできないと思っていたが、いつの間か意識がまどろみの中を彷徨っていたようだ。


目覚めてすぐ目の前にあるのが、楓の顔というのは悪い気はしない。

寝不足であるものの、最高の目覚めと言えるだろう。


それにしても楓の顔がやたら近くないか?


……ああ、そうか。彼女は寝ぼけてこちらに抱き着いてきたんだった。

俺はそれを貝のように動かないことでガマンして……って!?


ふと、アイは自分の態勢の不自然さに気付いた。


自分と楓は全く同じポーズを取っている。


相手の背中に両腕を回し、大きさの差こそあれおっぱい同士を押し付け合い。

自分の太ももを楓の股の間に差し入れ、逆に楓の太ももがアイの股間に押し付けられて刺激し合うという恰好。


「え、これって……」


「ようやく気付いたのね……アンタがホントに寝ていたのか、寝ぼけたフリをしていただけなのか、判断に困ったわよ」


そういう楓の顔は、異様なほど赤かった。


「あの……先輩。私……どこまでやっちゃいました?」


まったく"そういう記憶"がないアイは、恐る恐る尋ねてみた。

たしかに今になって振り返ってみれば、やたら官能的で"気持ちいい"夢を見ていたような気がする。


そう。あくまでも夢だ。

夢の”はず”だ。

目覚めと同時に内容を忘れてしまっているのが、その証拠の”はず”だ。


そんな風に戸惑う赤毛少女の問いに対し、楓は一瞬驚き、次いでイタズラ猫のような笑みを浮かべ、


「ナ・イ・ショ」


と、互いに3度目、アイの肉体としては初となる軽いキスをすることで、その答えをはぐらかした。


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