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たたかうネウク

「さぁて行きましょうか!」


 ネウクが声高らかに言う。

 昨日は私の家で飲みまくって泥のように眠って、今朝誰よりも早く起きて意気揚々とクエストの準備をしていた。

 なんというか人生を楽しんでるって感じだった。


「ギルドから馬車が出てるから、それに乗りましょ」

「はーい」

「ねえエニロエ、これから向かうのって、どんなところ?」


 鎧を着たトーアが私に尋ねる。

 昨日は酔い潰れていたトーアだが、さすがに今日までアルコールが抜けないなんてことがなくて一安心。酔って無防備になったトーアも好きだけれど、無防備過ぎて私が手を出しかねないのでしばらく酒は控えてもらうことになった。


「バーデイクは砂漠の街で、往復だと……クエストの時間も含めて四日くらいは掛かるかな。今日は森を抜けた先のアイルートっていう町までしか行けないと思うけど」

「そっか。もしかしたら、一回訪れた町かも」

「そういえば森の方から来たもんね」


 それから馬車に乗って、森の方へ向かう。馬車なんて久しぶりだけど、案外乗り心地がいい。

 三人でお菓子をつまみながら馬車に揺られていると、景色はマウマスの街並みから、森へと続く広大な草原に変わった。


 地平線まで続くのどかな草原にはモンスターの姿はなく、草食動物が呑気に草を食べている。

 しかしそんな光景はすぐに過ぎ、鬱蒼と茂る木々が視界を覆った。ここからはモンスターがいくらでも見れる。


「一応警戒しとくわ。エニロエもショートソードの準備しときなさい」

「うん。今日これを使うことになるのかな」


 奥に行くほどモンスターが増え、壮絶な縄張り争いを繰り広げる光景も見られた。

 そしてついに、


「こっち来てるわよ! しかも二匹も!」

「け、結構厳ついモンスターだ、ヤバいよトーア!」

「戦った方が良さそう」


 馬車程の大きさの狼が二頭、こちらへ迫ってきた。

 耳元まで裂けた口からダラダラと涎を垂らし一歩一歩地面を抉りながら近づいてくる狼に、馬車を降りたネウクとトーアは武器を構える。


「トーア、そっちは任せたわよ!」

「こっちは片付いた。手伝う?」

「ええっ!?」


 一匹の狼を一瞬で捩じ伏せたトーアは、のほほんとネウクに尋ねた。


「じゃ、じゃあエニロエと御者の人守ってて! こいつくらいなら私でもやれるもん!」

「分かった」


 トーアは馬車を背に、ネウクの戦いぶりを見守っていた。

 そしてネウクは、腰に携えた鞭を抜き、地面に叩き付ける。僅かに土埃が立ち、狼は低く唸りをあげた。


 ネウクの戦いの様子は一度見たことがあるが、なんとも彼女らしい戦い方だった。モンスターが可哀想になるくらいのいたぶりようだった。


「今日は急いでるし、最初から本気でいくわよ。ヴェノム・ヴェール――」


 ネウクが唱えたのは、武器に猛毒を纏わせる魔法だ。


「アハハッ、さあ! パーティーの始まりよおっ!」


 ネウクが鞭を振るうと、狼の毛皮に傷がつき、血が流れる。狼も応戦するが、鞭に足を絡められて全く反撃できていない。

 ネウクの一方的な戦いが続き、狼は身体中が血塗れになっていた。そして、ぐらりと、力なく地面に崩れ落ちる。口からは泡立った涎が漏れていた。

 げえっ、(むご)いや。


「ふう、まあ私だってこんなもんよ。……トーア程じゃないかもだけど」


 トーアと比べるのは、あまり意味がないと思う……。


「さて、行きましょうか」

「私冒険者としてこれでいいのかな」

「新米なんだからいいのよエニロエは」


 じゃあお言葉に甘えて守ってもらお。正直怖くて何もできそうにないね。

 その後は、モンスターに出会うこともなく、順調に道を進む。そして日が沈みかけた頃、ようやくアイルートの町に着いた。結構掛かったなあ。


「今日はここまでね。じゃあ、宿で酒盛りよ!」

「いや飲めるのネウクだけでしょ」


 キャッキャとテンション高めで、ネウクは酒屋に向かっていった。くっそ〜羨ましい。飲みたいよ私も。


「私たちは先に宿屋行っとこうか」

「あ、私、ちょっとこの町、見てみたい」

「それなら私も付き合うよ。お財布も持ってきてるしね」


 その漆黒の鎧はアイルートの町並みには随分ミスマッチだったけど、トーアは楽しそうだった。そんなトーアを見て私は表情を緩ませる。

 守りたい、この笑顔。兜で何一つ見えちゃいないんだけど。

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