22,あわてて顔を隠す僕と聞くのが怖いことと彼の意外な過去
「わっ!」
僕は、あわてて両手で顔を隠しながら壁のほうを向く。すると、彼が僕の肩に触れた。
「うわっ」
びっくりして、思わず首をすくめる。
「晴臣くん? 大丈夫?」
僕は顔を隠したまま答える。
「あっ……はい」
「具合はどう?」
「だっ、大丈夫です」
「だったらこっち向いてよ」
「だっ、ダメです」
「どうして?」
「だって、恥ずかしい」
背後で、彼がくすくすと笑っている。
「なんで恥ずかしいのさ」
「だって、さっ、笹垣さんが見てるから」
「そりゃあ見るよ。このベッドで隣に誰かが寝ているなんて初めてだしね」
そ、そうなのか。それはなんだかうれしい気もするけれど、でもっ。
「こんな近くで見られたら……」
毛穴とか、全部見えちゃうし。すると、相変わらずくすくす笑いながら彼が言った。
「そんなこと言ってももう遅いよ。さっきからたっぷり見たし」
「たっ……」
たっぷりって! じゃあ毛穴も!?
彼が、ポンポンと僕の肩を叩く。
「だからもう、観念してこっち見てよ」
観念って……。恐る恐る向き直ると、彼が寝起きとは思えない爽やかな顔でほほえみながら言った。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「ゆうべはよく眠れた?」
「はい」
眠れるわけがないと思っていたのに、夢を見るほどぐっすり眠った。
「それならよかった。風邪はどう?」
「もう治ったみたいです」
「ああよかった」
心底ほっとしたように言う。
「迷惑かけちゃって、すいませんでした」
「迷惑なんかじゃないよ。かわいい寝顔も見られたし」
「えっ」
かっ、かわいいってっ! 一瞬のうちに顔が熱くなる。また熱が出るよ……。
日曜日の今日、遅めの朝食(いわゆるブランチというやつ?)をゆっくり取りながら、いろいろな話をした。
朝食のメニューは、トーストとコーヒーに、昨日のクリームシチューとサラダだ。彼は「残り物でごめんね」と言ったけれど、ゆうべは体調のせいであまり食べられなかったので、僕はとてもうれしい。
実家にいたときは、次の日のカレーも大好きだったし。そう言うと、彼はにっこり笑ってくれた。
食べながら、彼が言った。
「実家にはよく帰るの?」
「はい。たまにですけど、平日の昼間に行って、母の手料理を食べたり、猫と戯れたり。
でも、父は苦手だから、顔を合わせないように早めに家を出るんです。夕方になると、いつ帰って来るかと落ち着かなくなっちゃって」
僕は笑って見せる。
「そうなんだ」
彼が、優しい目で僕を見ながらうなずく。
彼の仕事の話などを聞いた後、僕は思い切って言ってみた。
「あの、少し立ち入ったことを聞いてもいいですか?」
「うん?」
マグカップを口に運びながら、彼は眉を上げる。
「あの、小此木山に行ったときに、何年も彼女はいないって言っていましたけど」
しつこいとは思いつつ、気になってしかたがないのだ。
「ああ、そうなんだよ」
「あのときも言ったと思いますけど、笹垣さん、すごく素敵でモテそうなのに、どうしてかなって。
あの、ずうずうしくてすいません。イヤだったら答えなくていいんですけど」
彼はほほえむ。
「一言で言うと、出会いがないってことかな。学生時代には、けっこう本気で付き合っていた人がいたんだけどね」
「あ……」
この先は、とても気になるのと同時に、なんだか聞くのが怖い。
彼が、カタンとマグカップをテーブルに置いた。
「同じサークルの同級生で、一年から卒業間近まで付き合って、僕としては、この先もずっと、なんて思っていたんだけど」
そこで言葉を切って、ふっと笑う。
「なんと、二股をかけられていてさ」
「えっ!?」
「もう一人は社長の息子だとかで、卒業したらその人と結婚するって言われて振られたんだよ」
「そんな、ひどい……」
社長の息子だろうがなんだろうが、絶対彼のほうが素敵に決まっているし、彼と一緒になったほうがずっとずっと幸せになれる決まっているのに、なんてバカな女なんだ!




