まっくろトーア
「クエストの内容ですが――」
翌朝、私はギルドでクエストを受注していた。ファトゥスさんの丁寧な説明によると、依頼人はこの街の料理人で、今度の新メニューに必要な草食竜の卵が足りないのだという。だからそれの採取が今回のクエストとなるわけだ。
確かに、モンスターと戦う必要もなく、簡単で安全なクエストだ。私みたいなのにはうってつけ。
「ただ、気をつけていただきたいのが、同じく卵を狙うモンスターがいるということです。ゴブリンならまだしもワイバーン種のモンスターは危険ですから、慎重に」
「なるほど……」
決して楽な仕事でもないってわけかあ。気を引き締めないと。
それから支給されたバックパック型のアイテムボックスを背負って、ギルドを出た。そして徒歩で草食竜の巣へ向かう。街を出てしばらく歩けば大きな森があり、そこには目当ての草食竜含め様々な動物やモンスターが生息している。
森に入ると、すぐに卵が見つかった。近くに親の草食竜も、小型モンスターの姿も見当たらず、絶好のチャンス! 私はそそくさと卵をアイテムボックスに詰める。空間魔法によって、アイテムボックスの中は見た目以上のスペースがあるのだ。
ギャオー……
遠くから、モンスターの鳴き声が聞こえる。あー怖い怖い、声からして結構大きいモンスターだ。さっさと退散しよう。
と、立ち上がったところで、周りの様子がおかしいことに気がつく。というか、何故気がつかなかったのだろう。巣の周りには、草食竜のものと思われる、肉片のごとき無惨な死体がいくつも転がっている。そのどれもが大きな爪や牙で切り裂かれ、食い千切られたような痕跡があり、まだそこから血が滴っているのを見ると、犯人がまだそう遠くに行っていないことが窺える。あー……帰ろ。
「ギャオー!!」
「うぎゃあ!!」
木々を薙ぎ倒しながら、凶悪な面構えのワイバーンが現れた! 目線は真っ直ぐこちらに向けられ、口元からは鋭い歯が覗き……く、食われる……!
私は全力でその砂色のワイバーンから逃げる。が、ドラゴンの仲間であるワイバーンから逃げ切れるはずもない。バキバキと木のへし折れる音が近づいてくる。やだ! 死にたくない!
「グルルゥアァ!」
「やだー!」
ワイバーンの熱い吐息が背後に迫ると同時、何かが砕けた。建物が倒壊したような轟音、直後に凄まじい衝撃が地面を揺らす。
うひゃあ! と飛び上がって振り返ると、先ほどまでギラギラと殺意を宿していたワイバーンの目玉が地面に転がり、辺りは血の海になっていた。私の背中にも血がベッタリとついているらしく、服が背中に貼り付く。
「うぷ、うええぇ……」
あまりのグロさに、私はリバース。
「あの、大丈夫……?」
「へ?」
胃の中身を出しきった私に、優しく声を掛けたのは――
「怪我はない?」
黒いプレートアーマーを纏った戦士だった。禍々しいまでに黒い鎧は時々紫炎のような光を放っていて、その妖しげな様相に、つい魅入ってしまう。
「あの……」
「え? あっはい、大丈夫、です……んん?」
この戦士さん、女の子だ。兜で顔は見えないけど、声とか仕草は、私の愛する女の子だ。
「ちょっとお顔を拝見……」
「え、ええ!? ちょっと待っ」
兜のバイザーを開けると、やはり女の子――
「……可愛い」
「え?」
「可愛い! めっちゃ可愛い大好き!」
「おお落ち着いて、一旦、わ、わ」
慌てる表情もパーフェクト! 見れば見るほど見蕩れてしまう、そんなスーパー美少女が兜の奥には待っていた。
大きな瞳は紅く輝き、白銀の髪は初雪を思わせる。力強さと儚さが共存する、幻の様な少女だ。
「ふぅ、ご馳走さま」
「何が……?」
おっといけない、怪訝な顔をされてしまった。なにより命の恩人に対してやる行為じゃない。
「助けていただき、ありがとうございます。私は新米冒険者のエニロエ・ラグス。あなたも冒険者?」
「ううん、ただの旅人だよ。名前は……トーア。今はマウマスの街を目指してる」
「マウマス!? 私そこに住んでるから案内したげるよ!」
「あ、ありがとう」
ふふふ、こんな美少女とお近づきになるチャンス、もう二度と来ないだろう。絶対ものにしてみせる……!
「そうだ、これ持って帰らないと」
「ワイバーンの、鱗……? それをどうするの?」
「ワイバーンやドラゴンは討伐したらギルドに報告しないといけないの。その一体だけでも生態系に与える影響が大きいから、って」
ま、私が倒したんじゃないけど。
ワイバーンの鱗をアイテムボックスに仕舞って、私たちは街へ続く道を辿った。




