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102,彼の思いとしゃくり上げる僕と真子さんと健壱さん

 彼がにっこり笑いながら言った。

 

「いいよ、すごく似合っている」


「それに、これも」


 僕は足元を指す。僕がスニーカーしか持っていないと知った叔父さんは、ジャケットに合わせて革靴も買ってくれたのだ。

 

「うん、いい。いつものカジュアルなスタイルもかわいいけど、こういうのもいいね。惚れ直したよ」


 上から下まで眺められて、ちょっと照れくさい。

 

 

 

 部屋に着くと、ジャケットを汚さないよう、彼に倣って、僕も部屋着に着替えた。今日は、彼が作ってくれる夕飯を食べて、明日に備えて早めに休む予定だ。

 

 

 彼が作ってくれた豚の生姜焼きはとてもおいしいのだけれど、明日のことを考えると、なんだか不安になってしまい、なかなか箸が進まない。

 

 そんな僕を見て、彼が言った。

 

「晴臣くん、今から緊張しているの?」


「うん、ちょっとだけ」


「大丈夫だよ。真子がある程度のことは話してくれているし、叔母さん夫婦は、とても気さくだから」


「でも……」


「うん?」


「立派に育った甥っ子が、こんな、僕みたいなしょぼくれたのを恋人だと言って連れて行ったら、叔母さんたち、がっかりするんじゃないかと思って」


「晴臣くん」


 彼が、真顔になってじっとこちらを見る。何かいけないことを言っただろうかと、僕はますます不安になる。

 

 すると、彼が言った。

 

「君はしょぼくれてなんかいないよ。真面目だし、思いやりがあるし、いつも一生懸命で、僕はとても素敵だと思っている。


 そういうところが大好きだし、見た目だって、とても素敵だよ。

 

 叔母さんたちだって、きっと君を気に入るに違いないけど、もしもそうじゃなくても、僕はちっとも気にならないよ。だって僕は、君がどんなにいい子かよく知っているし、何より、誰よりも君を必要としているのは僕なんだから。

 

 明日は、これからカフェをやることの報告と、僕が、この先の人生を共にすると決めた大切な人を紹介するために行くんだ。何も心配はいらないよ」

 

「あ……」


 胸がいっぱいになって、いつものごとく涙がこみ上げる。あわてて目元をぬぐう僕に、彼は優しくほほえみかけてくれる。

 

「泣き虫なところもかわいいよ」


 僕は、しゃくり上げながらとぎれとぎれに言う。


「もう、二十歳なのに、すぐにめそめそして、恥ずかしい……」


「泣きたいときは、我慢せずに泣けばいい。そういう君も、僕は好きだよ」


 僕は、泣き笑いしながら言った。

 

「仁さん、僕のこと好きすぎ……」


 彼が、あははと笑った。

 

 

 その夜は、淫らな行為に及ぶこともなく、僕たちは手をつないで眠りについた。明日の朝が早いからという理由とともに、僕がナーバスになってしまい、気持ちに余裕がないせいも大いにあった。

 

 そんな僕を、いつでも彼は優しく包み込んで受け入れてくれる。そういう彼が大好きだ……。

 

 

 

 新幹線を降りて改札を抜けると、笑顔の真子さんと彼氏が待っていた。

 

「仁兄ちゃん、晴臣くーん!」


 手を振る真子さんの横に立っているのは、スポーツマンタイプの爽やかな青年だ。

 

「こちら、淀川健壱くんでーす」


「どうも、淀川です」


 ぺこりと頭を下げる健壱さんに、真子さんが言う。

 

「従兄の仁兄ちゃんと、恋人の晴臣くんだよ」


「初めまして、笹垣仁之助です。真子がお世話になっています」


 笑顔で挨拶する彼の横で、僕も頭を下げる。

 

「日下部晴臣です」


 健壱さんが、僕たちを等分に見ながら言った。

 

「お噂はかねがねうかがっています」


「噂?」


 彼に問いかけられた真子さんが答える。

 

「私の自慢の従兄のお兄ちゃんと、とってもかわいいその恋人だよって。二人の素敵な関係を見て、私も勇気を出して健壱くんに告白する気になったんだからっていつも言ってるの」


 うわ、なんだか恥ずかしい。思わずうつむいた僕の横で、彼は泰然とほほえんでいる。

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