路上の霊。鬼の末期。ウサギと亀の会話
路上の霊
月夜の路上。
コンクリートの塀に挟まれた道。
そこで、幽霊を見た。
とても美しかった。
それは幻に見えた。
だから美しかった。
生身の腐ったような感触がなかった。
臭いもなかった。
純粋に姿だけがあった。
その姿だけの存在は私に言った。
「こっちに来ない?」
あまりの美しい声に私は思わずうなづいた。
そして、私は路上の死体になった。
※
鬼の末期
鬼は欲張りだった。
東に宝があれば奪いに行った。
西に美女がいればさらいに行った。
鬼は強かった。
いかな名刀もへし折る体を持っていた。
山を持ち上げる力があった。
鬼は飢えていた。
大樽に入った酒を飲みほしても酔わなかった。
千の皿を空にしても腹をすかせた。
鬼はわからなかった。
花を愛でる気持ちを。
別れを悲しむ気持ちを。
鬼はただ生きていた。
死んでいないだけだった。
ある日、どういうわけか鬼は死んだ。
死ぬとき、鬼は言った。
「ああ、やっと終われる」
鬼は笑って寂しく死んだ。
※
ウサギと亀の会話
「おや、カメさんや」
「おう、ウサギさん」
「どうです調子は」
「ぼちぼち、ゆっくり。そちらは?」
「せかせか、はやく。良いもんです」
「良いなら良いですな」
「そうですな。ああ、腹が減った。昼時ですな」
「おや、そうですか。私は昨日食べて、それっきり」
「相も変わらず、食事に心をさかれずすみますな」
「いやいや、舌が怠けてしまいます。そりゃそうとこれからどちらへ?」
「ああいやいや、もうすぐ死ぬんでその準備」
「おや、相変わらずウサギさんはお早い。うらやましい限りです」
「そりゃこっちも。長く見れるそちらがうらやましい」
「お互いままなりませんな」
「そうですな」
「そいじゃあ、次のウサギさんに会える時を楽しみにしています」
「ええ、次をよろしく」
「それじゃあこれで」
「はい、これで」




