3 ダーク・ブラッド(ここまでの登場人物 一覧)
ここまでの登場人物。
【ジュルグ帝国】
ガルドラク・・・最強の人狼。別名【魔獣狩り】。
アウグスト・・・亜人ギルド【亜人の坩堝】の支配人。上級鬼人。
ザラチェンコ・・・ジュルグ帝国第八殲滅騎士団 騎士長。しかしその正体は・・・
ツァギール・・・ジュルグ帝国第八殲滅騎士団 副騎士長。美貌の剣士。
ゲルマン・・・ジュルグ帝国第八殲滅騎士団 副騎士長。巨躯の重騎士。
【ユリシール王国】
アニーシャルカ・・・王国ギルド十闘級魔法剣士。別名【雷刃】
ロイク・・・王国ギルド十闘級戦士。
バルガス・・・王国ギルド八闘級狩人。【犯罪集団ダムド】の一員。
【神樹聖都セイリーネス】
マエル・・・セイリーネスの使徒。天使と人間の天人。
イオセフ・・・セイリーネスの使徒。
【地獄に堕つ五芒星】
イビルヘイム・・・死霊魔導師。魔導を極めし者。
ベルゼーニグル・・・悪魔。蠅の王。
ジュリアーヌ・・・魔女。別名『獄炎の魔女』。
レヴィア・・・水精魔。水氷と海獣の支配者。
ザラチェンコ・・・魔人。冷酷無比な魔法剣士。
【竜殺しと殺戮の剣】
サツキ・・・No.11の異種族殲滅用生体兵器。王国ギルド十闘級戦士。
クシャルネディア・・・真祖最高階級【祖なる血魔】。一本目の殺戮の剣。
【竜血族】
黒竜ゾラペドラス・・・竜血族の頂点に立つ圧倒的存在。サツキの宿敵。
五統守護竜・・・黒竜を護る五体の最上級竜。
【名称のみ登場】
ギグ・ザ・デッド・・・暗黒の時代の悪夢。
「酒は何がある?」
その発言に
「やめておけアニーシャルカ」バルガスが横から釘を指す。「俺は仕事中は酒を飲まない。酩酊は本能を鈍らせるからな。だからといって俺の流儀をお前に押し付けようとは思わないが、しかし今回の仕事はレベルが違う。ひとつのミスが命取りになるかもしれない。だからこれは幼馴染としての忠告だ。この仕事が片付くまで素面でいろ」
「堅い野郎だな。少し酔ったくらいでわたしの腕が落ちると思ってんの?」
「酔っていようがお前が化け物なのは知っているが、俺は常に最悪の状況を考えている。ここは辺境の大都市ヤコラルフだ。多くの騎士が衛戍している。警戒するにこしたことはない」
「しょうがねーな」アニーシャルカはメニューを眺めボルシチを三人前注文する。「あとは酒の代わりに珈琲を一杯」
「なんでこんな都市に来たんだい?」
店員の後ろ姿を眺めながらロイクが聞く。
「この宿が闇ギルドの安全地帯だからだ」バルガスは周囲を見回す。暗い照明、美しい店員、豪奢な調度品。ここは宿に備えつけられた酒場だ。「あんたは闇ギルドに所属していないから知らないかもしれないが、世界各地にこういった場所が存在する。ここは主にデミ・シェイカーと地元の組織犯罪集団が経営していて、確かジェラルドも出資していたはずだ。莫大な賄賂と引き換えに、この宿はこの地の辺境伯に黙認されている。つまり騎士団は干渉できない。俺たちのような無法者からすれば何よりも安全だ」
「なるほど。闇市場にも色々あるんだね」
「これを気に裏の仕事に一枚噛むか?オメーならジェラルドも大歓迎だ」
「せっかくだけど遠慮しておくよ。それに私は貴族や王族からの依頼も多いから金には困っていないんだ」
「オメーは金持ちからの信頼が篤いねえ。わたしなんか貴族はおろか商人からすら名指しで依頼された事なんかねーよ。どいつもこいつも見る目がねー野郎ばかりだ」
「貴族がお前に何を依頼するというんだ」バルガスが冷やかす。「拷問か報復か虐殺、それくらいしか選択肢がない。お前は完全に裏向きだ」
「失礼な野郎だ。護衛なんて簡単だろ。近づく奴を皆殺しにすればいい」
「それほど単純な仕事じゃないよ」ロイクは苦笑する。「特に貴族は品位や礼儀にうるさいからね、服装ひとつとってもぐちぐち言われるよ。君じゃ耐えられないだろ?」
「一度自分の王国ギルド評価表を見てみろ。お前は人格評価が最低値だぞ」
「よってたかって乙女の心に傷をつけるんじゃねーよ。殺すぞ」
三人が軽口をたたき合っていると、酒場の扉からぞろぞろとガラの悪い男たちが入ってきた。十五、六人はいるだろう。彼等は三人の近くのテーブルに陣取ると、騒ぎ始める。酒を注文し、店員の尻を撫で、下卑た声で嗤い合う。店員たちは馴れているのか、酒を与え、適当にあしらう。酒の回った男たちはさらに騒ぎ始める。騒音に、アニーシャルカが舌打ちする。
「地元のマフィアのようだな」バルガスは男たちを見る。「俺も人の事をいえた身じゃないが、ずいぶんと下品な奴らだ」
「まったくだぜ。うるせーゴミどもだ。ここが第四区画だったら殺して即肉屋行き決定だ」
「おい、今ゴミと言わなかったか?」
耳ざといマフィアの一人が、険のある声をあげた。男は立ち上がり、三人のテーブルの前まで来る。荒事で鍛えられた屈強な大男がアニーシャルカを睨む。酒臭い息を吐きながら、恫喝する。
「姉ちゃんよ、今俺たちに向かってゴミと言わなかったかって聞いてんだよ」
「ハア?」アニーシャルカの眼が据わる。「おいおい、ゴミにゴミって言っちゃいけねえのか?自覚が無いみてーだから教えといてやるが、オメーの面は酷いぜ。ボコボコに殴られた小鬼みたいな顔しやがって、一丁前に人間気取りか?嗤わせんなよ。オメーはゴミカスだ。わかったら殺されないうちに席に戻るか家に帰るかして、毛布にくるまってガタガタ震えながらママのおっぱいでもしゃぶってろよ。ここまで理解したか?」
アニーシャルカの発言に、それまで面白そうに静観していた男たちも立ち上がり始める。三人を取り囲む。
「ちょっと言い過ぎじゃないかな」ロイクの言葉に「わざとだ」とバルガスが答える。「酒の代わりに他の事で楽しもうとしているんだ」
「喧嘩を売られた方はたまったものじゃないね」
「とはいえこの中でのいざこざは基本的にご法度だ」バルガスは立ち上がるとアニーシャルカと大男の間に入り込む。「アニーシャルカ、それにアンタも、安全地帯での諍いは各国闇市場の協定によって禁止されている。それを知らないほど素人でもないだろう。ここはアンタ等が取り仕切ってる縄張りだろう?確かにコイツは言い過ぎたが、俺たちも客だ。同業者のよしみで、どうか穏便に済ませてくれないか?」
大男はしばらく考えるそぶりを見せ「まあ、確かにそうだな」と納得する。
「その女が詫びのひとつも入れれば、許してやるよ」
「そりゃこっちの台詞だろ。汚ならしい声で騒いでたことを、まずテメーが詫びろ」アニーシャルカはバルガスを押し退け、大男を嘲笑する。「話はそれからだぜ」
大男の顔面が怒りに紅潮する。彼はアニーシャルカの胸ぐらを掴み、顔を近づけ凄む。
「口の汚ねぇ女だ。犯されてえのか?」
「安全地帯のもうひとつのルールを知ってるか?」いつの間にか、アニーシャルカは右手にナイフを握っている。「確かに争い事は禁止されてるが、手を出されたらその限りじゃねえ。何をもって手を出されたと解釈するかはソイツ次第だが、わたしの中じゃ胸ぐら掴まれるってのは、反撃するには十分過ぎるんだよ」
つまり、とアニーシャルカは嗤う。「殺されても文句はいえねえわけだ」
次の瞬間、アニーシャルカはナイフで男の股間を抉る。絶叫。血の小便が噴き出す。男は眼を剥き出し、錯乱し、アニーシャルカに掴みかかる。彼女は男の力を利用し、脚を蹴り払う。体勢を崩した男は膝から落下し、同時に彼女はナイフを上方に振り切る。血飛沫。自重により股間から鳩尾の辺りまでをバッサリ切り裂かれた腹から、ぬめった腸がぶち撒かれる。仰向けに倒れた男の下から、血が海のように広がっていく。
アニーシャルカは手の中でナイフを回しながら「たあいねえな」
「テメェ、やりやがったな。生きてこの宿を出られると思うんじゃねえぞ」
マフィアたちは大男の死体を前に気炎をあげる。一瞬で開かれた仲間の死体、アニーシャルカの鮮やかな手並みに怖じ気づかないその威勢のよさは大したものだが、しかし十闘級を前に恐怖を感じないのは勇気ではなく、無謀だ。匕首や棍棒を抜き放ち、彼等は雄叫びをあげる。
「やるしかなさそうだ」
「あまり気乗りはしないが、しかたないね。私も襲い掛かってくる暴漢に手心をくわえてやるほど優しくはないよ」
バルガスとロイクが立ち上がる。
「残りは何人だ?十四、五人か?三人で丁度五人ずつ殺せるわけだ。少ないがしかたねえ。数は守れよ」
「俺は三人ほどで十分だ。アニーシャルカ、二人譲ってやろうか?」
「ついでに私の五人も片付けてくれると助かるんだけどね」
「おいおい、自分のケツは自分で拭くもんだぜ」
「どう考えてもこれはお前の尻拭いたがな」バルガスの嘆息。「幼馴染とはいえ、毎度毎度どうして俺がお前のケツを持つハメになるんだ。俺を手下かなにかと勘違いしてないだろうな」
「バルガスくん、最近君の気持ちが少しずつわかるようになってきたよ。確かに彼女といるといらぬトラブルに巻き込まれるね」
「トラブルこそ人生だ」アニーシャルカは向かってきた男の首をナイフで撫で斬り、噴水のような血飛沫を避ける。「刺激がないとやってられねえだろ?」
三人が軽口を叩き合いながらマフィアに手をかけようとしたその時
「騒がしいな」
ざらついた声が酒場の入り口から聞こえ、サツキが姿を現した。ただでさえ物々しい室内の雰囲気が、一瞬で張り詰める。それは突然の闖入者のせいか、あるいはサツキの異質な気配によるものか、どちらにせよ全員の視線がサツキに集中した。「何をしている」サツキはアニーシャルカたちのテーブルへ歩み寄る。その歩調は、目の前で武器を抜く集団を感じさせぬ、淡々としたものだった。
「帰ってたのかよ。ずいぶんと遅かったな。何か収穫でも?」
アニーシャルカが言う。
「魔獣狩りの痕跡を追っていた」サツキは感情を排した声で答えた。現在フューラルド地方の各地で殺戮が巻き起こっている。サツキは様々な虐殺領域を訪れ魔獣狩りの行方を追った。だが、それらは全て「徒労に終わったがな」
「そりゃ残念だ」
平然と喋り始めるサツキとアニーシャルカの姿に、マフィアたちが苛立ち始める。サツキの圧威に気圧されながらも、男たちは敵意を剥き出しにする。すでに仲間を二人も殺されている。それも一瞬で、だ。アニーシャルカが相当の実力者だと、彼等は気づきはじめている。だがマフィアが仲間の仇を討たないとあっては、組の名前に傷がつく。そういう噂は瞬く間に広まり、そうなれば組の力は弱体し、敵対組織に、亜人の坩堝のような闇ギルドにこの縄張りは完全に奪われるだろう。もはや退くことは出来ない。
しかし、どんな理由があろうとサツキに敵意を向けてはならない。それも、ただの人間が。
男たちの身体が硬直する。身動きがとれない。指の一本さえ動かせず、瞬きすら許されない。魅惑眼。サツキの傍らに黒い霧が凝集し、そこから『ずるり』と蒼白い美貌が現れる。残忍な蒼い瞳が男たちを射ぬく。クシャルネディアの登場により、室内が底冷えしたように静まる。彼女の眼光は、ただそれだけで人類にとてつもない恐怖を与える。
「私の眼前でサツキ様に敵意を向けるなんて、天使の前で神を冒涜するくらい滑稽なことよ」クシャルネディアは一人の男の頬を撫でる。それだけで男は小便を垂れ流す。微笑み、クシャルネディアは男の首筋に人差し指を突き立てる。泥に沈むように、彼女の指は男の肉にめり込む。サツキから見れば肉体強度の低い祖なる血魔であるが、それでも素手で人間を引き千切るなど造作もない怪力を有する。指を引き抜くと、クシャルネディアは血を舐める。「不味い血ね。私の食用としては不合格だけれど、でも安心していいわ。どのような存在にも使い道というものがあるの」
クシャルネディアはサツキを見ると「この者たちを頂いても?」
「好きにしろ」
サツキは椅子に腰かける。
「我等が女王は、そいつ等をどうするつもりなんだ?」
バルガスの問いに
「餌よ」クシャルネディアは嗤う。「私の奴隷魔物がお腹を空かせているの。特に黒鎧がね」
クシャルネディアが指を鳴らすと、空間に亀裂が入る。上位闇魔法【永えの檻】。その奥から大顎脚を打ち鳴らす残酷な音が響き、黒光りする外骨格が蠢く。次の瞬間、数匹の黒鎧百足が這い出し、男たちに絡み付く。あまりにもおぞましい状況だが、クシャルネディアの魔力に縛られている彼等は声をあげることさえ出来ない。無言のまま食われていく。静寂を破るのは大顎脚が肉を裂き、骨を砕き、臓物が床を汚す音だけだ。噴き出す血潮は血霧となって室内を赤く染め、肉体の残骸は血の海を漂う。クシャルネディアはその光景を心地良さそうに眺めている。鉄錆の匂いは彼女の食欲を刺激し、その面貌が獣となる。これが血魔だ。どうあろうと人間とは相容れない、血の化け物。ならばそれを従えるサツキは、やはり鬼神か。
「酷い光景だ」バルガスは眉をひそめる。「食欲が無くなってきた」
「確かにな。今まで見た中でもかなりヘビィな食事風景だぜ。わたしでもあそこまで酷い拷問はしたことがねえよ」
「料理はキャンセルしようか」
そう話し合う三人だが、彼等もことさら堪えた様子を見せない。多かれ少なかれ、地獄は経験済みだ。とりわけ禁足地で。
「魔獣狩りの居場所はわかったのか?」
サツキの問いにバルガスが首を振る。
「これといった手がかりは見つからなかった」
「そうか」
まあいい、とサツキは呟く。「時が来れば、どうせ俺の前に現れる」
「なぜ、そう言い切れるんだい?」とロイク。
「奴が魔狼月牙隊の血を継いでいるからだ」
それは論理的な根拠ではない。本能的な感覚だ。魔狼月牙隊と刃を交えたものにしかわからない、狼王の牙を受けた者にしか理解できない、魂の感覚だ。これまで魔獣狩りについて得た情報から察するに、ガルドラクは必ずサツキの前に現れる。飛竜を喰らい、強敵を求め、自らを最強と自認する月の狼。狩りと殺戮に生きる戦闘狂。それはつまり、魔獣狩りとサツキは部分的に重なるということだ。差異はある。鏡写しというわけではない。それでも、ガルドラクが死闘を、【最強の敵】を求めるのだとすれば・・・強大な魔力は強大な魔力を引き寄せる。魔獣狩りの果てに待ち受ける存在、それは鬼神をおいて他に誰がいる?
「それが理由かい?」
「月の狼とはそういうものだ」
「君と魔獣狩りの闘いは、ぜひ見てみたいね」
サツキは口元を歪める。
「俺と人狼の闘いが始まったら、お前等に出来ることは、ただひたすらに逃げることだけだ」サツキは腰から魔剣を引き抜く。「もし魔獣狩りが噂通り魔狼月牙隊に、そして狼王ボロスに匹敵する力を持っているなら、俺としても敬意を払わなければならない」
「敬意?」
「本気で相手をする」サツキの赤い瞳が獰猛に唸る。「そうなった場合、この地は地図を書きかえることになる。お前等に観戦している余裕などない」
サツキはそう嗤うと、あとはクシャルネディアの演出した惨劇に興ずるだけだった。
「やあレヴィア」
ザラチェンコは呼び掛ける。果てしなく広がる凍湖、彼方には白い山脈が連なり、零下の空に月は凍る。
「レヴィア」
二度目の呼び掛けと同時に湖面の分厚い氷にヒビが入り、内側から爆発する。水が噴き上がり、大小様々な氷片がザラチェンコに降り注ぐ。海巨触の触腕が夜空に伸び、次の瞬間、凍湖に叩きつけられる。何もかもが一瞬で砕け散る。
「何回も呼ぶな。聞こえてんだよ」
触腕に腰かけたレヴィアが、湖の中から現れる。普通の生物ならば凍死するであろう水温、だが水魔精とその奴隷魔物からすれば心地よい。彼女の濡れた身体から魔力が滲む。ただでさえ巨大なレヴィアの魔力が、さらに膨れ上がっている。血魔が血液から魔力を吸収するように、水魔精である彼女は海や湖で生成される水の属性を自分の物にすることができる。これは水生種族の特殊能力であり、巨海獣などにも備わっているが、しかし広大な湖の魔力をほぼすべて吸収しきれるのは超越魔物である彼女くらいであろう。
「ずいぶんとやる気に満ちているな。後学のためにひとつ聞きたいんだが、腕を斬り落とされるというのは、一体どういう感覚なんだ?やはりこう、屈辱的なものなのか?それとも恥辱かな?」
「お前の無神経な軽口にはうんざりだ。殺してやりたいが、海竜の仇が先だ」レヴィアは憎悪に燃える眼でラチェンコを見据える。「あの狼はどこにいる?」
「さあ?」ザラチェンコは笑う。「どこかで精神集中でもしてるんじゃないか?ガルドラクは自分のお眼鏡にかなった獲物が現れると、飢餓感と闘争心を極限まで研ぎ澄ましてから狩りに出る。なんと断食するらしい。イカれたルーティーンというやつだ。ガルドラクがどこに引きこもっているかなど、俺が知るはずもない」
「じゃあどうすんだよ。僕の復讐を抜きにしても、あの人狼は殺さないとまずいだろ。地獄に堕つ五芒星からすれば、魔獣狩りは邪魔すぎる」
「考えたんだが、わざわざ俺たちがガルドラクの元に赴く必要はない。こちらから招待しよう」
ザラチェンコの言葉にレヴィアは首をかしげる。
「この地方にはヤコラルフという街があってね、その中にレオニード辺境伯の城館がある。俺は侯爵に用があってね、これからヤコラルフに向かうんだが、この街が辺境にしてはなかなかの都会でね、フューラルドでは最大の街だ。人が腐るほどいる」ザラチェンコは一拍間を置き、また喋り始める。「ガルドラクは頭のイカれた獣だ。血肉を好み、戦場を愛する。奴を誘き出すのは簡単だ。大量の死体で城を築き、流れ出る血潮で城壁を塗りあげればいい。ククッ、俺にしてはなかなか詩的な表現だな。まあ、簡潔にいうと、虐殺だ。俺たちで辺境都市ヤコラルフを潰す。するとどうだ?ガルドラクが現れる」
「なるほど」
「楽しそうだろ?」
「ハデでいいね。そういうのが好きなんだよ」
レヴィアの全身から巨海獣の咆哮があがる。
「みんなも楽しみだってさ」
「それはよかった」
ザラチェンコ両腕を広げ、高らかに笑う。
「それじゃあ、ヤコラルフに向かい、地獄を作るとしようか」
「ああ、今度こそあの野良犬をぶち殺してやるよ」
水魔精は復讐に燃え、魔人は軽薄に嗤った。




