45,実家で大晦日を過ごすことと年明けのメッセージとまだ話したくないこと
コタツの向かい側に座った母が言う。
「最近あんまり帰って来ないけど、ちゃんと食べてるの?」
「うん。一応バランスとか考えて食べてるよ」
「そう。勝義さんのマンションだから、あんまり私が行くのもアレだしね」
勝義さんとは、叔父さんのことだ。父が、ずずっとお茶をすすってから言った。
「マンションの管理だとか言って、お前、ちゃんとやってるのか? まさかゴミ屋敷になってるんじゃないだろうな」
僕は、畳の上に置いたダッフルコートのポケットからスマホを出して、さっき叔父さんに送った画像を開いて渡す。
「今日、叔父さんがメッセージをくれたから、撮って送ったんだよ」
「どれ」
老眼の目を遠ざけるように見る父の手から、母がさっとスマホを取り上げる。
「あら、きれいにしているじゃない。お風呂の鏡に水垢もついてないし。晴臣は、私に似て几帳面なところがあるから」
「叔父さん、今月はボーナスで、いつもより多めに振り込んでくれたって。たいしたことしてないのに」
「あらそう。勝義さんにお礼を言わなくちゃね、お父さん」
にこにこしている母に対し、ふんと鼻を鳴らして、テレビの画面に視線を移す父。いつものことだ。
夜は、紅白歌合戦を見ながらすき焼きを食べた。うちの大晦日の定番だ。
紅白が終わり、「ゆく年くる年」が始まったのを機に、僕は自分の部屋に引き上げた。パジャマに着替えながら感慨にひたる。
今年は本当に変化の年だった。生まれて初めての一人暮らしに、運命の出会いに、生まれて初めての素敵な素敵な恋人。
こんなに幸せな気持ちで新年を迎えられるなんて……。
やがて、地元の神社から除夜の鐘が聞こえてきた。もうすぐ年が明ける。
日付が変わってすぐに、スマートフォンが震えた。彼からだ。
―― 明けましておめでとう。出会って初めてのお正月だね。
今年も晴臣くんと一緒に過ごすことを楽しみにしています。これからもどうぞよろしく。
すぐに返信する。
―― 明けましておめでとう。僕も仁さんと一緒にいろんなことをするの、楽しみでしかたありません。初詣も。
こんなに幸せなお正月は初めて。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
そして、桃太郎の写真とともに送信。すると、すぐに返信が来た。
―― 桃太郎くん、かわいいね。でも、新年最初のかわいい晴臣くんも見たいな。
そうきたか。僕は、なるべくかわいく見えるように、でも加工は極力ひかえめにしたアプリで自撮りをして送信する。
―― 素敵な仁さんの顔も見せて。
少し待っていると、優しい笑顔で、パジャマ姿の彼の自撮りが送られてきた。
―― 晴臣くん、すごくかわいい。パジャマ、おそろいだね。
―― 仁さんこそ、すごくハンサムでカッコいい。僕はそろそろ寝ようと思っているところ。仁さんは?
その後もしばらくの間、他愛ないやり取りを続け、それぞれ、僕はベッドに、彼は叔母さんの家の客間の布団に入り、お休みを言い合ってスマホを閉じた。
次に会えるのはあさって、初詣に行くときだ。待ち遠しい。早く会いたい……。
彼は、前の日の夕方頃に東京に帰って来るということだった。その時間に合わせて彼の部屋に行こうかとも思ったのだけれど、きっと疲れているに違いないから、一人でゆっくりしてもらおうと思いとどまった。
翌日は小此木山に登るのだし、翌々日には出勤するのだから、前の晩にベッドで余計な体力を使うことになってはいけない、なんて思ったりしたのだ。
僕は実家から、直接待ち合わせの駅に向かう。母は名残惜しそうに、もっとゆっくりして行けばいいのにと言ったけれど、「マンションの空気を入れ替えないと」、とかなんとか言って家を出た。
母には申し訳ないけれど、彼とは前から約束しているし、僕自身、一秒でも早く会いたくてしかたがない。それに、将来的にはわからないけれど、今はまだ、彼のことは話したくないのだ。




