46,黒いピーコートと白状したことと初詣
電車から降りると、彼はホームで待っていてくれた。通勤のときのコートとは違う、黒いピーコートがとてもおしゃれだ。
「仁さん!」
僕は思わず駆け寄る。誰もいなければ、抱き着きたいところだけれど。
「晴臣くん、会いたかったよ」
ああ、なんて素敵な笑顔。なんてパーフェクト・オブ・パーフェクトな僕の王子様。
「僕も……」
胸がいっぱいの僕に、彼が言った。
「さあ、行こうか」
小此木山に向かう電車は、別のホームだ。
つのる思いは、混んだ電車の中ではとても話せない。とは言っても、会わなかったのは三日ほどで、その間もメッセージでやり取りしていたのだけれど。
小此木山登山口駅に着き、人波に混じって出口に向かいながら、彼が言った。
「実家で過ごす年末年始はどうだった?」
「いつも通り。でも、お父さんがいつもみたいに嫌味を言うから、叔父さんに送った部屋の写真を見せたら黙っちゃった」
彼がほほえむ。
「へえ、お母さんは?」
「にこにこして、『晴臣は、私に似て几帳面なところがあるから』って」
「ははっ、よかったね」
改札を抜けて、ケーブルカー乗り場に向かう。
「仁さんは? どうだった?」
「楽しかったよ。真子が髪を派手な色に染めて、叔母さんがぶつくさ言ってた」
「どんな色?」
「金髪に近い茶色だけどね」
「へえ。でも、真子さんならそういう色も似合いそう」
「えっ、真子の顔、知ってるの?」
彼が、驚いたようにこちらを向いた。
しまった。最初に「ササジン」に一目ぼれしたとき、真子さんのSNSをチェックしたことは言っていなかったのだ。
観念して白状する。
「実は、最初の頃に一度だけ、仁さんのフォロワーのところから見に行ったことがあって」
「へえ、そうなんだ」
意外に薄い反応だったので、つい自分からしゃべってしまう。
「初めに見たとき、仁さんの彼女かと思ってがっかりしかけたら、『いとこのお兄ちゃん』って書いてあって、安心したんだ」
「へえ」
彼が、ニヤニヤしながら僕を見る。僕は、思わずうつむく。
「おかしいよね。あのときは、まさか実際に会うことになるなんて思っていなかったし、そういう人に彼女がいてもいなくても僕には関係ないのに……」
すると、彼が言った。
「そんなことないよ。今の話、僕はすごくうれしい」
「あっ……じゃあ、よかった」
此木神社に初詣に行こうという人は多いようで、人出は前回の比ではない。ケーブルカー乗り場の列に並びながら、彼が言った。
「すごい人だね」
「ホント、お参りするのも時間がかかりそう」
「山頂の売店も混んでいるかな」
「そうかもね」
「写真を撮って、またあそこで蕎麦が食べたいなあ」
「僕も。けっこうおいしかったよね」
何十分も並んで、ようやくぎゅうぎゅう詰めのケーブルカーに乗れた。今日は立ったまま窓の外を眺める。
前回は、まだ紅葉には早い時期だったけれど、今、山の木々は冬枯れている。それだけ時間が経っているのだと思うと、感慨深い。
此木神社の前にも、今日はお参りしようとする人の列ができている。その列に、僕たちも加わった。
列はなかなか進まないけれど、彼と二人ならば苦にならない。お互いに列に並んでいる様子を撮ったり、神社の屋根越しの空を撮ったりもした。
ようやく神社の前にたどり着いた僕たちは、お賽銭を投げて鈴を鳴らし、お参りする。
僕は、まずは前回のお礼を言った。毘沙門天さん、去年の秋に来たときは、僕の願いを聞いてくださってありがとうございました。
おかげで僕は、仁さんと仲良くなることができて、こうして今日も、一緒にお参りに来ることができました。
これからも、ずっと二人で一緒に過ごして行けるよう、どうか見守ってください。よろしくお願いします。




