101,母の思いと動き出したことと彼の叔母さんたちに挨拶に行くこと
「あの日、あなたたちがうちに来た日の夜は、さすがに眠れなかったわ。やっぱり、ショックだったから。
あなたに恋人がいたことも、それが男性だったこともショックだった。でも、ずっと考えているうちに、だんだんわかってきたことがあるの。
多分私は、あなたの恋人がかわいらしい女の子だったとしても、同じようにショックを受けたんじゃないかなあって」
「え?」
「もちろん、いつかは大切な人ができて幸せになってほしいと思ってはいたけど、その一方で、いくつになってもあなたはかわいい一人息子で、ずっとお母さんだけの晴臣でいてほしいっていう気持ちもあったのよ。
矛盾しているようだけど、人の親ならば、誰でも大なり小なり思い当たる節があるんじゃないかしら。
二十歳にはなったけど、まだまだ子供だと思っていたあなたに将来を誓い合った相手がいることを知って、急に晴臣が遠くに行ってしまったようで、お母さん、そのことが寂しかったんだと思うわ」
「お母さん……」
「だけど、お母さんの一番の望みは、やっぱりあなたが幸せでいることなの。笹垣さん、礼儀正しくて誠実そうで、素敵な人じゃない?
あの人なら、きっと大丈夫そうな気がするわ。あなたには、あのくらい大人でしっかりした人が合っていると思うし」
「僕、頼りないから」
母がふふっと笑った。
「そんなことないわよ。でも、こんなことを言ったら失礼かもしれないけど、ご自身が寂しい思いをしたからこそ、あなたのことをより大切にしてくれるんじゃないかっていう気持ちもあるの」
そこで僕は言った。
「仁さんは、ご両親とは疎遠だったけど、その分、叔母さんたちによくしてもらったんだって。真子さんのお母さんだよ。
それで、カフェを始める前に、一度一緒に会いに行こうっていう話になっていて、真子さんは僕たちのこと応援するって言ってくれているから、事前にそれとなく伝えておいてもらおうかって」
「それはいいわね。やっぱり、いきなりだと驚くものね」
「……ごめん」
「いいのよ」
母はすべてを受け入れてくれた。こんな僕のことでも愛してくれ、幸せを願ってくれているのだと、胸が熱くなった。
父の気持ちはどうなのだろうと思ったけれど、母は、「私がいいと言えば、お父さんもいいのよ」と笑っていた。本当だろうかと思うけれど、結局いつも、最終的な決定権は母にある気がする。
今までずっとそうだったのだから、今回もそれでいいということにしておこう。どっちにしても、誰に何を言われたって、彼と別れるつもりは1ミリもないのだから。
カフェ開店に向けて、物事はどんどん動き出した。正式に店舗の賃貸契約を交わし、彼は11月いっぱいで会社を辞めることになった。
それまでは、会社に通いながら少しずつ準備を進め、12月は丸々開業準備に当てるという。お店で使う道具や食器、メニューの検討などは、僕もできる限り協力したいと思っている。
ついにそのときが来るのだと思うと、ワクワクする反面、とても緊張する。今まで接客業どころか、まともにアルバイトをしたこともない僕が、迷惑をかけることなく、ちゃんとお手伝いできるのだろうか……。
10月になり、僕たちは、彼の叔母さんたちに挨拶に行くことになった。近くのホテルに部屋を取って一泊し、彼が育った街も案内してくれるという。
うれしいけれど、緊張もする。当日は朝早い新幹線で行くことと、僕自身、何かと心細かったこともあり、お願いして、前日は彼の部屋に泊めてもらい、翌朝、一緒に出かけることにした。
夕方、仕事終わりの彼と、駅で待ち合わせた。僕を見るなり、彼が目を見張る。
「そのジャケット」
「うん、言っていたやつ」
叔父さんに、やはりきちんとした服装で行ったほうがいいだろうかと相談したところ、デパートに連れて行ってくれ、ジャケットを買ってくれたのだ。叔父さんは、優しいだけでなく気前もいい。




