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06:勇者と人魚

 隣国クロスレインにはまだ僕が今より幼き頃に一度訪れたことがあった。


 正直両国の関係はずっと前から友好的とはいえず。


 僕が行ったのは後にも先にもその一度だけ。


 各国代表による国家会議。


 その時の会合場所がクロスレインだったのだ。


「ったく、たりーなー」


「こんな所に来てまで餓鬼のお守りかよ」


「・・・・・・・・・・・・」


 城の庭園を護衛の勇者達と巡っていた。      


 父である王は会議に出席、僕達はその後行われる夕食会までの時間を持て余していた。


 そこに彼女の姿があった。


「あれ~、凜廻じゃん」


「お、本当だ、役立たずの凜廻、お前この国にいたんだ」


 少女は名を呼ばれビクリと肩を振るわせた。


「あ、久しぶり・・・・・・えっと、友親くんと、公尚くん」


 リンネと呼ばれた少女は、透明なガラスで出来たあちらの国でいうメガネとかいう屈折異常を補正する道具を顔にかけていた。


「つか、お前何もしてないのによく国のお世話になれてるな」


「そうそう、結局最初から最後まで全く使えない奴だったわ」


「・・・・・・・・・・・・」


 彼女は黙って俯いてしまった。


 その後も、うちの勇者達がリンネを無能だの、勇者の面汚しだの、散々罵った後。


「おい、もうほっといて他の奴に会いに行こうぜ」


「そうだな、そういえば雪枝もこの国じゃなかったっけ? 丁度ここに良さそうな花があるし・・・・・・」


「あ、その花、まだ咲いたばかり・・・・・・で」


 リンネの言葉は届かず、トモチカは乱暴に花を摘んでいく。


「お前、雪枝前から狙ってたもんなぁ」


「あ~、俺もこの国にすれば良かったなぁ」


 二人は喋りながら僕の護衛という本来の任務を放棄してどこかに行ってしまった。


 残された僕と、リンネという少女。


「この花たちは貴方が?」


「あ、はい。前の世界でも花を育てていたもので・・・・・・」


 毟り取られた花を見つめ。


「せっかく咲いたのに・・・・・・」


 彼女は顔をこちらに向け。


「また育て直さなければですね」


 悲しく笑っていた。



       ◇


 クロエが村人に聞いたという話。


「勇者に助けられた?」


「ええ、他の勇者達にやられ瀕死だった自分を後から回復してくれたとか。本当かしら、私には信じられないわ。仮にも勇者よ、意識が朦朧としていて夢でも見たんじゃないかと」 


 僕も同意見ではある。


 勇者、そして人間は皆醜く愚かで。


 だが、我ら魔族も全員が清廉潔白なわけではない。


 どこにでもいるのだ、浅ましく醜悪な者というのは。


 だから元の国でも法はあり裁かれる者は後を絶たなかった。


「・・・・・・クロエ、その勇者の特徴とか聞いてますか?」


「ん、あぁ、確か・・・・・・メガネとかいうあちらの世界の視力を補正してよく見えるようになるメガネとかいう道具を・・・・・・」


 最後まで聞く前に僕にはある人物の姿が脳に映った。


「・・・・・・リンネ」


「え、何かいった?」


 彼女は回復魔法の熟手で、今でこそ自国での治療行為から聖女などと呼ばれてはいるが。


 同じ勇者達にはそもそも回復は不要だった。


 勇者達が戦闘で負傷することなど稀で、それゆえ彼女が活躍する機会はまるでなかった。


「彼女ならあるいは・・・・・・いや、勇者って事には違いない、でも話が本当なら・・・・・・」


しばしの自問自答。


 だが、ここで答えが出るはずもなく。


「クロエ、この話は一旦置いておきましょう。それで他に何か新しい情報はありますか?」


 切り替える、今は他にやることが山積み。


 クロエには王女のお世話の他に僕の使者として各国との橋渡し役になってもらっている。


「そういえばアリメトリスの近海で船がよく沈没するみたい。どうも噂では海の化け物の仕業じゃないかって言われていて、近々勇者を含んだ討伐隊が派遣されるみたい」


「ふむ」


「後は、西国ライデントの山岳地帯で大量に人間が殺されてるって。最初はそこらを根城にしてる山賊達が被害にあっていたみたいで特に問題にはしてないみたいだけど、最近では周辺の村も襲われたらしく近々勇者を含んだ討伐隊が派遣されるみたい。どうも噂では山の魔獣の仕業じゃないかって言われてわ」

 

「ふむふむ」


 海の化け物、山の魔獣か。


「それ、ヴェパとサブノじゃ・・・・・・」


「あ」


「・・・・・・クロエ、今すぐ各討伐隊の情報を詳細に調べてくださいっ」


 もしそうなら時間がない。


 悠長に構えていては。


 仲間が死ぬ、かもしれない。


 すぐに行動しなければ。 




 大海原をかける大船団。


その一隻が吹き上げった大量の塩水によって空中へと押し出され船体が真っ二つに割れた。


「で、出たぞぉおおおっ! 海の化け物だぁああああああ」


「ケ、ケイスケ様、出ました、化け物ですっ! ご準備をっ!」


 大声で呼ばれ、アリメトリス所属の勇者が一人、ケイスケが甲板に姿を見せる。


「はいはい。つっても姿が見えないんじゃ何もできないじゃない」


 勇者は嘘をついた。


 確かに目視は出来ていなかったが。


 ケイスケには海の中を高速で泳ぐ何かを感知していた。


「ど~れ、なら釣り上げますかっ!」


 高く飛び上がる。それにより船は大きく揺れた。


 手に持っていた槍を海に向かって。


 投げつける。


 それはまるで雷撃。


 その衝撃は一時海面に穴を開けた。


 押し出された同量の質量は空へと巻き上がり。


 間髪直撃をさけた海の化け物もまたそれらと混じった。


「みっけたっ!」


 それは想定したよりずっと小さなモノであった。


 鯨のような化け物ではなくサイズは人とさほど変わらず。


 上半身は人間の女性のように見えたが、下半身には魚のような尾ひれが付いていた。


「お、人魚ってやつ? いいね、こりゃ生け捕りしてじっくり見たいぜっ!」


 ケイスケは即座に船の碇を船体から引き千切るとブンブンを回して人魚へと投げつけた。


 鎖を絡めるつもりだったがそう上手くはいかず先端が矢のように飛んで行っただけであった。


「あ、やべっ、こりゃ死んだか?」


 凄まじいスピード、直撃したら人魚の身体はバラバラ。


 でもそうはならない。


 捉えたはずの人魚の身体に碇が当たることはなかった。


 通り過ぎたというべきか。


 そこに手応えはなく。


 人魚の姿は程なく霧のように消えた。


「躱した? いや消えた?」


 直後、勇者の乗っていた船が。


 海面より押し出される。


 海からの噴水が船を一時空飛ぶ乗り物に変えた。 


 直前でそれを避け、近くの船へと乗り移った勇者。


 その最中見えたのは海中を泳ぎ旋回するいくつもの影。


「仲間? いや幻影か」


 一瞬で見破る。


「俺にはその類いは効かないよっ!」


 ケイスケのスキルは、各種精神異常耐性。


 魅了、混乱、恐怖などの精神攻撃は一切受け付けない。


 それゆえ本物以外は明らかにぼやけて見える。


 だが、このスキルを持っているにも関わらず幻影が僅かでも瞳に映っている時点で術者である人魚の幻想を見せる能力は相当高いレベルにあった。


 勇者が飛び乗った船のさきで兵士から槍を受け取る。


「こりゃ生け捕りは無理そうだね」


 それをくるくる回した後。


 人魚のいる先へと刃を向けた。


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