げんかいエニロエ
結局ワイバーンの調査には向かう羽目になった。第一発見者である私たちにしか分からないことがあるんじゃないか、という理論でどうしてもとお願いされたのだ。
私は逃げてただけだしトーアは一撃粉砕しただけで、特徴だとかは覚えていないんだけど……今回は初めからトーアもいることだし、不安は少ないから渋々承諾した。今そのトーアは酔い潰れてるけどね。だから出発は明日。
調査する地点はワイバーンの現れた森ではなく、砂漠だ。なんでもあのワイバーンは元々森に生息するような種類じゃないらしい。デザートワイバーンという、本来は砂漠を住処にする種とのことだった。
調査では、デザートワイバーンがなぜ森にやってきたのかを探る。食糧が減ったとか、ワイバーン自体が増えすぎたとか……より強力なモンスターに縄張りを奪われたとか。最後のはぞっとするけれど、普段のねぐらを離れるには相応の理由があるはず。
「そのクエスト、私も一緒に行っていいかしら」
「あれ、パーティーはどうしたの?」
「少し休ませてあげたいのよ。私はまだ余力あるんだけど」
「そういうことなら」
戦力は多いに越したことはない。ネウクは経験も豊富だし頼りになるはず、それに遠出は人数が多い方が楽しい。砂漠は森を抜けた先にあるから、向こうの町に泊まることになるだろう。
昼食を摂り終え、私は会計を済ませる。会計の人が驚いた顔をしていて、ああ、私ってもうそういうイメージなんだと悲しくなった。わ、私だって、お昼代くらい払うんだからねっ!
「トーア、行くよー」
「んん……」
「無理そうね。おぶっていく?」
「じゃあ私が」
トーアが目覚める様子はなかった。本当に酒に弱いらしい。
口をモゴモゴ動かすトーアを背負ってみると、その体は見た目通り軽かった。ワイバーンを容易に屠る膂力はどこに秘められているのか、やはり不思議――
「うわっ!?」
トーアの白く冷たい腕が私を抱いた。おんぶするには必要な動作だとしても、驚いた。
……そして、抱きしめられたことによって体がより密着する。つまり私の背中に、柔らかな双丘が押し付けられる。服の上からだとあまり主張しなかったそれだが、この距離だと否が応でもその破壊力を発揮する。
ヤバい、クラクラする。鼻血出そう。
「エニロエ……あんた顔真っ赤よ」
「ま、まだ思春期でして……」
こんな状況で平静を保っていられるほど私は大人びちゃいない、私は成年したての十五歳なんだ。今だって耳元で繰り返される寝息に理性を奪われないように必死で耐えている。
本格的に限界が近づいてきた気がして、ネウクに替わってもらった。ああ、顔が熱い。悪いけどトーアには鎧の上で寝てもらおう。
「あんたホントに女が好きね。まさか私のことも狙ってん」
「それはないから大丈夫だよ」
「食い気味……それはそれでなんか嫌ね」
私はMじゃないもんで。
「それで、この後はどうするの? 良ければあんたの家で飲み直したいんだけど」
「禁酒中の私の家で酒を飲むなんて、そんなところでドS発揮されても」
「いやそんなつもりないわよ」
「んーまあいいよ。私も暇だしトーア背負って街中歩き回るのも変だし」
「よし、決まりね。じゃあ私お酒買ってくる、先行ってて」
ネウクはそう言ってスタスタと酒屋の方へ向かった。トーアを私に預けて……。
おんぶだと私が耐えられないから、肩を貸して、トーアに歩いてもらう。時々足を縺れさせながらゆっくりと歩みを進める。
「トーア、大丈夫?」
「うん、うん、大丈夫……大丈夫……」
トーアは意識もぼんやりしてるようで、会話もちょっと難しそうだ。こんな酒に弱い人初めてだよ。
家に着き、トーアをベッドに寝かせる。ふう、ちょっとの距離でも一苦労だ。
トーアを見れば、じっとりと汗をかいていて、赤らめた顔も相まって艶かしい雰囲気を漂わせていた。
……今この部屋には私とトーアしかいない。そしてトーアは極度の酩酊状態。多分、何をされても覚えていないだろう。
薄桃色の唇の間から僅かに吐息が洩れている。その吐息の温度を確かめるように、私はトーアと顔を重ねて――
「あんた何してんのよ」
「うひゃあっ!」
「まったく……あんまり寝てる人にちょっかいかけるんじゃないわよ」
助かったよネウク。一線を越えかけた。




