のみともネウク
「魔力がないって、そんなことあるの?」
トーアの告白に、私は驚く。
魔力は生き物が生きるのに必要な要素の一つだ。空気・水・ご飯・魔力、どれか一つ欠けたって生きていけないはずである。それに加え私は女の子が欠けても生きられない。
「確か、スキルの中には魔力を力に変換し続けるものがあるって聞く」
「へえ〜そうなんだ。じゃあトーアはそのスキルを持ってるんだ」
「……分からない。調べてないから……」
トーアは消え入りそうな声で言った。
「もし調べて、そのスキルを持ってなかったら……自分が何者か分からなくなっちゃう気がして」
「何者か……って?」
「私、記憶喪失なんだ。気が付いたら、この鎧を付けて、どこかの森にいた。トーアって名前も私の名前かは分からないけど、唯一覚えてたから、名乗ってる」
「そう、なんだ」
立て続けに衝撃の事実を告げられる。出会って二日目にするとは思えないカミングアウトだと思うけど、包み隠さず話してくれたのは嬉しかった。
鎧に掛けられた魔法の術者が知りたいのも、自分の過去に繋がると思ったからだという。そんな事情があるなら、私はいくらだって協力する。どれだけ力になれるかは分からないけど。
「ありがとう。それにもう助けられてるよ。エニロエがいなかったらダムさんにも会えなかったかもしれないし、泊まる家だってなかった」
「え、えへへ、えへへへへ」
「それに、私に話し掛けてくれたのも、嬉しかった。私はこんな姿だから、いつも怪しまれて……」
そりゃあこんな真っ黒なら怪しまれる……。この格好の人を街で見掛けて話し掛けようとは思わないだろう。私は女の子の匂いを嗅ぎ分ける鼻があるけれど。
私が照れ笑いをしてる間にもトーアはアルミラージを両手で捻るなどしていて、クエストはすぐに終わった。お肉もかなり取れたからそちらの金額も期待できそうだ。
「お疲れ様でした。トーアさんのおかげでエニロエさんの更生も順調そうですね」
「更生とか言わないでください!」
「ふふ。ではこちら、報酬とアルミラージの買取料金です」
クエストから帰還した。やはりそこそこの収入を得られ、ついにやける。うひひ。
因みに今私は一人だ、トーアはダムさんのところに向かっている。一日じゃまだ何も分からないんじゃないかとは思ったけど、やっぱり自分の過去に関わることだけに気になるらしい。
まだ昼を少し過ぎた頃だし、このままトーアと合流してどこか食べに行ってもいいのだけど、少し寄っていきたいところがあった。
「いらっしゃい! ってエニロエちゃんか、すごい隈だね。今日はどうしたんだい?」
「ちょっとショートソードを買おうかと」
訪れたのはノパエさんの武器屋。
私の今の得物はロングソードなんだけど、長いから使いづらい。重い。二日クエストに行って分かったけど、そんな長さはいらない。
今日のクエストの報酬はトーアと折半しても、一番安いショートソードくらいなら買える。
「エニロエちゃんも頑張ってるねえ。ほら、これでいいかい?」
「はい! がんばりますよ!」
お代を渡し邪魔しないうちにお店を出ようとした時、お店のドアが勢いよく開かれた。
「来たわよー!」
「わっ! ……なんだネウクか」
「あらエニロエ、来てたの?」
扉の向こうから現れたのは、先輩冒険者のネウクだった。
ネウクはそれなりの実力派パーティーのリーダーで、私の飲み友達だ。
「うん、武器を買いにね。ネウクは?」
「私のパーティー、ここと契約してんのよ。ノパエさーん、これ置いとくわよー?」
さすが実力派、お店と直接契約なんて。ギルドを介さない分報酬も良いと聞く。
装備もフォレストワイバーンの鱗や甲殻を用いた、若葉色が鮮やかなドレスアーマーである。これはパーティーで倒したものらしく、誇りらしい。トーアはワンパンで倒してしまったけれど、ワイバーンは強力なモンスターなのだ、本来は。
「さあて、久しぶりに飲もうかしら。エニロエも行くでしょ?」
「うんうん、行く行くー……って違う! 私は禁酒中だった……」
それにトーアの所にも行かないといけないし……。
「あんたが禁酒? 馬鹿言ってんじゃないわよ、一日だって出来るわけないじゃない」
「なんと、今日で二日目さ」
「そ、そんなっ……!」
ふっふっふっ、愛は人を変えるのだよ。




