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二木さんは今日も日記を書く  作者: ニキニキ製作委員会


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第1話「始業式」

 2026 年 4 月 8 日(水) 晴れ

 朝、目が覚めたときから憂鬱な気分だった。今日が始業式というのもあったけれど、1 番の理由はクラス替えがあったから。

 新しいことが始まるのはどうにも落ち着かない。


 人間関係とかがリセットされるのは良いことでもあるらしいけれど、私にも一応友達と呼べそうな人もいたわけで、そういう人たちと離れてしまったらと思うと、どうしてもポジティブな気持ちにはなれなかった。


 できるだけ目立たず、人間関係は必要最低限に、静かに一年を終える。去年と同じように過ごすことが目標だったのに、それが最初から崩れてしまいそうな気がしてならなかった。


 学校に向かう足取りも心なしか重く感じた。周りの人たちが楽しそうに見えたのも余計に気分を沈ませた原因だったかもしれない。

 どうしてそんなに楽しそうにできるんだろうという気持ちとともに、そういう人たちが少しだけ羨ましいと感じる自分もいた。


 学校に着いて貼り出されたクラス表を見ると、予感は的中していた。

 知らない名前が多かったし、見知った名前は全員見事に別のクラスだった。


 教室のドアを開けると、すでにいくつかのグループができかけていた。まだ朝だというのに、楽しそうな笑い声が教室中のあちこちから聞こえてきた。

 どうやったらそんなに早く打ち解けられるんだろうと少し不思議に思いながら自分の机を探した。


 私の席は中央から 1 つ後ろで、特に良くも悪くもないといった感じだった。

 前すぎても後ろすぎても目立ちそうだし、そういう意味ではちょうどいい場所かもしれないと思った。


 しばらくして担任が入ってきた。やたらと声の大きい人で今後のことを思うと少し疲れた気がした。

 始業式はというと、つまらない話を聞いて、立ったり座ったり。

 特に大きな問題はなく終わった。


 教室へ戻ってしばらくすると、出席確認も兼ねた自己紹介が始まった。

 そのときに前の席の人の名前を知った。姫野(ひめの)あのん。


 そう呼ばれた彼女は、よく通る声で返事をしていた。たったそれだけのことなのに、なぜか印象に残ってなかなか頭から離れなかった。


 休み時間、トイレから戻ると前の席に人が集まっていた。

 最初は 2 人だったのが、1 人また 1 人と気付けば 5 人くらいになっていた。


 騒がしいのは好きではなかったが、これに関しては単純にすごいなという気持ちになった。

 新学期の初日からあそこまで自然に人が集まるのは珍しいと思う。


 私がその会話に入ることはなかったが、なぜか前の方から視線を感じた。それも何度も。

 さすがに気になって 3 回目くらいで顔を上げてみると、姫野さんと目が合った。


 そういえば、ちゃんと顔を見たのはこのときが初めてだった。

 まぶしいほどの金髪とハーフツインの髪型。ファッションのことはよくわからないけれど、とにかく自分では絶対にしないであろう派手な見た目だ。

 メイクは少し濃いものの整った顔立ちをしていて、女子から見ても可愛い顔だと思った。


 周りに人が集まるのもこの顔が理由だろう。そんなことを考えていると、向こうは少しだけ笑ってすぐに視線を戻した。


 結局、そのあとも似たようなことが何回かあった。うっかり消しゴムを落としたときもそうだった。自分が拾うよりもはるかに早く前の席から手が伸びてきて


「はいっ!」


 と元気のいい声とともに消しゴムを渡された。

 初対面なのに距離感が近いな...などと思っていると、続けて


「その消しゴムまだなくなってなかったんだねー」


 と言われたが、そのときはどういう意味かわからなかった。

 今思えば、確かに去年から同じ消しゴムを使っているが、なぜそれを姫野さんが知っていたのかまではわからなかった。


 学校が終わると、私はそそくさと教室を出て帰路についた。

 いつもの電車に乗り、いつもの道を歩く。


 最寄り駅から自宅までの道で、電車で読んでいた小説のことをふと思い出した。

 ストーカー被害を受けているかもしれないという主人公が発した


「最近視線を感じるんだよね」


 というセリフ。

 私は人の視線なんて感じたことはないし、見られていても気づかないだろうなと思った。


 夜、自分の部屋の机に向かい、日課である日記を書いている。

 1 日を通して最も印象に残ったのは、やはり姫野さんのこと。


 何を考えているのかよくわからなくて、明るくて、人気者で、たまに謎の行動をする。

 私のことを意識するような素振りをしていたような気もするが、きっと勘違いだ。

 仮にそうだったとしても理由がないし、私自身もそんなことをされるようなことをした記憶はない。

 というか今日初めて知ったし、当然これまでも関りは一切なかった。


 別に話すこと自体に抵抗があるわけではない。でも、平穏な日常を荒らすのだけはやめてほしい。

 そんな気持ちだった。


 できるだけ目立たず、人間関係は必要最低限に、静かに一年を終える。

 私の目標は変わらない。


 ただ前を見ると姫野さんがいて、なぜか向こうもこちらを見てくる。

 無理に気にしないようにするよりは、ある程度は喋ったりしたほうが良いような気もする。


 明日からはもう通常授業が始まる。明日は特に好きな授業はなかったが、強いて言えば芸術の選択授業が気になった。


 音楽・美術・書道の中から好きなものを選択するで、できれば静かに過ごせるものがいいけれど、どれもそれなりに楽しそうだなと思った。

 明日はいきなり授業ではなく説明なので、それを聞いてから決めようと思う。


 ―――二木(ふたき)さんは今日も日記を書く

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